237 野生の王者ミカちゃんと毒キノコ
「アーア、アー」
第二拠点西にあることから、ウエストフォレストと名付けた森にやってきた僕たち。
到着早々、ジャングルの王者ターザンならぬ、野生の王者ミカちゃんが、木から木へと、蔦を使って飛んでいく。
うん、まったく思っていた通りのことをしてくれる。
やっぱり野生児だから、こういうことをやらずにいられないんだね。
――ブチッ
「ふぁっ!?」
もっとも、ミカちゃんが手にした蔦はそこまでの太さがなく、ミカちゃんの体重を支え切るだけの強さがなかった。
「ヘボシィッ!」
結果途中で蔦が切れ、そのまま近くにある木に顔面から派手に突っ込んでいった。
「なんてベタなことをやるんだ、さすがミカちゃん」
お約束過ぎて感心してしまうよ。
「兄さん、笑ってる場合じゃないですよ。ミカちゃん大丈夫ですか?」
「痛い……レギュレギュの拳に比べれば、屁でもないけどなっ!」
「あ、なるほど」
ユウが心配したものの、ミカちゃんは即座に復活。
というか、ユウ。お前どうして納得する?
僕の拳にそこまでの威力があるわけ……いや、あるか。
ミカちゃんを日頃から殴りすぎたせいで、この程度では全く問題にならないようだ。
「ミカちゃん、何をやってるの?」
「木に激突する遊び?」
ただ、今の一連の光景は兄弟たちに理解されていない。
ドラドとレオンが、不思議そうな顔をしている、
「あれは遊びじゃなくて、ミカちゃんがいつもやってる馬鹿なことだよ。真似しなくていいからね」
これ以上ミカちゃん菌に侵されては一大事。
我が家の兄弟の中で、レオンとドラドは特に純粋なので、馬鹿が感染しないように気を付けないと。
と、森へ到着早々ミカちゃんが馬鹿をしたけど、初めてやってきた森に兄弟たちは皆驚いた顔をしている。
「すごく大きいですわね」
と言いながら、自分たちより遥かに背が高い木を眺めるフレイア。
「これが木ですか」
リズは木に近寄って、幹に手で触れる。
思えば僕の兄弟たちは、これまで断崖絶壁にある自宅と、荒れ地での狩りばかり。
木がこんなに密集して生えている森を見るのは、生まれて初めてだった。
「木の葉が太陽の光をちょうどよく遮ってるから、森林浴にいいね」
そして僕も緑に包まれた森に、心が穏やかになる。
こういう緑にあふれた場所はいいね。深呼吸をすれば、澄んだ空気に満たされる。
ささくれだった心が癒されるようだ。
何が原因でささくれてるかは、あえて言わないけど。
「……虫が落ちてきましたわ」
もっとも木が生えているということは、虫もいる。頭上から落ちてきた毛虫を、フレイアは躊躇いなく手ではたき落としていた。
フレイアは美人だが、野生育ちのドラゴニュート。毛虫程度でキャーキャー言うことはなかった。
「俺、虫に生まれ変わって、フレイアたんの胸の谷間に落ちたいな」
あと、オッサンの方はそんなセリフを呟いてる。
「そして、オッパイに潰されてしまうなら本望」
いつものことだね。
相手するだけ無駄だ。
さて、森に入ったので、今回ここまで乗ってきたダークスケルトンベヒモスは使えなくった。
森の外にベヒモスを待機させ、僕たちは最低限の荷物を手に森に入った。
「木の実が生ってないかな?それとも野菜か、果物でもいいや。何か食べられそうな食物がないかなー」
森へ入ってから僕の興味は、食べられる食物を探すことに移る。
「兄さん、そんなに肉以外のものが食べたいんですか?」
「ユウ、分かるだろう。僕たちこの世界に生まれ変わってから、今まで肉しか食ってないんだぞ。果物でも野菜でも何でもいいから、食べられる植物を食べたい!」
「そうですね。僕もお米が食べたいなー」
元日本人としては、やはり米なのか。
僕は米への強いこだわりはない。それより今は、肉以外のものを食べたかった。
「ヌフフフフッ、そんなあなたたちのために、このようなキノコはいかがでしょう」
なんて会話をしてたら、ミカちゃんがいつの間にか手にキノコを持っていた。
「ミカちゃん、これ絶対毒がありますよ。紫色してる」
「ナニ、安心安心。大丈夫ヨー。食べても、死ななあいるよー。レギュレギュさーん、どうぞ一口食べてねー」
露骨な態度で、僕にキノコを差し出してくるミカちゃん。
これはあれかな。日ごろから僕に勝てないでいるから、ここで毒殺でも企ててるのか?
