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220 ポンコツ魔王デネブ・アークトゥルス (デネブ視点)

 私の彼氏は2.5次元まで。

 2次元はOKだけど、3次元(リアル)の男に用なんてないわ。

 そんな私、デネブ・アークトゥルスです。



 さて、いたいけな私だけど、今の私はレギュラス様の命令で、第二拠点にある私専用の部屋でチクチクと作業している。


 部屋の外にいる……うっ、部屋の外なんてない。この世界にはこの部屋だけしか存在しないのよ。私は一人、この世界には私一人しかいないの。だから落ち着け、落ち着くのよデネブ。


 スーハー、スーハー。

 ここには毒殺してくる相手がいなければ、裏切りで背後からナイフで刺したり、ズドンと鉛玉を撃ち込んでくる埒外もいないのよ。


 ……ふうっ。

 レギュラス様は私のことを引きこもりだ、人間不信だ、ダメ人間だと一方的に言ってくるけど、それもこれも全部レギュラス様が悪いのよ!


 あの人いつも偉そうにしているけど、何様のつもり!


 転生するたびに、変な組織を立ち上げで、"暗黒街の帝王"だなんだと、いろいろしている。

 けど、その度に味方に裏切られて殺されそうになったり、実際殺されたことが何度あると思っているのよ。


 不老不死で転生できるから、次の人生があるからいいものの、普通の人だったら人生一度きりで死んでるわよ!


 実際不老不死と言っても魂が不滅なだけで、肉体はそうじゃないのに。


 そんな修羅の道ばかり経験しているのがレギュラス様。そしてその半身が私。

 そんなひどい目にばかりレギュラス様が遭っているということは、私もそれと全く同じ経験をしているの!


 人間相手に殺されたり、殺されそうになったり。

 そんな経験何度も繰り返して、人間不信にならない方がどうかしてるわよ!

 実際レギュラス様だって、かなり拗らせていて……ブツブツブツブツ。


 ああもう。

 レギュラス様の事ばかり考えていたら、イライラが収まらないわね。

 スーハースーハー。


 イヤなことは忘れてしまうのが一番ね。

 さーて、作業に戻るとしましょう。




 今私の目の前にあるのは高純度のグラビ鉱石。

 これは、馬鹿みたいに魔力が有り余っている"13魔将"に、グラビ鉱石の核になる要素を濃縮させて作り出したもの。

 これに手を当てて、魔術紋を書きこんでいく。


「フンフフーン。うーん、やっぱり魔王の指の方が精密な魔力操作をしやすいわねー。本当、前世の体ってチートだわ、チート!」


 今の私は魔王クラスの魔力があり、骨の指は黄金の魔術紋が光り輝いている。

 この魔術紋は、精密な魔力操作をこなせるようにするもので、グラビ鉱石の内部に物凄く細かい魔術紋を刻み込んでいくことができる。

 それこそ、電子回路のような緻密で複雑な情報を刻めるほどに。


 魔道具を作るのに、今の私の体(デネブアンデット)は結構便利なのだけど、それでも魔王の指に比べれば、どうしても劣った。



 それでも、私はめげずに作業を続行。

「イヤなことは何もなーい。私は一人でいるのよー」


 ああ、作業していると嫌なことを考えなくて済むから落ち着くわ。

 レギュラス様がブラック労働を好んでしているのも、実は嫌なことを思い出したくないから、仕事に埋没することで他のことを考えられないようにしているだけなのよね。

 もっとも当人はそのことを指摘されるのが嫌なので、私は何も言わないけれど。


 私はデネブ。空気を読める女だからー。


 ……そう思いながら作業に没頭している私も、かなりレギュラス様のブラック労働思考に侵されているわね。

 どうしましょう、このまま私までブラック労働万歳とか叫び出したら?

 ま、さすがに私はそこまでいかないでしょう。


 それよりも、こうやってチビチビと魔術紋を刻んいくのっていいわね。

 特に私一人だけでいられる環境なのが、物凄くいい。



 それにしても私の部屋って、地下にある上に、壁が分厚くて、室内は真っ暗。

 何この超劣悪環境!?


 地下なので空気が少しジメジメしているのがアレだけど、でも今の私の体はアンデットだから、そこまで湿気は気にならないかな?

 壁が分厚いのは、外の世界と隔離されている感があって、私的にはすごくいいわね。

 それに明かりなしの真っ暗空間でも、アンデットの視覚だとはっきり"見えている"ので問題なし。


 ……?

 あれ、もしかしてここって墓場の中みたいな空間なのじゃ?


 昔の貴族や王族の墓って、それなりに広い部屋に遺体を安置されているけど、今の私もそれと似たような環境にいるわね。


 うわー、そんなこと思うと嫌だわー。


 ……でも、思ったより落ち着くのよねー。


 特に私以外、誰もいないっていうのがすごくいいポイント。

 たとえ誰かいても、真ったらだったら私が何しているのかなんて分からないでしょうしねー。


 そう思ったら、私って実は天国にいるんじゃないの?

