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異世界転生したら七つ子の竜人(ドラゴニュート)兄弟だった  作者: エディ
第6章 (仮題)ドラゴニュート兄弟とゴブリン村
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261 ネームドのリガル (リゲル視点)

 前世では当たり前のように誰もが名前を持っていたけど、ゴブリン村では名前を持っている者はかなり珍しい。


 まず転生者であるオデは、この世界に生まれた瞬間から"リゲル"という名前を持っていた。

 だけど父ちゃんも母ちゃんも、そしてたくさんいる兄弟や息子娘たちは、名前を持っていなかった。


 オデの家族だけでなく、最全盛期には1000人にまで膨れ上がったゴブンリ村の中でも、名前を持つゴブリンはほとんどいない。

 前の村長も、今の村長も名前は持っていない。


 オデは転生者ということもあってだろうが、そういう意味でレアな個体だった。

 名持ち(ネームド)は、名無しのゴブリンと比べると、何かしら優れた点があるのが普通だ。


 まんまゲームのような世界だと思ってしまう。

 もっとも、ゴブリンの人生は生きるか死ぬかの連続なので、ゲームの様にのんびりできない。

 あるいは、RPGの雑魚モンスターらしく、毎日が死と隣り合わせと言うべきか。



 それはともかく、オデは転生者という他のゴブリンたちと違う点があることで、村では鍛冶師となって活躍した。

 他にも村にごく少数いたネームドのゴブリンたちも、何かしら優れた能力を持っていた。


 そしてネームドが優れているのなら、当然名無しのゴブリンに名前を与えて、ネームドにすればいいという考えに行きつく。


 だけど、名無しのゴブリンに名前を付けようとしても、なぜかうまくいかない。


 前世の基準を持つオデからすれば、血の引くような気味悪さなのだけど、前世で当たり前にできることが出来なかった。

 オデの兄弟にも子どもにも、名前を付けることが出来なかったのだ。


「おい、お前、息子、ゴブリン村のゴブリン」

 名前を付けようとしても、なぜか口からそんな言葉ばかりでて、名前が出てこない。

 それどころか、兄弟にどういう名前を付けようとしていたのかさえ、忘れてしまう。

 まるで頭の中の記憶が、真っ白に消されてしまったかのように。


 恐ろしいことだった。

 まるで自分の頭の中を、何者かによって弄くられ、記憶を消されているかのようなおぞましさ。

 この世界がオデの住んでいた地球とは、全く異なる法則(ルール)によって動いている。気味の悪い世界だ思わされた。


 しかし、それだけネームドには価値があるということだろう。


 そして気味が悪いと思っても、オデはこの世界で生きていくしかなかった。

 何しろ転生して、この世界で生きているのは、オデの意思でしたわけじゃない。

 それに「だったら死ねばいいのか?」なんて、極端な結論を選ぶ気は毛頭ない。


 それにこの世界の全てを嫌いになれる程、オデはこの世界を嫌ってはいなかった。


 少なくとも、村にいる数少ないネームドゴブリンの1人、リガルが騒動を起こすまでは。




 リガルの奴は、前世の記憶もちの俺とは違う。

 だけど、ゴブリンにしては頭のいい奴だった。


 狩りに出れば、隊長として他のゴブリンたちを率いることができ、的確な命令を出すことが出来る。

 リガルが狩りを率いると、効率的な狩りが出来るので、多くの獲物や果物を収穫することが出来た。


 狩りでの成果が多くなるので、村のゴブリンたちは、ネームドのリガルを特別視していた。

 ゴブリン村は原始人の集落みたいなものだから、狩りでの成果を多く出せれば、それだけで他の存在よりも上とみられる。


 リガルは腕力は他のゴブリンと同程度でも、頭がいいおかげで狩りが上手くいく。



 オデにしても、村のために狩りで成果を多く出してくれるリガルのことを、頼もしく思っていた。

 そう、リガルは"村のため"に働いていると思っていた。


 だけど奴の頭の良さは、狩りで発揮されるだけでなく、今回の移民で混乱していたゴブリン村を、流血沙汰で無理やり治める方向にも発揮されたわけだ。


 奴は他の仲間のゴブリンたちを殺すことを、平然と命令したのだ。

 それに従ったゴブリンファイターたちもだが、リガルの一派は狂っていた。




 リガル一派によって、移民派のゴブリンたちは一掃された。

 オデの扱いを巡って対立していた3派の争いはなくなったけど、かわりにゴブリン村の村長はリガルの父親。

 そして3派の争いを力づくとはいえ解決したリガルは、それをいいことに幅を利かせるようになっていった。


「いいかリゲル、俺たちのために武器を作るんだ」

「……分かっている」

「お前はこの村で唯一鍛冶が出来るゴブリンだ。だからお前には、特別贅沢な生活もさせてやろう」

