229 【悲報】ダークスケルトン食われる!
「それではこれよりフレイア対13魔将……ええっと」
――ギギッ
「3号だそうです」
「3号の戦いを始める」
――ワーワー
第二拠点から1キロ以上離れた場所で、フレイア対13魔将3号の戦いの始まりだ。
「レギュラスお兄様、"戦い"ではなく"決闘"です!」
「じゃ、決闘ってことで」
――ワーワー
フレイアにダメだしされてしまったので、言いなおしだ。
正直、僕の中ではどっちでもいい。
フレイアは決闘と言うけど、実際には子供の遊びにしかならないのだから、喧嘩でも決闘でも、言い方は何でもいいのだ。
大体、本物の決闘だったら、どちらかが死ぬまで続けるのがルールだけど、そんなことはさすがにやらせられないからね。
そして決闘なんて言葉を教えたのは、ミカちゃんだろう。
ここが僕たち兄弟だけが住んでいる世界ならそれでいいけど、外にある文明が中世レベルの社会だったらとんでもないことになる。
冗談抜きで、命を懸けた戦いをしなければならなくなる。
将来そんなことが起きたら大変なので、あとでミカちゃんを絞っておかないとね。
「うおっ、急に寒気が!」
「大丈夫、死なない程度に痛い思いをするだけだから」
さすがミカちゃん、勘が鋭いね。
本能で生きているだけあって、野生の感という奴は馬鹿にできない。
「あの、レギュさん。俺悪いことは何もしてないんだけど。少なくとも、心当たりはないんだけど」
「無自覚なのが余計にダメだね」
「なぜ俺に殺意が向けられねばならんのだー!」
ミカちゃん、決闘なんて物騒な言葉を教えておいてそれはないでしょう。
これはガチのお説教を後でしないとね。
ところで肝心の決闘だけど、ここ最近超火力特化の成長を続けているフレイアと、13魔将3号の戦いだ。
人間同士なら、剣でも持って戦えばいいけど、この2人が戦う場合、そんな生易しいレベルはすまない。
かたや最大火力が核兵器並みの破壊力を持つフレイア。
かたや、準魔王クラス……いや、3号はそれを超えて、魔王級に匹敵する魔力を持つアンデットだった。
こんな化け物同士の戦いなので、人間の決闘とは次元が違い、周囲に及ぶ被害がとてつもないことになるのが分かっている。
周囲への被害を防止するため、周囲には4体の13魔将が配置につき、合同で次元属性の結界を展開していた。
この結界の内部であれば、並大抵以上の魔法が使われても、結界が破られる危険は少ないない。
あくまでも可能性が少ないので絶対ではないが、前世の僕基準の化け物でなければ、そう簡単に破ることは出来ないだろう。
そしてそんな結界が張られた周囲で、僕とミカちゃん、ユウをはじめ、他の兄弟全員が観戦している。
『フレイアって、怖いもの知らずだよね。13魔将さん相手に喧嘩するとか、命知らずだよ。ポリポリ』
とは、ドラド。
「ですが強者と戦うのは、武人の本懐でありませんか。ポリポリ」
これはリズの意見だ。
リズ、武人なんて言葉いつ覚えたんだい。
そしてフレイアは武人でも何でもないと思うけど。
「フレイア、頑張れー。ポリポリ」
レオンは本日も変わることなく能天気。フレイアが格上の13魔将と戦うのに、暢気に尻尾をユルユルと動かしている。
「あのさ。3人ともポリポリ音を立ててるけど、何を食べてるのかな?」
『……骨』
なんだ、今の間は?
「骨って、何の骨かな?」
「これです、レギュラス兄上」
そう言ってリズが出してきたのは、黒い骨。
あ、うん。この色の骨って、最近よく見るなー。
「モガモガ、ボリボリ、バリバリバリッ。おおっ、結構うまいぞ!」
食い物とあって、ミカちゃんはいつも通りの意地汚さを発揮していた。
「ミカちゃん、頼むから食べながらしゃべらないでくれる。食べかすがこっちに飛んでくるんだけど」
「モガガガー(分かった)」
このオッサン、さっきまで僕の殺意に怯えてたんじゃなかったか?
