233 魔法式スピーカー
「ほっほっほー、素晴らしいでしょうこの声。私の美声に酔いしれなさい!」
さて、前回北へと向かった狩りは大変な不作で終わった。
北の荒野に突然できたクレーターによって、そこにいたベヒモスたちは絶滅。どころか、あの辺り一帯の生物は完全に消滅してしまった。
そしてあれだけのクレーターが出来れば、当然その周辺に生息していた生き物だって逃げだしてしまう。
モンスターでも、あんな場所からは裸足で逃げ出すこと間違いなしだ。
まあ、クレータを作った犯人は僕だけど。
そしてモンスターがいなくなった結果、前回の狩りではろくな食べ物が見つからず、僕たち兄弟はお腹を空かせて自宅に帰るしかなかった。
その後は、マザーが狩ってきた獲物で満腹になったけど、モンスターがいないと大変困るね。
飯の種がないと、生死に関わってしまう。
いくら僕たちドラゴニュート兄弟が、この辺りで傑出した強さを持っていても、食べ物がなければお終いだ。
次の狩りの旅では、別の方角に行かないとね。
まあ、それはそれとして。
「レギュラス様の人でなし。反応してー、私の美しい声を聞けー、聞けー、聞きやがれー!」
「喧しい!」
――ガンッ
「痛い……」
「オホホホホッ。愚かなレギュラス様。この私の強度を舐めるから、そんなことになるのよ。アハハハハー」
さて、現在僕は自宅から転位魔法陣を使って、第二拠点にあるデネブ専用引きこもり部屋にきている。
来たのはいいけれど、そこでデネブが超構ってオーラを発していて、鬱陶しいことこの上ない。
あまりの煩さに、デネブアンデットの頭蓋骨に拳を叩きつけたけど、逆に叩いた僕の拳が痛くなった。
魔王級アンデットの頭蓋骨恐るべし。ドラゴニュートの拳より頑丈なんだけど。
「アハハハー、オホホホー」
そして僕の拳が全く効かないと分かると、さらに調子に乗るデネブ。
その場でクルクルと回りながら、踊るように移動。
「ゲヘッ!」
直後、部屋に転がっていた何かに躓いてこける。
片付けできない女デネブの部屋だけあって、この部屋には訳の分からないガラクタが転がりまくっている。
そこには高度な技術が使われた魔道具や、魔術紋が刻まれたグラビ鉱石の結晶、魔術抜きの科学技術研究のための道具など色々ある。
が、大半は僕の目から見ても、理解不能なガラクタばかりだった。
そして派手にずっこけて、ガラクタの山に頭を突っ込むデネブ。
「調子に乗って、勝手に自爆するとか、お前って本当にポンコツだな」
「ウ、ウワーン。女の子に向かってポンコツ言うなー」
「事実だから仕方ない」
しかし女の子と言われても、今のデネブは骨に黒ローブを纏った姿のアンデットだ。
これに女性を感じる人間がいたら、それは生粋の変態だろう。
それもデネブやミカちゃん、ドナンたちと違った方向で。
「グスンッ、私のガラスのハートが痛い」
「お前のハートは、ミカちゃんと似たレベルだろう」
「……いや、さすがにあの変態野生生物には負けますよ」
「そうだな。さすがにあそこまでひどくないか」
ミカちゃんに対して、僕たちがかなりひどいことを言っているように聞こえるかもしれない。けど、これも事実だから仕方ない。
事実を事実と言って、何も悪いことはない。
「で、デネブ。お前はなんで褒めてほしがってるんだ?」
「あの、レギュラス様。もしかしてそこから説明しないとダメなんですか?」
「ああ」
「ガーン」
そこで頭蓋骨の顎が大きく外れて、口をポカーンとさせるデネブ。
顎の外れた骸骨なんて、間抜けにしか見えない。
「レギュラス様、私レギュラス様の考えている事が分かるんですよ」
「そうだな。僕もデネブの考えていることは分かるぞ」
「……分かっているなら、私が何を褒めてほしいかも分かってるんじゃないですか?」
……一体デネブの奴は何を褒めてほしいんだ。
うーんっと、デネブの考えを読み取るにはちょっと集中しないといけないから……
