表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
228/281

223 醜態魔王と光物

(チクチクチクチクチクチクチクチク)


 第二拠点の変わり用に驚かされた僕たちだけど、いつものように第二拠点の中へ入る。

 そしていつものように通称"玉座の間"に行って、そこで……


(ウヒャヒャヒャヒャヒャ)


 瞬間、とんでもない量の魔力が蠢いて、第二拠点全体の空気を揺るがした。


「ウヒエッ!?」

「え、いきなり何が!?」

「……なんだかムカつく声ですわね」

「ホエーッ?」

「ムウッ!」

『!』


 その魔力の波動は、笑いだった。

 ただ、とんでもない魔力を伴った笑いに、僕の兄弟たちが驚き、その場で立ち止まってしまう。

 僕ら兄弟でも、無視することができない圧力を持った魔導の笑い。


(……おい、デネブ)

(チクチクチクチク……ウヒョヒョー)

(ポンコツ女!)

(チクチクチクチク)


 犯人は分かっている。

 僕は頭の中でデネブに呼び掛けた。

 それも何度も呼び掛けた。

 だがデネブは自分の作業にひどく没頭しているようで、僕の呼びかけが全く聞こえていない。

 何の作業をしているのか知らないが、笑いながら魔力を周りにぶちまけないでほしい。


 今のあいつって魔王級の力を持っているから、ただ笑うだけでそれが魔力の波動となって周囲を震わせる。

 力ある存在とは、それほどまでに恐ろしいのだ。


 笑うだけでこれだ。自分のプライベートが筒抜けになるという意味で、本当に恐ろしい。



(お前の笑い声、外まで漏れてるぞ!)

(えっ!ひええぇぇぇぇぇーーー!!!)


 今まで僕の声をガン無視してた奴が、声が漏れていると分かった瞬間、パニックになりやがった。

 そして先ほどまで漏れていた笑いの波動が、今度は悲鳴の波動となる。


「ぬっ、ぬおおおっ。ワ、ワシの体がー」

 ――ガタガタ

 ――ガクブルブル


 第二拠点にあるデネブ専用と言う名の"隔離部屋"から、とてつもない魔導の力が放たれ、拠点全体を揺るがせる。

 その波動に、ダークエルダーリッチにまで進化したドナンですら、魂を揺さぶられ怯える。

 ダークスケルトンどもは、体の骨がガクガクと音を立て、その場に崩れ落ちそうになる。


「ノウッ、最近の俺、チビってばかり!」

 僕らドラゴニュートでも平然と受け止めるには凶悪な魔力で、約1名、またしてもパンツを湿らせてしまった。


「ミカちゃん、ちゃんと後で変えておくんだよ」

「だが残念だったな。俺はノーパン主義に転向したんだ!」

「今はいてるのスカートじゃなくズボンでしょう」

「……」


 オネショして布団のシーツに地図を描くってのがあるけど、ミカちゃんはズボンに地図を描いていた。


「ユウ、後でこれ洗っとけ」

「自分でしてくださいよ!」


 どこまでも人任せなミカちゃん。

 お漏らしズボンの後始末まで、ユウに任せるんじゃないよ。

 あんた外見はともかく、中身の年齢何歳だと思ってんだ!


 一方、精神年齢と言えばデネブの方。

 僕に指摘されて、自分の笑い声が拠点中に響き渡っていることが分かって、パニックになった。

 相変わらずの超対人恐怖症を発揮して、自分の存在が周りにバレていたことに、超パニック。

 雄叫びを上げ、その場で立ち上がり、その拍子に片づけを全くしていない部屋の中に転がっていた鉄の塊に、足の指をぶつけてしまう。


(グベハッ、痛い!)

 体はアンデットなので、足の指をぶつけても痛覚は刺激されない。

 ただ、条件反射で口から出てきた言葉だ。


(ビャハアーッ!?)

 その後さらに何かに躓いて、思いっきり前のめりにぶっ倒れ、運悪く目の前にあった作業机に顎を思い切りぶつけた。


 ――ドガーンッ


 人間だったら痛いですまないレベルで、顎に机がクリーンヒット。

 ただ魔王級アンデットは魔力量が膨大なだけでなく、頑丈さでもドラゴニュート並。あるいは上回る。


 ぶつかった机の方が、逆に壊れてしまう始末だった。


 そして机を破壊した後デネブアンデットは地面にぶっ倒れ、それからピクリとも動かなくなった。


(おい、デネブ)

(……)

(返事をしろ)

(……しばらく探さないでください)


