262 リガルの暴走 (リゲル視点)
リガルの奴は最低だ。
奴は狩りで得た獲物を優先的にゴブリンファイターたちに流して歓心を買い、自分の派閥に組み込んで、力を強くしている。
村でファイターたちが団結してしまえば、それに抗えるものはいなくなる。
だけど、それだけでは飽きたらず、奴は自分の父親である村長を部下のファイターに殺させた。
「いいか、今日から村長は俺だ。当たり前だが、文句がある奴はいないよな」
「……」
この村の武力集団はリガルが自派に組み込んでいるので、誰も文句なんて言えるわけがない。
力のあるやつが正義。なんて言うつもりはないが、力を持っているということは、他の者が逆らうことが出来なくなってしまう。
そして、リガルは父親殺しだけに留まらない。
「見るがいい。こいつが"俺の村"に新しく加わったトロールだ。言っておくがこいつ1匹で、お前たちゴブリンなんて圧倒できる。例え百体で戦っても、ゴブリンじゃ勝てないからな。カカカッ」
トロール。
前世のゲームの知識にあったけれど、巨大な肥満体の人間、それとも鬼と言うべきか?
とにかく、俺たちゴブリンとは体型の全く違う、巨大な化け物を、リガルはいつの間にか従えていた。
「こいつは俺の手下だ。分かっていると思うが、俺に逆らうってことは、このトロールが敵になるってことだからな」
――バキッ
リガルは言葉で脅し付けるだけでなく、その後トロールに村の近くに生えていた木を、拳で叩き折らせるパフォーマンまでさせた。
木はメキメキと音をたてて倒れてしまい、その怪力にオデもゴブリンたちも沈黙してしまう。
トロールなんて、ただの2足歩行する豚。間抜けな顔をしていて、神経が鈍く、オークの親戚みたいなものだと、前世では思っていた。
だが、こうして実物を見ると、オデたちゴブリンとは力が全く違う化け物だ。
武器があっても、ゴブリンが1人、2人いた所で、歯が立たない相手だと理解させられる。
それにしても、
「リガル、そのトロールは一体どうやって手下にしたんだ?」
「森の中にトロールガキが1人でいたんだが、そいつは俺のことを親だと勘違いしたようでな。村の連中に秘密にして、こっそり育てて、こうして手下にしたわけよ。クククッ」
「そ、そうなのか」
リガルの奴、刷り込みでトロールを手下にしたのかよ。
こいつって、実はモンスターテイマーもできるんじゃないか?
しかし、元々憎らしい奴にトロールなんて化け物級の戦力までついてしまった。
オデはリガルに従う振りをしながらも、一方では作った武器の一部を、リガルに反対しているゴブリンたちに行き渡らせようと横流ししていた。
面従腹背。
オデ一人ではリガルに逆らえないけど、集団になれば話は別だ。
ゴブリンウォーリアは確かに強い。
それでも村のゴブリンたちが武器を持って団結すれば、数の少ないウォーリアを追い出して、リガルを村から追放することだって不可能じゃないはずだ。
だけど、トロールが出てきたことで、オデの目算が狂ってしまう。
「おい、トロールのために飯を用意してやれ。俺に逆らおうなんて奴はいねえだろうが、ダメゴブリンどもに飯を喰わせるくらいなら、こいつに喰わせた方がいいからな」
リガルの奴はトロールの食糧のため、自分対して反抗的なゴブリンたちへの食料供給をさらに減らすのだった。
トロールは2足歩行をする巨大な豚。
その見た目にたがわず、この化け物はオデたちの村の食料をバカバカと食っていった。
その負担は、食料を減らされたゴブリンたちへいく。
「こんなんじゃ、下層に追いやられたゴブリンたちが飢え死にしてしまう」
リガルの支配がこのまま続いていけば、村が滅茶苦茶になってしまうのは確実だった。
だけど、リガルの暴走は止まらない。
実の父親を殺してゴブリン村の村長になったリガルは、トロールを手下にしたことでさらに気が強くなってしまった。
オデたちが住んでいる森の中には、実はオデたちの村だけでなく、他にもゴブリンの集落がいくつか存在している。
ただし同じゴブリン同士と言っても、互いの村の関係はよくない。
というか、敵同士だ。
ゴブリンが自分の住んでいるのとは別の村に行けば、殺されてしまうことがよくある。
そして時には互いの村で争いになって、戦争になることもあった。
この戦争が起きる原因は、主に食料を巡っての縄張り争いだ。
縄張りに侵入した他の村のゴブリンがいれば、その村に対して戦争を仕掛け、無理やりにでも追い出す。
ゴブリン村の食料を確保するには、ある程度の広さの縄張りが必要で、他村のゴブリンに縄張りに侵入されては、食糧事情から困ったことになってしまう。
侵入を許していれば、最悪縄張り内の食料を一方的に収奪され、村が餓えてしまうことになる。
餓えないためには、縄張りから侵入者を、実力で排除する必要があった。
それがエスカレートして、時には村同士の戦争にまで発展してしまう。
そしてリガルは、ゴブリン村の縄張りを広げるため、他の村に対して戦争を仕掛けるようになったのだ。
「なーに、この村にはゴブリンファイターがいて、リゲルの作った武器と防具がある。おまけにとっておきの戦力であるトロールもいる。他の村の連中なんて、恐れる必要すらない」
「「「ウオオオーーーッ」」」
「リガル!」
「リガル!」
「リガル!」
リガルの戦争宣言に、ゴブリンファイターたちは沸き立ち、奴の名を連呼して叫んでいる。
戦争を仕掛けるというのに、どうしてそんなに喜んでいるんだ?