「ああ、そういうことか。凄いなデネブ、凄い凄い、良かったなー」
「ちょっ!セリフが適当すぎて、しかも棒読みなんですけど!褒めるなら、もっと感情を込めてください!」
「じゃ、褒めないでおく」
「……」
(ちょっと、この人冷血鬼よ。薄情物、人でなし。きっと赤じゃなく、青い血が流れてるんだわ)
僕の扱いにとうとう口をつぐんでしまうデネブ。
もっとも口をつぐんでも一心同体な僕たちなので、デネブの考えていることが、僕の心に直接響いてくるけど。
「冗談はこれくらいにしてだ。お前も変わった物を作るな」
デネブで遊ぶのはこのくらい
僕は今回デネブが作った魔道具。「褒めて褒めて」と散々催促していた道具を手にした。
「いいでしょう。この魔道具を使えば、こんな骸骨女でも、可愛らしい女の子の声を出せるんですよ」
そう言いながら、胸を張って丸い魔道具を指し示すスピカ。
今回スピカが作った魔道具は、声を出すことが出来る魔道具だった。
正確には声を出すというより、
「これってスピーカーと似た原理で動いてるな。魔力を流すと魔道具全体が振動して、音が出るわけか。さしずめ、"魔法式スピーカー"ってところだな」
「そうです。これのおかげで、骸骨ボディーの私でも女の子らしい声を出せるんです」
「ふむっ」
今のデネブの声は骸骨から出てくる声でなく、魔道具を使うことで、人間らしい女性の声が出ていた。
試しに僕も、声を出せるようになる"魔法式スピーカ"を手に取ってみる。
『アーアー、イーイー、アイウエーロー』
「んっ、ちょっと制御をミスった」
魔力を流して、魔法式スピーカーから声を出してみたけど、流す魔力の量と波動で、出てくる音が変わるようになっていた。
「フッフッフッ、レギュラス様は下手糞ですね。私は既に使いこなして、今なら女の声だけでなく、男でも野生の獣の鳴き声でも、ありとあらゆる声を出すことが出来るようになりましたよ。私は七色の声を自在に操る女デネブ。ルーラララー、ララリー」
デネブは調子に乗って、魔法式スピーカーから老若男女の声を出し、さらに歌まで歌い始める。
しかも声だけでなく、音楽まで流れ出す。
さすがは魔法式スピーカー。無駄に高性能で、地球にある音楽用のスピーカーと遜色ない音の旋律だ。
そして歌いながら、そこまでできるデネブの技術は相当なもの。
ただし、音痴だった。
ここに、魔道具の扱いのうまさは全く関係ない。
……それにしても、面倒くさい女だ。
鬱陶しい。
「何を作ったのかは分かった。そうだ、せっかくだからこれをドラドにプレゼントしよう」
「レギュラス様、それを作った私のことは褒めてくれないのに、他の女にはプレゼントですか?」
「他の女も何も、ドラドは妹だぞ。それにドラドの声って、僕たち兄弟には意味が理解できるけど、あれってドラゴンの鳴き声だからな。ドラドも僕たちみたいに日本語を話したがっていたから、この魔法式スピーカーをあげればちょうどいいな」
ドラゴニュート形態になっていても、いつもドラドの声は、『ギォオー、ギャーキャー』という鳴き声だった。
そんなドラドに、この魔道具はぴったりだ。
「私の扱いがひど過ぎる!私はレギュラス様の半身なんですよ。だから、もっとかまってー」
「じゃ、僕は帰るから、あとの研究は1人で続けてくれ」
面倒くさい女のことなど知ったこっちゃない。
僕は部屋のドアを開けて、外へ出る。
「あっ、いやっ、外の空気が部屋の中に入ってくる。あああ、恐ろしいー!」
「部屋の外の空気って……お前、この部屋三重のドアで隔離してるのに、ドア1枚開けただけでその反応はないだろう」
「は、早くドア閉めてー、お外怖いー」
魔法式スピーカーはいい道具だけど、デネブはどこまで行ってもポンコツ女だった。
(だ、だからポンコツ女じゃないのにー!)
心の中で僕に抗議してくるけど、全く説得力がない。
何しろドア1枚開けただけで、この醜態だからね。
ハアッ、なんでこんなのか僕のサブ人格なんだ?