「……」


 リガルは、ゴブリンにしては頭がいい。


 こいつは、オデたちの中から進化したゴブリンファイターを集めて組織し、そいつらに優先的にいい食料を与えている。

 "有能"で自分に従うのであれば、それに見合った報酬を与える。


 この村での報酬とは、食べ物の事だった。


 でも、

「お前たちみたいに戦えないゴブリンどもは、飢えて当然だ。悔しければ進化して、俺の役に立てるようになることだな。カカカカカッ」

 一方で従っていても、"有能でない"ゴブリンに対して、リガルは冷たい。


 ただ態度が冷たいだけでなく、狩りで得た食料の分配を減らして、意図的に差別していた。



 そして最後に、リガルに対して従わないゴブリンに対しては、容赦がない。

「俺はこの村で村長の次に偉いんだよ。そんな俺に逆らうってなら、どうなるか分かってるんだろうな。クククッ」

 そう言い、奴は手下のゴブリンファイターをけしかけて、逆らう奴らに暴力を振るう。


 ただのゴブリンでは、ゴブリンファイターに勝つことなんてできない。

 一方的な暴力を受けて、無理やり従わされるだけ。

 しかも、与えられる食料はわずか。



「この村では、誰もが平等に食べ物を分け合っていたのに、リガルのせいでそれが終わってしまった」


 リガルの奴は、自分の派閥を作っている。

 優秀な戦力であるゴブリンファイターたちには、いい待遇を与えて、自分の味方に引き入れる。

 まるで"貴族"のような扱いだ。


 そして優秀でなくても、従うゴブリンたちに対しては、"平民"のような扱い。


 逆らう相手は、"奴隷"のように扱った。



 リガルはこの村の中に、階級社会を作っていってる。

 今までの平等でいたゴブリン村は、リガルによって終わりを迎えてしまった。



 オデはそんなリガルの奴を心の中で憎く思いながらも、逆らえなかった。

 あいつはゴブリンにしては頭がいい。

 オデの弱点が家族にあることを分かっているから、オデがリガルに逆らうのは、家族が危険にさらされるということだ。


 オデもゴブリンに転生して、この村で生活してきた。

 だから病気やモンスターとの戦いで、ゴブリンがよく死ぬのを知っている。その中には、オデの家族だってたくさんいた。

 残念だけど、オデが鍛冶をして武器や防具を揃えても、それで誰もが犠牲失く狩りをできる程、ゴブリンのオデたちは強くない。

 病気だって、完全には防げない。


 その死んでしまう者の中に、家族がいることもよくある。

 ゴブリンに転生したオデは、そんな自体に、残念だけどもう慣れてしまった。


 でも、だからと言って、無駄に家族を殺されるわけにはいかない。


 たった7年生きられるか分からないゴブリンでも、死ぬまでには精一杯に生きて、それで死ぬべきだ。

 なのにリガルに逆らって、それで殺されてしまうなんて末路には、絶対にさせてはいけなかった。

 少なくとも、家族にそんな目に合って欲しくない。


 だから、オデはリガルの奴が気にくわなくても、奴に従って武器や防具を作り続けることにした。


 強者に尻尾を振るだけの弱者の生き方だけど、それでもオデは家族を守るためなら、それぐらいする。




 だけどリガルの奴は、俺が思った以上に知恵が回った。


 リガルは、ゴブリンが進化するためには、狩りでモンスターを倒すことが必要だと理解していた。

 オデがリガルから直接聞いたわけじゃない。


 だがリガルが狩りの旅に連れていくのは、ゴブリンファイターばかり。


「こいつらは普通のゴブリンどもよりも強い。だから、こいつらに狩りをさせた方が死ぬ奴が少なくていい」


 口ではリガルはそう説明していた。

 でも、実際には自分の派閥に属しているゴブリン以外を、進化をさせたくないのが本音だろう。


 自分の敵になる奴を強くしない。


 そうすることで、自派の力を維持しようという目論見を持っている。


 他のゴブリンたちはバカなので、そんなリガルの本音に気づいてないけど、オデはリガルのやっていることを見て、すぐに分かった。


 それに奴は、ゴブリンファイターを狩りの主戦力にしていても、たまに普通のゴブリンも伴っている。


「こいつらは狩りでの荷物持ちだ。ファイターだけだと、獲物を持ちきれないからな」


 口でそう言いつつも、リガルの連れていくゴブリンたちは、奴に対してお追従をして、いつもご機嫌捕りをしている連中だった。


 現在いるファイターだけでなく、自分に忠実なゴブリンたちにも狩りをさせて、それで進化することを目論んでいる。


 リガルの奴を嫌な奴だと思っていたけど、奴はゴブリンらしくないほど、頭のいいゴブリンだった。

 ただその頭の良さが、悪知恵にしか働いていなかった。

 それもただの浅知恵でなく、質の悪い悪知恵だ。


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