243 炭焼き小屋とブラック経営者さん
西の森での探索と狩りをした僕たちだけど、いつまでも森籠りの生活を続けていたら、マザーが心配して飛んできてしまう。
そろそろ森での活動を終えて自宅へ帰ろうということで、最後に炭焼き小屋に寄ってみた。
もう一度言う、"炭焼き小屋"だ。
と言っても、僕たち以外の知的生命体が建てた小屋でなく、ドナンの指示によって第二拠点から派遣されたダークスケルトンたちが建てた小屋だ。
間違っても、『初めて人間に出会いました』なんてことはない。
――カーンカーン
小屋の近くでは、斧を持ったダークスケルトンが複数体で木を切り倒していた。
けれど、そこに僕たちが登場すると、ダークスケルトンたちは作業を止めて、慌てて僕たちを出迎える。
「イ、偉大ナル、主サマ」
ダークスケルトン10体ほどが整列して出迎え。
相変わらず日本語がたどたどしいけど、以前までのただのスケルトンと比べれば、見違えるほど知性が増している。
「出迎えご苦労。そのまま作業を続けるように」
「リョ、了解……デス。デスガ、わ、私ガ、お供、イタシマス」
「いいだろう」
ダークスケルトンのくせに、随分接待に慣れてないか?
僕って第二拠点にいるすべてのアンデットたちの主だから、現代日本で例えれば企業のトップの様なもの。
対してこのダークスケルトンは、第二拠点の支部である炭焼き小屋勤務なので、本社から派遣された炭焼き小屋支部の責任者といったところだろう。
支部に派遣されている下っ端とはいえ、それでも主人である僕を接待するのは、きちんと教育がされている証拠。
ドナンがこれをしたのだとすれば、教育をきちんと行っているわけで、とてもいいことだ。
「レギュレギュが魔王様モードになったぞ」
「いや、魔王の時はもっと態度がデカいというか、威圧的ですよ。僕らでも近くにいたら怖いですし」
ダークスケルトンと話しているだけなのに、なぜかミカちゃんとユウがそんなことを話している。
「これでも元企業経営者だからね。これくらいの態度は普通にとれるよ」
「そうだったな、レギュ様。ウヘーッ、企業のトップとか、本当にレギュレギュってイヤな奴ー」
僕は部下の手前多少横柄な態度をとっているけど、それに対してミカちゃんがベロを出して露骨にイヤそうな顔をした。
全く何が気にくわないんだか。
ミカちゃんの前世がただの平社員だったからって、それで僕を僻まないでもらいたい。
それはともかく、ダークスケルトンたちが炭焼き小屋の周囲で木を切り倒し、その一部が第二拠点から連れてきたダークスケルトンベヒモスの荷台に乗せられていく。
それ以外の木材は、炭焼き小屋にある窯に運ばれ、そこで火を通したあと窯ごと密封され、木炭へと加工されていった。
これら全てが、ドナンの教育によるものだという。
ドワーフは生まれながらにして鍛冶を好み、鍛冶をするのに必要な火についてもよく学ぶ。
石炭もそうだが、火力という点では木炭もまた優秀な存在だ。
なので、木炭の作り方も知っていたそうだ。
しかしドナンってかなり多才だよね。
当人は死霊術師で、実家は彫刻をしていたというけど、それにしてはマルチな才能を持っている。
出会った時に中途半端なレイスからリッチにしてやったけど、それでドナンを部下にできたのは、僕的にかなり得な拾い物だった。
「フフフッ、この木炭があれば、石炭以外の火力になるな。さーて、この炭を使ってどの事業を拡大しようか」
「レギュレギュの顔に悪い笑みが浮かんでる。金……いや、仕事に憑りつかれたブラック経営者の顔になってるぞー」
「大丈夫だよ。ミカちゃんの仕事もちゃんと考えてるから」
「ノウッ!」
仕事と聞いた瞬間、ミカちゃんの体がブルリと震えた。
「せっかく異世界転生をしたんだぞ。前世みたいに仕事なんかしないで、俺はこのまま野生で自由に生きて、人生を謳歌するんだー!」
「何バカなこと言ってるの。ミカちゃんは事務職だったそうだね。だったらその能力を生かして、まずは第二拠点の物資管理を任せたいんだ。なーに、管理と言っても、今は拠点の物資の出入りを記録するだけでいいから。ミカちゃんならできるでしょう」
「ノウッ、仕事ノーサンキュウ。ファンタジー世界で仕事なんてできるかー!」
ミカちゃんが絶叫するけど、仕事はそのうちちゃんとしてもらおう。
せっかくドナン以外にも実務経験のある人間がいるのだ。これはぜひとも活用しなければ。
「に、兄さん、そのくらいにしないとミカちゃんが本当に逃げ出しちゃいますよ」
「ユウも高校生だったから、四則演算なんて簡単にできるよね。社会経験がないのが残念だけど、それでも頭脳労働をちゃんと用意するから」
「えっ、あの、兄さん?」
「ああ、これからの夢が膨らむなー」
仕事と言ったらユウまで顔を引きつらせたけど、一体どうしたんだか?
人間なんだから、生きていくためには当然仕事が必要。
原始時代の狩猟や採集なんて労働でなく、もっと文明的な頭脳労働をしてもらおうと、2人には期待している。
フフ、フハハハハッ。
「兄さん、嬉しそうだねー」
「とっても楽しそうー」
ほら、レオンとドラドも僕を見て嬉しそうに尻尾を振ってるじゃないか。
レオンは頭はあまり期待できないけど、それでも魔力が続く限り無限の水を出せる水源になるね。
ドラドは力があるので、ダークスケルトン以上の労働力になってくれる。
フフ、フフフッ。
そういえばツリーハウスを僕たちは簡単に作れたんだ。これからはドラゴニュート兄弟たちにも、いろいろ働いてもらわなければ。
フハ、フハハハハハ。
「ノウッ、社畜企業のブラック経営者め!」
ミカちゃんが叫ぶけど、
「大丈夫だよ、仕事は逃げたりしないから」
目指せ、現代文明!
目指せ、労働企業!
ああ、夢が広がるなー。




