225 改良型ブルーメタルタートルソード
少し時間が戻って、前回の狩りの旅の後でのこと。
今までミカちゃんとユウの武器として使われてきたブルーメタルタートルソード。
もともと刃がない頑丈なことだけが取り柄の鈍器だったけど、ドラゴニュートパワーと、ミカちゃんとユウの技量のおかげで、ゴブリン程度なら簡単に切ることができた。
だが巨大なベヒモス相手には通用せず、完全な鈍器に成り下がってしまった。
そもそも刃のない剣で切れていたのが、不思議なレベルなんだけどね。
そんなレベルの剣術なんて、人間やめてるよ。剣の道だけに一生を捧げた、どこかの剣聖様ですかって話?
まあ、僕たちドラゴニュートだから人間じゃないけどさ。
「お、お兄たま、ミカちゃんにパワーアップの機会を。もっとすごい武器を作ってちょうだい」
見た目愛らしい幼女が、瞳をウルウルさせておねだりしてきた。
ミカちゃんって、こういう時破壊力抜群なんだよね。これの中身が正真正銘の幼女なら、グラリと心動かされたかもしれないけど、中身がアレだからね。
「オッサン、キモイ」
「キモくないわよー、お兄たまー」
――ガシッ、ギリギリギリ
「ギャー、ギブギブ。頭を締め付けないでー!」
これ以上ミカちゃんのおねだり攻撃を受けたら、僕の精神がおかしくなってしまう。
なんてひどい精神攻撃だ、胸のムカつきと吐き気がするんだけど。
こんな茶番はともかく、野生で生きているから、身を守るためにももっとまともな武器を用意する必要もあった。
というわけで、ブルーメタルタートルソードを強化することに。
「刃を付けるにしても、金属で補強するより、刃になる部分を削って作った方がよいですな。削るための砥石があればいいのですが、ここまで硬い素材となると……」
餅のことは餅屋へ。
というわけで武器は武器屋へ。
ブルーメタルタートルソードが弱い原因は、刃が付いていないから。
というわけで、僕は生前ドワーフだったドナンに話を持ちかけたのだが、あまり色よい返事が返ってこない。
ブルーメタルタートルソードは、金属由来の武器でなく、特殊なモンスター由来の武器。
もともとが超高硬度の素材であるため、刀身を削ることで刃を作るしかないとのこと。
「ミスリル……いや、オリハルコンでもなければ、削ることはできませんな」
「もしかして、これってミスリルより頑丈なのか?」
「手元にミスリルがないので比較できませんが、おそらくは」
ドラゴニュートの力でも曲げることができない頑丈さだったけど、まさかそこまでとは僕も思ってなかった。
これってマザーが狩ってきた亀の甲羅から作った武器だけど、そんなモンスターを平然と狩ってくるマザーは恐ろしいね。
マザー相手だと、ミスリル程度では簡単に壊されてしまうだろう。
オリハルコンでも、マザーなら壊しそうな怖さがあるけど……。
しかし、硬い物を削る方法ならちゃんとある。
地球で最も硬い鉱物はダイヤモンドだが、そのダイヤモンドを削って研磨する際には、同じ硬さを持つダイヤモンドが使われている。
これと同じ原理で、
「家の倉庫にブルーメタルタートルの甲羅がまだ残っているから、それを使って刃を作ってくれ」
ダイヤにはダイヤ、ブルーメタルタートルソードにはブルーメタルタートルの甲羅。
同じ硬さを持つ素材があるので、それを砥石代わりにして、ドナンに刃を作ってもらうことにした。
「おおっ、なんと素晴らしい。これほどの硬さがあれば、大抵の武器を研ぐことができますな」
ブルーメタルタートルの甲羅を後日ドナンの元へもっていけば、その硬さにドナンが惚れ惚れしていた。
まあ、ドナンはリッチで顔面骸骨なので、表情らしい表情が顔面に浮かぶことはないけどね。
「せっかくだ、この甲羅はドナンにやろう。どうせ僕たちが持っていても使い道がないからな」
「ありがたき幸せにございます、レギュラス様。不肖ドナン、ドワーフとしては鍛冶の腕が半人前ですが、これほどの砥石をいただけるのは光栄にございます!」
僕たちにとってはいらない甲羅だったけど、ドナンからは必要以上に感謝されてしまった。
よく分からないけど、ドワーフは鍛冶への執着が強い種族だから、それに関連して上質の砥石をあげると喜ぶみたいだ。
そして後日、ブルーメタルタートルソードに刃が着けられ、さらにおまけでデネブの改造によってバイブレーション機能まで取り付けられて強化された。
(ブルーメタルタートルの甲羅っていいですね。そのままでも超振動に耐えられる強度があって素敵。
そして美しい剣は、それだけで尊いのです!)
魔道具の職人として優秀なデネブ。
そして同時に腐女子でもあった。
前々世の日本で存在した、日本刀を擬人化する某刀剣ゲームに嵌まり込んでいた。
頼むから、ミカちゃんとユウの愛剣を擬人化するなよ。
(大丈夫です。この剣のモデルは、"ミカくん"とユウくん本人ですから)
「……」
"ミカくん"って誰だぁー!?