本能だけで生きてるから、3歩歩けば脳みそ真っ白になる鶏並みに、記憶力がないだけか?
「ガアアーッ、ア、足ガ、腕ガーー!!!」
ところで兄弟たちが食べている骨の正体だけど、ダークスケルトンだった。
無残にも体の一部をもぎ取られ、四肢を失ったダークスケルトンが、哀れな悲鳴を上げている。
「……お前ら、本当にこいつを食ってるのか?」
「うわあっ、さすがに喋れる相手まで食べるとか……」
僕とユウは揃ってドン引き。
いや、僕だって普通のスケルトンは食べるよ。
ユウもスケルトンを食べる事に抵抗感がとっくになくなっているけど、さすがに日本語を喋れる相手まで食べるってのは、マズくない?
倫理的に。
「ア、あしガー。うで、ガー」
「うるさいけど、こいつの骨って普通のスケルトンより、かなりうまいぜ」
――ブチブチ
「アガ、ガガガー!」
ドン引きしてる僕とユウの前で、ミカちゃんがダークスケルトンのあばら骨をもぎ取り、それを口の中へと平然と放り込んでいった。
悲鳴なんてお構いなしだ。
をいっ!
あんた、本当に前世日本人だよな!?
前世魔王だった僕でもドン引きしてるのに、どうして平然とした態度でできるんだ。
野生が極まりすぎじゃないか!?
『レギュ兄も食べる?』
なんてところで、ドラドにニコリと話しかけられた。
「……うるさいから、食べる時は先に頭を潰しておきなさい」
『分かったー』
――ガンッ
ドラドの拳が振り下ろされる。
その一撃でダークスケルトンの頭蓋骨が完膚なきまでに破壊され、沈黙した。
ドラゴニュートパワーだからね。ダークスケルトンは普通のスケルトンより頑丈だけど、そんなものドラゴニュートパワーの前では関係ない。
体をもがれて喚いていたダークスケルトンも、こうなってしまえば声一つ上げることが出来なくなった。
うんうん、これでうるさくない。
「パクパク。あ、本当だ。この骨結構うまい」
そして僕は砕けた頭蓋骨の一部を口に入れてみて、そのおいしさに驚いた。
「これはいいなー。もっと食べたい」
「レギュラス兄上、そう思ってもう1体用意しておきました」
さっと、差し出してくれるのはリズ。
よしよし、もっと食べよう。
フレイアの戦いを観戦しながら食べるには、ちょうどいいおやつだね。
倫理観がどうとかだって?
おいしいから、そんなものどうでもいいや。
「メシメシー、ブギャッ」
「ミカちゃん、横取りはダメです!」
そしていつものように意地汚いミカちゃんの横槍が入ろうとしたけど、機先を制したリズによって引っぱたかれていた。
本当、ミカちゃんは油断も隙もない。
とはいえ、そんなミカちゃんを撃退できるようになった辺り、リズも成長しているね。
うんうん、実に頼もしい。
「えっ、あの。……兄さん、さっきまで食べるの躊躇ってましたよね!?」
「ユウ、そんな小さなこと気にしてたら野生では生きてけないぞ。おいしいからお前も食べてみろよ」
「……さすがに、ムリです」
僕の兄弟たちはちゃんと成長しているのに、ユウは相変わらずだね。
――モグモグ、バリバリ。
しかしただのスケルトンだったのが、ここまでうまくなるなんて驚きだ。
13魔将から放たれる魔力で、スケルトンがダークスケルトンになっているので、これだけでも13魔将を作って正解だった。
そう思えるほど、ダークスケルトンの骨はおいしかった。
……っと、骨の味じゃなくて、いい加減フレイアの決闘に集中しないと。
後書き
スケルトン「我々スケルトン友の会は、邪悪なドラゴニュートから食べられることに断固抗議を……ギャアー」
ミカちゃん「モガモガモガ、やっぱ普通のスケルトンはあんまりうまくないな」
レギュラス「ミカちゃん、全部食べてから言うセリフじゃないでしょう」
ダークスケ「特殊化して前より役立つようになったのに、どうして俺らの扱いは変わらないんだ……」