「……ミカちゃん、そういうのは冗談でもやめようね」
ああ、過去の毒殺されかけた記憶がいくつも蘇る。
いろいろあるんだよ、僕の転生人生には。
「あのレギュさん、俺が悪かった。だから殺気を出さないで、打とうとしないで。ヒ、ヒエエエーッ」
僕の態度に気づいたようで、ミカちゃんがキノコを放り捨てて、その場から逃げ出した。
……ふうっ、キノコってイヤだなー。
そういえば毒殺されかけた以外に、シリウス師匠にもいろいろ食わされたっけ。
あの人、人間なんてレベルをとっくにやめてる存在だけど、
「僕の本業は薬の研究者なのです。だから弟子であるレギュラスは、食べただけで薬の成分が分析できるようになろうねー」
なんて言われて、色々食べさせられた。
傷に効く薬に、疲労回復効果のある成分が含まれている漢方、倦怠感を取り除くハーブ。
この辺はいいのだけど、
「毒も薬になるから、食べただけで理解できるようになろうね」
なんて言われて、シビレタケや笑いキノコ、即効性の毒薬などなど、いろいろ食わされた。
「なーに、大丈夫。不老不死の薬のおかげで、死んでも生き返るから~」
シリウス師匠の弟子だったのは、僕の一番最初の人生でのことだった。
あの時は不老不死の薬の効果のおかげで、体が致死の傷を負っても、自然回復する状態にあった。
おかげで毒薬食って体が死んでも、しばらくすれば本当に生き返っていた。
死んでも生き返るってのは、すごく怖いよ。
何しろ、死ぬほどの痛みや苦しみを何度経験しても、また"蘇る"のだから。
ただ不老不死の薬が肉体に与える効果には時間制限があり、それが5000年から20000年という期間だった。
どれだけ効果のある薬でも、薬効が効く期間を過ぎてしまえば意味がない。
よく効く風邪薬を飲んでその日は元気になったけど、翌日になったら薬が切れて、また元の状態に戻ってしまった。なんてのと同じだ。
おかげで、不老不死の薬の効果が切れた後、僕の最初の人生は、肉体の死を迎えて終わった。
もっとも魂に対する不滅の効果は"永遠に続く"ので、その後転生して別の体に蘇ることが出来るのだった。
そうして今も、僕は肉体が滅びても、また新しい体に転生し続ける人生を送り続けている。
しかし、その辺のことはいい。
キノコ、毒、も、もう嫌だ。やめて、やめて師匠。死ぬ苦しみを、毎日毎日味わいたくない。
「大丈夫だよ。1000年くらい毎日食べ続けていれば、口に入れただけで、どんな成分が含まれているか自然と勘で分かるようになるから」
……ああ、ト、トラウマが。ああああーっ。
「ウ、アアアアーッ」
「に、兄さん、大丈夫ですか!」
「うおっ、レギュレギュが白目向いて壊れたぞ!」
トラウマを刺激され、僕は以前マザーに喰われてしまった時の様に、醜態をさらすはめになってしまった。
師匠、あなたが僕に毒薬食べさせるときに、いつも「エヘヘー」って笑ってましたよね。
僕が苦しむ姿見て、心の底から楽しんでたでしょう!




