244 レギュラスの本職は薬師?
レギュラス・アークトゥルスです。
西の森での探索と狩りの旅を終え、僕たち兄弟は自宅へ帰ってきました。
今回の旅では、今まで以上に新たな収穫があって、僕としてはホクホクです。
狩り以外にも、森にあった様々な植物を採取しました。
それらを研究する予定があるので、これからの新しい発見に今から胸かワクワクしています。
それと今の第二拠点は、ドナンとアンデットたちによって運営していますが、いずれはあそこでミカちゃんとユウ、他の兄弟たちにも頑張って働いてもらいたい。
ダークスケルトンたちは以前のスケルトンに比べて優秀ですが、それでも限界があるので、頭脳労働できるメンバーが欲しいです。
現在は問題なく回っていますが、まずは在庫管理をできる人材が欲しいですね。
この世界ではいまだに貨幣経済に出くわしてないので、帳簿を付ける必要性が薄いですが、第二拠点の物資の出入りはこれからも多くなっていくでしょう。
ですから、それの記録を取っていきたいです。
物の出入りを記録して、それらをグラフにして可視化していけば、資源の出入りが視覚的に理解できるようになって、仕事の割り振りを効率的に行えるようになるでしょう。
それに宝石を既に入手しているので、この世界にある文明に遭遇した際、貨幣と交換できる材料になりますね。
だからこそ、きちんとした在庫管理は、今からでも必要。
何事も現状を把握し、そこから将来につながるプロジェクトを立てていく事で、、未来の発展へと繋がっていくのですから。
このような事務方の仕事に関しては、前世で事務職だったミカちゃんに期待です。
何、今すぐ第二拠点で住み込みで働けなんて言いません。
ただ第二拠点の発展のため、そしてミカちゃんの将来の(仕事の)ためにも、僕はそのような予定を組んでいるだけですから。
フフフフフッ。
「レギュレギュ、森の炭焼き小屋を見た後から、人格変わってるぞ」
「そんなことないよ、ミカちゃん。フフフッ」
「ヒイッ、なんか背筋が寒くなる。労働者の敵め!」
「大丈夫大丈夫、ちゃんと1日3食用意された職場になるから」
「俺の将来を勝手に決めるなー!」
やれやれ、僕は親心兄心で、自由奔放すぎるミカちゃんの将来の仕事を用意しているのに、どうしてこんなに拒絶反応を示されるのかな?
理解に苦しむなー。
「レギュ兄さーん、これは作業部屋に運んだらいいかなー?」
ミカちゃんと話していら、今回の旅で獲得した諸々の品を自宅に運び込んでいたレオンに呼ばれた。
僕は兄弟たちに、今回の獲得物を作業兼倉庫部屋へ運ぶように指示して、僕自身もその作業に加わっていった。
「俺は決められたレールの上なんぞ走らんぞ。この世界では、自由人として生きてやる!」
僕がいなくなった後、ミカちゃんが握り拳を作って誓っていたけど、なに大丈夫。
役に立つ労働力は逃がさないから。
とまあ、それはそれとして。
森で獲得した植物が色々あるので、それらの研究をしていきたいと思う。
今までなら研究はデネブに任せて、自宅の離れにある研究部屋にでしていたけど、今回は作業兼倉庫部屋の方で研究をしていきたいと思う。
そもそも離れの研究部屋は、爆発などの危険性がある魔道具の開発に使っていたため、わざと自宅から離れた場所に作ったけど、今回得た物は基本的に植物だ。
毒があるならまだしも、そう言ったものは"ほぼ"ないので、作業部屋の方で研究しても問題ない。
それに最近は研究部屋に徹夜で籠り切りのことが多くて、他の兄弟たちとのスキンシップが減っていたからね。
兄弟たちも、どんなことが得意になってきたのかな?
