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異世界転生したら七つ子の竜人(ドラゴニュート)兄弟だった  作者: エディ
第6章 (仮題)ドラゴニュート兄弟とゴブリン村
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254 オデ、リゲル。ゴブリン。(リゲル視点)

 俺の名前……俺の名前は……名前は……リゲル……オデの名前はリゲル。


 ――ギギャーッ


 オデがこの世界に生まれた時、目の前に化け物の顔があった。

 裂けた口にギザギザの歯、尖った耳、醜い顔だ。人間とは思えない大きな目玉をしているが、愛らしさなんてものは全くなく、ひどく赤く充血している。

 そしてその体は、オデと比べ物にならないほどでかい。


「な、なんだお前、オデを食う気か!」

 化け物が目の前にいれば、目的は決まっている。

 オデを食うこと。


 ――ギギャーッ

 そんなオデの声を無視して、目の前の化け物は笑った。


 ……ヤバイ、オデ、化け物に気に入られてる!


 このままオデは手を齧られ、足を食われ、すぐ死なないよう、目の前の化け物によって、ゆっくり食われて行くのではないか。

 そしてオデが、正気を保てなくなって発狂してしまう様を見て楽しもうとしている。


 目の前の化け物は、そんなことを期待して笑ったのか?


 オデは、恐怖した。


 だけど、化け物はオデの考えなど気にも留めない。


 ――ギャ、ギャー

 ――ギャー

 ――ギャギャン


 そんなオデの耳に、さらに化け物たちの鳴き声が聞こえてきた。

 一体何なのだ?

 オデの耳元から化け物どもの声が聞こえてくる。

 それも1体、2体なんて生易しい数ではない。


 顔を横に傾けてみれば、化け物にそっくりな化け物どもがいた。

 大きさは今のオデと同じぐらいだから、人間サイズなのか?


 巨大な化け物によく似ているが、ただもっと幼く、そして小さかった。


 つまり、こいつらは化け物の子供だ!


「い、嫌だー。オデは、化け物の子供に喰われる餌じゃない!」

 あまりの光景にオデは耐えられなくなって、叫び声を上げた。


 上げたつもりだったが、オデの声はあろうことにも、『ギャー、ギギャー』という、化け物と同じ声だった。


「い、一体何がどうなっているんだ!?」

 そう、喋りたい。

 だけど、出てくる声は「ギャー」という、人とは思えない醜い声。


 全く訳が分からない。


 そして嫌な予感がする。

 オデは試しに自分の腕を持ち上げて、自分の腕を見た。


 その腕は人間とは思えないほどに細かった。

 ガリガリに痩せた腕。

 そして人間の指よりも長い指。

 手には節くれがあって凸凹していて、爪は鋭く伸びている。


「ま、まさか、お出は化け物になっちまったのか!こ、これは悪い夢だ!夢なら、頼むから早く覚めてくれ!」


 ――ギャー、ギャギャギャギャ!

 だけどいくら叫んでも、オデの声は化け物の醜い声にしかならない。


 そしてあろうことに、目の前にいた巨大な化け物が、オデにのしかかるように体を動かしてきた。


「ヒイッ、潰される!」

 と思った。


 だが、オデの目の前には化け物の胸があった。

 その胸には複数の乳がある。


「はあっ?」

 全く意味が分からない。


 だけどその複乳に向かって、オデの傍にいた小さい化け物どもが一斉に群がり、乳に吸いついていった。


 これが意味することはなんだ?

 化け物が、自分の子供に乳を与えている。

 子供たちは、母親の乳を飲んでいる。


 そんなことは分かる。


 だけど、どうしてそこにオデまでいるんだ?


 それにオデは、物凄く飢えていた。


 ……

 オデは本能からくる飢えに逆らえず、目の前の乳に向かってむしゃぶりついた。

 強烈な飢えに刺された本能が、それをしろとオデの理性をぶち破って、命令してきたからだ。




 それから何日か経つ。

 オデは、ゴブリンだった。


 いや、気が付いたらゴブリンになっていたというべきか?


 不思議なことだが、オデにはここではない世界にいた記憶がある。

 そこではオデは、何かをしていた。

 その世界で生きていた記憶はあるのだが、ただ霧がかかったように漠然としていて、その全てをハッキリと思い出せない。

 ただ時折自分の考えの中で、その世界での出来事が、徐に思い出されることがある。


「父ちゃん、母ちゃん……」

 輪郭すらはっきりしない、前の世界での親の事を考える。


 ――ギャーッ


 だけど、かわりに返事をしたのは前の世界の両親でなく、巨大なゴブリンだった。


 この世界での、オデの母ちゃんだ。


「腹減った……ムガッ」

 ゴブリン語?というのかは分からないが、オデがそんな気持ちを込めてギャッと鳴けば、それに応じてゴブリンの母ちゃんが、オデの口に乳を押し付けてきた。


 ――ゴクッ、ゴクゴク


 母ちゃんは無駄なことを一切しないで、乳をくれる。


 普通はさ、もっと恥じらいがあったりしないか?

 もっとも、母ちゃんどころか、オデの家族は皆服なんて着ていない。

 ゴブリンなので、服は着ないようだ。

 全員全裸生活なので、恥じらいも何もないか。




 そしてわずか数日だけど、それだけの期間で、オデは歩けるようになった。

 それまでは生まれたばかりの赤ん坊だったようで、寝ているくらいしかできなかったのにだ。


 飯は母ちゃんの乳だけど、歩けるようになれば家の中や、その外にも出られる。

 歩けるといっても、まだ生後わずか数日のオデだ。


 前の世界みたいに、走ったり飛んだりはまだできず、たいした距離も歩けない。


 でも、オデの家の中には30名を超える兄弟たちがいて、さらに家の外にいるのも全部ゴブリンたちだった。

 ここはゴブリンの村らしい。


「こういうのを、転生って言うのか?それも"異世界転生"だな。ハハッ、意味が分かんねぇ」

 前の世界での知識で、そんな言葉がオデの口から出てきた。


 でも、ゴブリンなんて前の世界にはいなかった。

 おぼろげな記憶でも、ハッキリとそれは理解できる。


 しかしオデは異世界で、よりにもよってゴブリンという種族に生まれたわけだ。


 でもさ、ゴブリンとして生きてく自信なんて、オデにはこれっぽっちもないんだけど。

 だいたいゴブリンって、ゲームではやられ役にもなれない、ただの雑魚だし。



 前の世界の記憶があるせいで、オデは生後数日にして、自分の人生に暗澹たる思いを感じた。


「母ちゃん、寂しいから胸を揉ましてくれ」

 なんとも悲しい寂寥感。

 前世の記憶は持っていたけれど、それでも子どもの本能からか、オデは母ちゃんに甘えたくなった。


「邪魔だ、母ちゃん乳くれ!」

 だけどオデは他の兄弟に押しのけられてしまった。


 ――チュパチュパ、モグモグ


 兄弟は母ちゃんの乳を独占して、1人吸いついて飲んでいく。



「メシー」

「オデもくれー」

 さらに他の兄弟たちやってきて、合計12人の兄弟どもが、母ちゃんの乳に群がった。


 この世界に転生して知ったことだけど、オデを入れて16人子のゴブリン兄弟らしい。

 双子とか三つ子とか、そんな生易しい数じゃない。


 あと、兄貴と姉貴が30人以上いる。


 子沢山とか、そんな次元じゃねえな。


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