249 ダークジェネラルハイゴブリン
最近は第二拠点ですることがあるので、自宅と第二拠点の間を毎日往復している僕。
本日も自宅から第二拠点へとやってくると、
「偉大なる主、お待ちしておりました」
僕を見下ろしてくる、巨大なゴブリンがいた。
魔力の気配から、そいつがなんなのかわかる。
「……お前、また進化したのか?」
「はい、今度は"ダークジェネラルハイゴブリン"になりました」
クロゴブの奴が、ハイゴブリンの系列の一つ、ダークジェネラルハイゴブリンになっていた。
ゴブリン系列にも、ジェネラルゴブリンというのがいるけど、ジェネラルハイゴブリンは、ジェネラルゴブリンと比べて圧倒的に強い。
ゴブリンの場合、ゴブリンメイジを除けば魔法を使えるゴブリン種はいないけど、ハイゴブリン種は、素の状態で魔法を使うことが出来る。
そしてハイゴブリン種の一つであるジェネラルハイゴブリンは、魔法と物理の両面で高い能力を持つモンスターだった。
ただし、
『魔法と物理が使えるのなら、つまり魔法剣士ということか。所詮は器用貧乏だな!』
なんてことにはならない。
極めてはないが、あらゆる面でバランスがとれているため、欠点らしい欠点がなく、攻めづらい相手となる。
人間だったら、脅威になるだろろうモンスター。
勇者様(笑)でもなければ、一対一で戦っていい相手じゃない。
この世界の人間に未だお目にかかったことがないが、僕の前世の感覚では、それだけの強さがあった。
もっともこの第二拠点にして、プチ魔王城においては、『ダークスケルトンよりは強いんじゃねぇ?』程度の存在だ。
ダークスケルトンたちにも実は個体差があって、ダークスケルトンリーダーや、ダークスケルトンソルジャー、ダークスケルトンメイジなどなど、細かい分類が存在している。
もっとも細かく分類できるものの、僕たちドラゴニュートから見れば、その能力は誤差の範囲でしかない。
ドナン辺りはその辺のことを考慮して、管理しているかもしけないけど、僕からみると面倒なだけなので、いちいち呼び方を変えず、ダークスケルトンで十把一絡げに呼んでいた。
しかしこのダークスケルトンにしても、人間の兵士より同等以上に強い
この拠点には数千のダークスケルトンがいるので、辺境の小さな都市国家なら落とせる戦力があるね。
それも"通常戦力"だけで。
この通常戦力の中には、僕たちドラゴニュート兄弟やデネブアンデット、13魔将、シャドウ、ダークエルダーリッチのドナンは入っていない。
今上げた中で一番弱いドナンの時点で、状況さえ整えれば、小さな都市国家を落とすことが出来る。
むしろドナンだと物理的に攻めるより、ダークエルダーリッチの得意とする精神系の魔法を使って、都市上層部の人間を操ってしまえばいいだろう。
そうすれば戦う必要なく、都市を牛耳ることが出来る。
いわんや僕たちドラゴニュートの場合だと、フレイアなんて魔法一発で都市国家の残骸すら残らず、"溶かし"尽くしておしまいだ。
注意しておくけど燃やすでなく、"溶かす"だから。そこは間違えないように。
まあ、悪くすると蒸発の可能性もあるけど。
他にもレオンだと、都市ごと凍り付かせられる。
ドラドなら大量の土砂を都市にぶちまけて、埋もれさせたりできる。
さて、第二拠点の戦力はそれとしてだ。
僕を出迎えてくれたクロゴブは、ダークジェネラルハイゴブリンになったことで、以前に比べて背が伸び、さらに肉付きがよくなっていた。
進化先が同じハイゴブリンの系列といっても、つい昨日までの姿とは全く別物になっていた。
そして顔も強面になっている。
頼もしいものだね。
僕が"暗黒街の帝王"していた時代なら、こういうのを傍に何人か従えておきたいものだ。
相手に舐められないためには、自分の傍に見ただけでヤバい奴を置いておくと便利だから。
でもね、
「クソが、なんで身長が伸びる!昨日まで僕と大して変わらなかったのに……いいや、僕の方がほんの少しだけ、本当に少しだけど、背が高かったのに。なぜだ!」
「ゲボッ」
ムカついたので、とりあえず腹パンしておいた。
世の中ってのは凄く不公平だね。
僕って、身長が……ウッ、クウッ、ウウウウッ。
僕は兄弟の中でも、ミカちゃんとドラゴニュート状態のドラドに次いで、下から3番目の背の高さなんだよ。
どうて見ても、お子ちゃまの背丈だ。
なのにそれ以外の兄弟たちは、とっくに十代中盤から後半の高さしてる……。
「レ、レギュラス様、どこか体がお悪いのですか?突然涙を」
「何でもない……」
ちょっと、ちょーっとだけ、殺意が漏れ出してしまいそう。
このゴブリン、今日ここで仕留めておいた方がいいんじゃないか?
このままだと、一生かけても追い抜けないほど背が伸びてしまうのでは……。
「レギュラス様、ようこそおいでくださいました」
「……うむっ」
そこに出迎えのドナンが来たので、僕はこれ以上醜態をさらす前に、態度を改める。
いつものように鷹揚な態度をとって、頷いた。
べ、別に背が高いのが羨ましいわけじゃ……羨ましい……。
心の中で強がりすら言えないほど、僕は背が高くなったクロゴブが羨ましかった。
……クソが!
それはそれとして。
「ところでクロゴブ。昨日つけた傷はどうなった?」
「それでしたら、とっくに塞がりました」
自宅で作った回復薬や、塗るタイプの傷薬がある。
動物実験というわけで、クロゴブに刃物で複数の傷を作り、薬の効果を確かめることにした。
ポーションや傷薬を塗った傷口に、全く薬を付けていない傷口。
それらを分けることで、回復速度の違いを確認しようとした。
なのにね、
「やっぱり進化した影響だよなー。お前、以前より怪我の回復速度も上がってるだろ」
「多分、そうだと思います」
同意しているクロゴブの顔だけど、
『ああ、こいつ僕の言ってる意味全然分かってないな』
と、表情を見ただけでわかった。
進化して戦闘能力が強化され、ゴブリンの頃より頭がよくなったクロゴブ。
だが進化しようとも、元はただのゴブリン。
進化の影響で日本語が話せるようになろうとも、所詮ゴブリンの知恵では、自分の怪我の回復の早さについて、あれこれ考えないのだろう。
ゴブリンって馬鹿だから。
そしてここまで進化してしまうと、回復効果の低い薬を使っても、傷の回復速度は誤差でしかなくなる。
10の回復速度だったところに3が加われば、明らかに怪我の治りが速いのが分かる。
けど、100の回復速度になったところに3が加わっても、それは誤差程度の数字でしかなくなってしまう。
いまのクロゴブは、100の回復速度になってしまった。
「こいつでの実験はもう無理だな」
薬の実験したいけど、クロゴブが進化しすぎたせいで、できなくなってしまった。
ま、いいや。
どうせ回復薬作っても、僕の兄弟は怪我と無縁だし、この拠点の中にも薬を必要とする奴がいない。
何しろ、いるのが全部骨だからな。
後書き
どうでもいいけど、"ダークジェネラルハイゴブリン"という種族名が長すぎる~