将来の仕事を与えるうえでも、適正を把握するため、今のうちから近くでよく見ておかないといけないね。
というわけで、僕は早速作業部屋にて植物の研究を開始だ。
僕はシリウス師匠の弟子だ。
僕がシリウス師匠と出会った時、あの人は魔王を国ごと滅ぼしたトンデモ魔法使いだと思ったのだけど、実はシリウス師匠の本職は薬の研究者。
元々師匠もただの人間だったそうだが、薬の研究をしていたら、なぜか研究物の副作用で不老不死の薬が出来てしまったそうだ。
そしてそれを自分でゴクゴク飲んだ結果、不滅の存在になってしまったとのこと。
あとは、魂に寿命がないのをいいことに、薬の研究をひたすら続け、ついでに昔から魔法の扱いに長けていたので魔法の研究も続け、さらに科学技術の進んだ世界に転生することもあるので科学技術の研鑽も積んで、その他ectectとなる。
不滅で存在し続けられるのをいいことに、時間が余りまくったものだから、様々な分野の研鑽を積んでいったそうだ。
その結果、今や超越者の領域にいる。
とはいえそんな人物でも、元々の薬の研究者としての立ち位置を忘れていない。
今でも、師匠は薬の研究を続けている。
そんな師匠の弟子であるため、僕が学ばされたことの第一は、薬学に関することだった。
なので僕は薬の作成に関して、それなり以上に長けている。
旅の間に見つけた植物は口の中に含んで、大体の成分を把握しておいたので、それらの成分を元に薬の作成を試みていく。
まずは鉄製の鍋にお湯を煮立て、そこに切り傷に回復効果がある草を、ざく切りにして投入していく。
高温のまま2時間ほど煮立て続け、それが終わったら草を取り出して、布で絞っていく。
煮立てられた草を絞っていくと、回復効果のある成分が密度を増して抽出され、それをガラスの小瓶へ移していく。
あとは余熱が取れるまで瓶の中で冷まし、その後コルクに似た木で蓋をする。
液体性の傷薬、"ポーション"が10個ほど完成だ。
これを傷口にかければ、怪我の回復が早くなる。
と言っても、魔法の様に瞬間で傷が回復するわけでなく、傷の治りが普通より早くなるだけだ。
ここは魔法が存在していても、RPGの世界ではない。
この薬には魔法のような効果はなく、地球にある傷薬と同じだ。
できれば実際の効果を使って調べてみたいけど、ドラゴニュートの僕たちはまず怪我をしない。
「今度狩りに出た時に、ゴブリンで実験してみるか」
仕方がないので妥協。
もっとも薬の効果とは、動物実験を使って試されるのが普通だ。
現代地球では動物実験は非人道的だなんだと、動物愛護団体が騒ぐ場合があるようだが、人間に使う前に動物で薬の効果を確かめるのは、薬学において必要最低限の条件だ。
試験もしていない薬を、いきなり人間には使えないからね。
そして次に草を石ですり潰して、こねていく。
ほどなくして草の繊維がほつれて、ラバラにほどけていく。
これだけで薬の完成。
これは液体のポーションに対して、傷口に直接塗り込むタイプの傷薬だ。
超お手軽に作れるので薬というより、昔からのおばあちゃんの知恵、家庭でできるお手軽伝統医学程度の薬だ。
ただし、お手軽家庭レベルと言っても、実際に傷に効くので、薬であることに違いはない。
地球だと、止血効果のあるヨモギと似たような感じだね。
ただし、この草はヨモギそのものではないけど。
さて、次に取り掛かろう。
森でアロエのような食物があった。というかアロエそのものだな。
地球においてアロエの種類は確認されているだけでも500種類を超えているが、薬効が確認されているのはキダチアロエとケープアロエの2種が主で、それ以外のアロエにはほぼ薬効がない。
今回見つけたアロエは、葉を切るとゲル状の液体が出てくる。
これはそのままで火傷に効くので、加工を加えることなくそのまま使うことが出来る。
また葉肉自体にも下痢を促す効果があり、便秘の時に食べれば、そのまま下剤として使用可能だ。
もっとも食べ過ぎてしまうと、胃炎を起こすことがあるのでその辺は注意が必要だけど。
「その辺に植えておいたら増えないかな?」
アロエはそのままで使えるので、加工するより庭先に植えておいた方がいい。
ただ僕たちの自宅周辺は荒れ地なので、アロエの生息に適した土地と言えないのが残念だった。
アロエならば大体の土地で育つけど、さすがに自宅周辺の土地では無理そうだ。
まあ、それでも物は試しと地面に植えておくけどね。
「お前は薬草だ。だから繁茂して、立派に育つんだぞー」
魔力豊富なレオンのウォーターブレスの水をかけてやり、アロエが育つようにと僕は願っておいた。
その後は木の樹皮を乾燥させて、滋養強壮に聞く漢方薬を作ったり、根に止血効果のある薬草を加工したり、その他いろいろな薬剤を作っていった。
ああ、こういうことをしていると、仕事をしているって気分になって、心がとても落ち着く。
それに昔のシリウス師匠の下にいた頃の自分を思い出すようだ。
あの頃の僕は、自分に自信がないただの臆病者の人間だったけど、それでも色々学べるあの場所は、実に有意義で楽しかった。
と言っても、過去の思い出には思い出補正が加わるので、それで美しく思えるだけかもしれない
でも、切られたり殺されたりするのに比べれば、物凄く幸せな思い出だねー。
あっ、師匠にも毒薬の成分理解できるようにって、毎日飲まされ続けてたか……。
あと、ヴァンパイアの血液とかヤバイ魔族の血を大量摂取すると、人間から違う生物へ体が変化していくんだよね。
あの時は肉体にも不老不死の薬の効果が効いていたから、人間から違う生物になっても、薬のおかげで元に戻れた。けど、元に戻るときに全身が物凄く痛くて、それが何日何十日と続いて……。
やっぱ、全然いい思い出じゃねぇ。




