253 役には立たないクロゴブ
シロザルを駆逐して、占拠されていたツリーハウスを奪回した僕たち。
せっかく作った物だから、ウエストフォレストではツリーハウスを拠点にして探索をしていこう、と思っていたのだけど、
「汚い!」
「ゴミダメ!」
「臭いますわ!」
シロザルに占領されていたせいで、ツリーハウスの中は汚れに汚れまくっていた。
「まずはここの掃除をしようか」
「そうですね。このままじゃ使いものになりませんね」
汚れているなら、掃除するしかない。
というわけで、兄弟早出で掃除だ。
だけどね、
「ミカちゃんはどこに行ったのかな?」
「ミカちゃんなら、あっちの方に飛んでいったよー」
「あの野郎、逃げやがったな!」
野生生物だけあって、面倒ごとの察知能力もぴか一。
とっくの昔に、ミカちゃんはバックレていた。
そして僕たち兄弟以外に、もう1人いるけれど、
「うおーっ、オレじゃあ昇れませーん!」
ダークオーガになったくせに、クロゴブは木登りすらできない有様だった。
木の上にあるツリーハウスにくるなんて、無理だね。
「とんとん役に立たない微妙な奴だな」
「ハ、ハハッ……仕方ないですよ」
乾いた笑いを浮かべるユウも、フォローを入れているような、呆れているような……そんな中途半端な感じだった。
実際クロゴブはほとんど役に立ってないから、そんな扱いになるよね。
なお、この日は掃除を終えるとツリーハウスで一夜を過ごした。
クロゴブは登ってこれないので、木の下で野宿だ。
――え、木の上まで運んでやれって?
面倒だから、誰もやらないって。
そしてミカちゃんだけど、
「ヌオオオオオー、なんで吊るし上げられなきゃならんのだー!」
森に生えてる蔦をロープ代わりに使って、雁字搦めに縛り、木の枝から吊るしておいた。
掃除から逃げたんだから、これくらいの罰は与えとかないとね。
――ブチッ
「だがしかし!俺にはこの程度の拘束など無意味よー!」
まっ、ドラゴニュート相手に自然の蔦なんて無力。
あっさり引きちぎっていた。
とはいえツリーハウスに戻ってくると、僕に絞められるのを理解しているようで、その日はクロゴブと一緒に野宿していた。
「オッパイパイ」
……寝ている時、木の下からそんな寝言が聞こえてきたけど、気のせいだったことにしておこう。
相手にするだけ無駄だから。
翌日。
森の探索をしながら、たまに出会うモンスター相手に戦闘。
「あそこの窪みが、隠れるのにちょうどいいんです」
「ここの木の上にいれば、サル以外から狙われることがなくて……」
案内役のクロゴブだけど、話す内容がどれもこれもモンスターから、逃げ隠れする話ばかり。
今でこそダークオーガだが、ゴブリン時代にはこの森で生きていたわけで、最弱モンスター四天王の一角を占めるゴブリンでは、仕方のない話だろう。
勇者様(笑)でもなきゃ、命の危険を冒して手強い相手に戦いを挑むなんて、馬鹿なことはしないからね。
それと他の四天王だけど、誰かと聞かれても僕は知らない。
スライムとかかな?
もっともスライムは世界によっては最弱どころか、炎が効かない、打撃攻撃も効かない、斬撃で切ってもすぐに体が元に戻って傷をつけられない。おまけに粘液の体でまとわりついて、窒息させて殺してくるなどなど、凶悪な場合もある。
某国民的RPGではつぶらで愛くるしい瞳をしていても、TRPGに出てくるような危険なスライムだっているからね。
「ゴブリンって悲惨なんだな。僕、ドラゴニュートに生まれ変われてよかった」
そしてクロゴブの話を聞いていて、ユウは物凄く同情的だった。
「逃げぬ、隠れぬ、退かぬ!男ならば不退転の決意で突撃よー!ただし女風呂の覗きは除くがな!」
一方ミカちゃんはいつも通り。これは勇者様(笑)というか、単に脳みそが詰まってないだけ。
そんなこと叫びながら、イノシシの群れに襲い掛かっていた。
「あ、俺も手伝います」
そしてそれに遅れて続くクロゴブ。
進化した能力に慣れさせるため、こいつには戦ってもらわないといけない。
「もう終わったけど」
「……」
ただしミカちゃんが強すぎるので、ただのイノシシの群れなんてあっという間に頭と胴体を切り離されてお終いだ。
その場に5体のイノシシの死骸が転がる。
性格があんなのでも、剣の腕が立つのがミカちゃんだ。、
「メシー」
そして倒したイノシシに、早速齧り付く。
野生生物ミカちゃんだから仕方ない。
この後も僕たちは森での活動を継続。
途中見つけた果物を、クロゴブは嬉しそうに噛り付いて食べる。
「うめえ、この森にいた時は、果物ばっかり食べてたんっすよ」
とのことだ。
草食系ゴブリン、クロゴブ。
ダークオーガになっても、草食系を続けるつもりだろうか?
一応今回の狩りで得た肉を、こいつも食っているけどね。
「しかしこの果物を美味しいと感じるって、相当悲惨な食生活してたんだな」
「?」
僕たち兄弟が口に入れても、全く美味しいと思わない"リンゴ"の実だった。
名前はリンゴと名付けたけど、触感はモモだ。
「これ、滅茶苦茶美味しいですよ。あとこっちの果物も」
続いてクロゴブが見つけたのは"オレンジ"。
こっちは見た目そのまま、地球のオレンジと一緒だ。
もっとも、
「あれは食べ物ではありません」
「全然美味しくないのに……」
喜ぶクロゴブとは対照的に、リズはそっぽを向き、レオンも尻尾がだらんと垂れさせて、つまらなそうにしていた。
これはクロゴブの味覚が壊滅的なのか、はたまたドラゴニュートとの差なのか。
僕、少し思ったんだけど、もしかして肉食動物である僕たちの舌って、野菜や果物を美味しく感じる味覚がないのでは?
そんな考えが、浮かんできてしまった。
「ウメェー、ウメェー」
クロゴブが嬉しそうに食べる姿を見ていると、そんな疑念を抱かずにいられなかった。
いいなー、僕も肉以外の物を食いたいのに……