リガルの狂気染みた思考が、ファイターたちにまで感染してしまったかのようだった。
そして実際に他の村と戦争になるのだけど、戦争の結果は一方的。
「男どもは皆殺しにしろ。女は奪って"俺の村"へ連れて帰るぞ」
「おおおーっ」
他の村では、オデの住んでいるゴブリン村の軍勢に抵抗することが出来ず、あっさり村を落とされてしまう。
武器の有無、進化、そしてトロール。軍事的な差があまりにもありすぎた。
そして言葉通り、奴は他の村の男たちを殺し、メスゴブリンは村へと連れて帰った。
その後村で、論功行賞をする。
「今回の戦いで活躍したお前たちには、メスゴブリンを与える。このメスで、お前の子供をどんどん増やしていけ」
「リガル、ありがてぇ。ウヒョー、女だー!」
メスゴブリンを戦争の褒美として与えられたゴブリンファイターは、興奮の雄たけびを上げる。
リガルがファイターに与える餌に、食料だけでなく、メスゴブリンにまで加わったわけだ。
胸糞悪い。
女がまるで道具扱いだ。
……でも、家に帰ったらオデも母ちゃんに甘えたい。
だが、今は妊娠して腹が大きくなってるので、口付けと胸を触るくらいしかできない。
ああ、早く子供が生まれないかな。
子供が生まれないことには、毎日の夜が寂しくてつらい。
リガルの奴は胸糞悪いけど、オデも大概頭がゴブリン思考になっちまってるな……
この後も、リガルは他のゴブリン村に戦争を仕掛け、周辺の村を次々に攻め滅ぼしていった。
各村にいたオスゴブリンは皆殺し。
一方メスゴブリンたちは、捕虜としてゴブリン村に連行し、ファイターたちの妻として分配していった。
オデがゴブリンに転生して分かったことだけど、ゴブリンのメスはオスに比べて圧倒的に数が少ない。
メスゴブリンを妻にできるかは、オスゴブリンにとっては、かなり倍率の高い競争と言えた。
メスゴブリンを妻にできる。
それはゴブリンたちにとって、食料を得られることに並んで、大変に名誉ある事とされた。
妻がいることで、自分の子孫を残すことが出来るようになる。
当たり前の生物の行動だけど、人口比の関係で妻を持てる押すゴブリンの数は少なかった。
そんな妻を与えてくれるのだから、ファイターたちのリガルに対する忠誠は、圧倒的なものになっていった。
ゴブリン村は、もはや完全にリガルの支配する村となっていた。
ただその裏で、ゴブリンファイターへ進化できないただのゴブリンたちは、食料の供給量を減らされ、奴隷のような扱いをされ、こき使われるばかりだった。
この村は村長リガルと、その支持勢力であるゴブリンファイターたちを除けば、あとは奴隷にされたゴブリンたちがいるだけ。
オデは鍛冶が出来ることでリガルに重宝されて、いい待遇を与えられている。
でもこのままリガルの専横を許し続ければ、オデたちに未来があるとは思えない。
少なくとも、オデは貧しくても食料を平等に分け与えていたころのゴブリン村に、また戻ってほしいと思っている。
いや、思うのではなく、行動をしなければならないのだ。
お知らせ
『異世界転生したら七つ子の竜人兄弟だった』ですが、またしばらく更新を停止します。
再開の時期については、今のところ未定ということで。
そしてドラゴニュートとは別に、新しく『勇者召喚された魔界のプリンスです』という話を公開しています。
興味があるようでしたら、どうぞ~