 それだけ言い残して、デネブの意識は僕でも捕えることができないどこかへ、雲隠れしてしまった。


「あのポンコツ女、散々醜態を示しておいて、バックレやがった……」


 デネブアンデットが、体ごと転位魔法でどこかに逃げたわけでない。そもそも転位魔法を使って、外に逃げ出すなんてことをあの引きこもりができるはずがない。

 デネブは、アンデットの体にかけていた"魂の乗っ取り(ソウル・ハック)"の魔法を打ち切ると、そのまま僕の魂の中の、奥深い場所へ勝手に潜り込んでいってしまった。


 こうなっては、もはや僕でもデネブの存在を追えない。



「に、兄さん、一体何があったんですか!?」

 一方、拠点を襲ったポンコツ魔王の笑いと醜態の波動を受け、僕の兄弟たちがかなり怖がっている。

 代表してユウが僕に尋ねてきたけれど、

「気にするな。ただのポンコツ女の狂態だ」

 とだけ答えておいた。


 我が家のドラブルメーカーと言えばミカちゃんだけど、デネブの奴もトラブルメーカーならぬ、ポンコツメーカーすぎる。


「ポンコツ?女?一度だけ見ましたけど、あのアンデットって女性だったんですか?」

「一応、な」


 デネブの魂を突っ込む前のデネブアンデットの姿を、ユウたちは一度見ている。

 あの女をまともな女扱いしたくないけど、それでも一応人格が女なので、ユウの問いに答えておく。


 はあっ、あんなのが半身のせいで、僕のメンタルがガリガリ削られるんだけど。

 ……勘弁して欲しい。


 デネブの変態魔力が部屋から溢れ出さないよう、あとで"気配遮断の結界"を強化して設置しておこう。

 そうすれば、デネブの魔力が外に漏れる量をかなり減らせるはずだ。




 こんなデネブのポンコツ劇があったものの、それはそれとして、僕たちは第二拠点の玉座の間へやってきた。


 玉座の間にたどり着くまでにひと騒動だけど、たどり着いてからも驚きが続く。


「なんか前より豪華になってるな」

「スケルトンが知性を持つようになったので、様々な作業がはかどるようになりました。それで玉座の間を飾り付けれるようにもなったのです」


 以前の玉座の間は、一面が黒い劣化黒曜石に覆われていて、さらに同色の柱が何本もそびえている場所だった。

 ドナンによって柱や壁に彫刻が施されていたけど、現在ではそこにサファイアやエメラルド、ルビーなどの宝石がはめ込まれ、以前に増して豪華さが加わっていた。


「金や銀があればさらに美しい装飾を施すことができるのですが、残念ながらまだ金と銀は見つかっておりませんので、このような飾り付けとなりました」

「ふーん、玉座の間なんて言ってるから、これくらいの飾り付けがあってもいいな」

「はい、将来的にはもっと華美な装飾を施せるよう努力いたします」


 前回第二拠点に来た段階で、宝石を見つけたとの話を聞いていた。それらを使って、玉座の間に宝石の装飾が追加されたわけだ。

 ドナンの報告を受けて、ねぎらっておく僕。



「……うおおおおっ!レギュレギュ、当たり前のように答えてるけど、宝石だぞ、宝石。何この金持ちの間。もしかして俺たちって、いつの間にか金持ちになったのか?大富豪か?貴族か?王様なのか!?」

 一方、前世ではただの一般サラリーマンだったミカちゃん。

 玉座の間の装飾に宝石が使われていると知って、尻尾を滅茶苦茶バタバタさせて興奮し出した。


 そこまで興奮しなくてもいいのにね。

 とはいえ、こういうのも文明のひとつだよね。

 石器時代よさらば、お前の時代には二度と戻らない。


「どうして兄さんは、そんな冷静でいられるんですか?宝石ですよ」

「宝石なんて珍しくないでしょう。僕、前世も前々世も普通に金持ちだったから」

「……」


 そう言ったら、ユウに微妙な顔をされたんだけど?


 前世魔王で、前々世は複数の企業経営をしていたレギュラス・アークトゥルスです。

 日本の一般家庭なら、家のどこかに小銭が転がってるものだけど、僕の家だと小銭でなく宝石が転がっているようなものだから。

 特に魔王だった時なんて、こんなちっぽけな玉座の間とは比較にならないほど税がかかった城に住んでいたから。


「今、俺の中でレギュレギュに対する殺意が沸いた!」

「ミカちゃん、僕が金持ちだったくらいで恨まないでほしいな」

「ウガーッ、これだから金持ちって奴はー」


 なんて感じで、僕はミカちゃんに僻まれてしまった。

 まあ、別にミカちゃんなのでどうでもいいけど。


「……ジュルリ」

「それとフレイア。光物が好きだからって、壁に埋め込まれた宝石を取ったりしないように」

「ハッ、私ったらはしたない!」

 光物大好きのフレイアが、壁にはめ込まれている大きな宝石に視線が釘付けになっていた。

 目がランランと宝石色に輝いていて、まるで宝石に魂を奪われたかのよう。


 フレイアって、やっぱり将来が怖いや。

 ろくな女にならない気がするんだけど。


『でも、キラキラして綺麗だね』

 ただ光物が大好きなのはフレイア一人ではない、ドラドも壁一面に散りばめられている宝石を見て、嬉しそうに尻尾をフリフリしていた。


「まるで星空みたい」

 レオンもそんなことを言って、ドラドと仲良く尻尾を振っていた。


 ドラゴンはカラスと同じで光物が好きなわけで、そんなドラゴンの血を半分引いている僕たち兄弟も、なんだかんだで光物に目がないらしい。


「……」

 ただ一人リズだけ無言だと思っていたけれど、獲物を狙うような目で、宝石をガン見していた。

 ひょっとすると、これはフレイア以上に重症じゃないか!?


 ――おおうっ、ドラゴンの血、恐るべし!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