……考えるのをやめよう。
デネブの思考回路なんて考えるだけ無駄なので、僕は深みにはまる前に、考えることを放棄した。
そんなこんなの経緯を経て、改良されたブルーメタルタートルソード。
「ウヒョオオオーー、すげー切れ味!」
改良された剣を手にして、現在第二拠点でミカちゃんとユウが試し切りをしていた。
試し切りの相手は、ダークスケルトンが作った鉄の槍。
それを日本刀で竹を切るイメージで、立て掛けられた鉄の槍を剣で切っていく。
「ミカちゃんって、頭あんなのなのに、相変わらず剣の腕もおかしいね」
もちろん剣の腕以外の"おかしい"は、ダメな意味でのおかしいだけど。
それはともかく、ミカちゃんが超高速で剣を振るえば、鉄の槍の柄がスパスパ切り刻まれて行く。
柄を切られた鉄の槍が空中を舞い、そこに剣がさらに襲い掛かって、鉄の槍を空中で四分五裂と切り刻む。
「ホアチョチョチョチョチョー!」
変なかけ声と、ついでに尻尾がブンブン動く。
それに合わせて、空中で切り刻まれた鉄の槍が、さらに切られまくり、
「ふっ、今宵の虎鉄はよく斬れる」
なんて言って剣を止めると、鉄の槍が微塵切りにされた野菜のように、バラバラになって地面に落ちてきた。
「本当、ミカちゃんって変」
「俺は変じゃねえー!」
関心半分呆れ半分。そんな僕のセリフに突っ込んでくるミカちゃん。
「なんということじゃ、脂肪乳を崇拝するくせに、どうしてここまでの腕を持つのじゃ……」
「それが乳神様の加護だからだ」
ミカちゃんの剣の腕は、褒めているドナン。
剣の刃を付けた当人と言うこともあり、今回の試し切りを見学していた。
ただ余計な言葉が混じっている。
「はいはい、静かに。君らの趣味は僕がいないところでやりあってくれ」
この2人は、変態の方向性で対立しているので、とりあえず黙らせておいた。
「でも、ミカちゃんって本当に剣の腕がすごいですね」
「フハハハ、これこそがVRゲームによって鍛えられた俺の実力だ!」
ミカちゃんの剣の弟子であるユウも感心。
ただ前世でゲームをした結果、どうしてこんな剣の腕になったのか、それは僕でも不思議だ。
「しかし俺には剣のバイブレーション機能はいらないな。剣じゃなく魔法の性能で戦ってるみたいだし、振動が気になって手元が狂うからいらない」
「魔力を通さなければバイブレーションは機能しないから」
「分かったー」
なお、鉄の槍を切り刻んだミカちゃんだけど、これはバイブレーション機能を使わずにやった結果だ。
剣に刃が付いただけでこうなるあたり、ミカちゃんの剣の腕って冗談抜きで凄いんだよね。
その後、しばらく剣をクルクル回したり、素振りをしたり、色々と立ち回りをするミカちゃん。
剣を自分の体に慣らしているようだ。
「真剣になったから、扱いには気を付けるんだよ。たぶん僕らの体でも切れるから」
僕らのドラゴニュートの肌は、強い力が加わると鱗が浮かび上がるけど、あの鱗でもミカちゃんの剣なら切り裂きかねないので、注意しておいた。
いくら変態ミカちゃんでも、やっていい事と悪いことは理解してるだろう。それでも、こんな当たり前の注意をせずにいられなかった。
「よし、それじゃあ次はユウがやってみろ」
「分かりました」
ミカちゃんの剣の振りが終了。
続くはミカちゃんの弟子、ユウだ。
鉄の槍が立て掛けられ、そこに相対するユウ。
「ハッ!」
かけ声からの一閃。
それだけで、鉄の槍の柄が切断される。
――ヒュヒュヒュヒュンッ
さらにミカちゃんを真似るように、空中を飛ぶ鉄の槍にさらに剣が打ち込まれて行く。剣の一閃ごとに、鉄の槍を切り裂いていく。
――カラカラカランッ
そうして鉄の槍が地上に落ちた時、その数は実に10を超える鉄の塊に変わっていた。
「凄いですね、今までと切れ味が段違いだ」
「だがユウよ、剣の性能に溺れて、自らの技量を落とすでないぞ」
剣の斬れ味に驚いているユウ。だけど、ミカちゃんは何で偉そうなんだろう。
剣の師匠だから、偉そうにしてもいいのかな?
「ミカちゃん、どうせ漫画かアニメキャラの真似でもしてるんでしょう」
「……ソ、ソンナコトナイヨー」
図星だった。
思い切り目をそらして、ミカちゃんが下手な口笛を吹きだした。
「ヒュー、ヒュー」
「それ、口笛になってないから」
「ウルヘェー」
どこまで行っても、ミカちゃんはミカちゃんでしかなかった。
その後、ドナンは剣の鞘も用意していて、
「こちらをどうぞ、ユウ様」
と、ユウに鞘を差し出す。
「俺には?」
「お前のことなど知らん。変態脂肪主義者め!」
ユウに対するのとは全く違い、敵対しているミカちゃんには鞘を用意していないドナンだった。
その後、2人がギャーギャーと互いに理解不能な主張を始める。
やれ「筋肉こそ至高」だの、やれ「タプタプ、プルプルーン」だの……。
「この変態ども、纏めて沈んでろ!」
――ゴンッ、ガンッ
煩かったので、肉体言語でしばらく地面の上に転がっておいてもらった。
ドナンは進化と特殊化を経て以前より遥かにパワーアップしていたけれど、そんなのはお構いなしだ。
所詮ダークエルダーリッチの防御力など、ミカちゃんの頭に比べれば柔らかい。
「うわああっ、やっぱり兄さんに逆らうのが一番怖い」
最後にユウが、そんなことを言っていた。