 この空間って、私の理想を全部満たしてるじゃない。

 ウホホホー、超いい空間じゃん。

 墓場の中って最高ー。


 いや、ここって墓場の中じゃないんだけどねー。



 なんだかんだで、私はこの空間を物凄く気に入ってしまった。




 それはともかく、チクチクとしていた魔術紋を刻む作業が終了。

 あとはこれをブルーメタルタートルソードの軸に、グイグイとねじ込んでいって一体化させる。

 ちょいと"原子融合"魔法を使ってやれば、異なる物質でもあら不思議、ピッタリ違和感なく接着できます。


 もっともこの魔法って実核融合の超ミニマム版なので、実は放射線が飛び出しているんじゃないかって話もあるんだけどね。


 まっ、今の私はただの骨なので微弱な放射線浴びたから何って話だけど。


 そんなことを考えつつ、グラビ鉱石を仕込んだブルーメタルタートルソードの柄を握って、魔力を通して見る。


 ――ブオオオォォォォーーー


 うんうん、いい感じね。


 とりあえず部屋の中に転がっていた適当な鉄を取り出して、それに剣を当ててみる。

 抵抗らしい抵抗もなく、刃が鉄の塊を真っ二つに引き裂いた。


「これでよし、超振動ブレードの完成」


 ブルーメタルタートルソードだけど、前回の狩りでベヒモス相手に通じなかったので、今回これを強化することにした。

 刃の方はドナンが着けて、そこにさらに超振動を発生させる機能を私が取り付ける。


 超振動のおかげで、鉄すら難なく切り捨てられる剣になった。

 これならベヒモス程度、簡単に真っ二つねー。


 さっすが私、こんな魔道具なんて簡単に作れちゃうわよー。


 せっかくだから、ここにライトアップして光る機能もつけましょうか?

 ライト〇イバーね。

 なんなら光線銃のかわりに、光魔法を弾ける機能を付けてもいいわね。

 まだグラビ鉱石の容量が余ってるし、それくらいおまけでつけても余裕ね。



 ……ま、あんまり遊んでたらレギュラス様に説教くらうから、今回はしないけど。

 レギュラス様って、男の子なのにロマンを理解できないから困っちゃうわー。



 さーて、それで次の作業は何だったかしら?


 えーっと、確か電気をご所望だったから、発電機と電球を作ろうかしら?

 この前銅鉱石が見つかったって(レギュラス様から)聞いたから、銅線はすぐに用意できるし、コイルも簡単に作れる。

 コイルができれば、発電機なんてちょちょいのちょいね。

 それと、電球の方はフラメントの素材が……


 この後も、私は作っていかなければならない道具について考えていく。




 私はデネブ。

 できる女の私は、魔道具でも機械でも作るのはお手のもの。


「機械いじりが好きなのは、普通男の方だろう」

 なんてレギュラス様は言うけれど、私ってそういう男の子っぽいことが好きなのよねー。


 ああ、でも頭ばかり使っていたのでちょっと休憩。



 木版と木炭があるので、これにレギュラス様とユウくんの崇高なる薄い本を描きましょう。

 紙があればいいんだけれど、まだ紙に使える繊維素材が見つかってないのよねー。


 あ、炭が足りないから外から補給を頼まなければ!


 ウ、ウハハハハ。

 そ、外ですって、怖いわ。


 とんでもないことを考えたせいで、突然立ちくらみが……。


 で、でも、崇高なる"貴腐人"たるもの、趣味のためになんとしても炭を手に入れなければ。


 ……

 ……

 ……


 ド、ドキドキドキ。

 骨の体に心臓はついてないはずなのに、私の骸骨ボディーの心臓が早鐘打って、危険を知らせてくるわ。

 で、でも、炭を手に入れるの。


 そのために私は木版に、「炭、ちょうだい」と震えながら文字を書く。

 その木版を、部屋の扉のわずかな隙間から外へ押し出した。


 ――ギギッ

 あとはこの木版をドナンの元へ、外で待機している13魔将の誰かが運んでくれる。


「ふ、ふうっ、恐ろしい。ドナンと直接話さなくてよくても、手紙を書くのってなんて恐ろしいのかしら。ああ、まだ心臓がバクバクいってる」


 でも、頼んだから、あとは炭が来るのを待つだけね。



 それまでは、妄想を。

 私3次元はダメでも、一端2次元に落とせば問題なし。


 普段大人しいユウくんだけど、夜にレギュ様と二人っきりになると心の奥に潜む魔物が起き上がって……



(クソ女、お前の腐女子趣味に僕を巻き込むな!)


 そこで、レギュラス様の怒鳴り声がした。

 正確には、心の中から聞こえてきたわ。


 ……体は別々になったけれど、私とレギュラス様の魂は一つ。

 なので私はレギュラス様の考えていることを理解でき、レギュラス様も私の考えていることを理解することができる。

 これは互いの体がどれだけ離れていても、関係ないことだった。


(レギュラス様、いきなり話しかけないでください。私の心臓が止まるかと……)

(黙れ、腐女子!)


 まったく、レギュラス様ってば腐女子のことを悪く言うなんてヒドイわ。

 それに、私のことは華麗な"貴腐人"と呼んでちょうだい。


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