218 逆らってはいけない相手に喧嘩を売らない主義
――GGGGGYYYYYYYAAAAAOOOOOOOOOOOOーーーーーー!!!!
『子供たち―、どこ?どこに行ったのー!?』
「ヤベッ、マザーが家に帰ってきた!」
今日は兄弟そろって転位魔法陣で第二拠点にきてるけど、地下にある拠点にいながら、自宅からマザーの咆哮が聞こえてきた。
ここから自宅まで相当な距離があるけど、マザーの咆哮に距離なんて関係ない。
「兄弟全員集合、急いで家に帰るぞ!」
「ブッ・ラジャー!」
兄弟全員を大慌てで集めると、ミカちゃんがノリ良くそんなことを言ってきた。
相変わらず変態だ。
それはともかく、
「じゃ、あとのことは任せたから」
「委細承知いたしました、レギュラス様」
転位魔法陣を置いている部屋で、ドナンが恭しく一礼する。
拠点のことはドナンに託して、僕たち兄弟は急いで転位魔法陣で自宅へ戻った。
「ウゲーッ、相変わらず魔力の消費量が……」
転位して自宅に到着。
それはいいけど、この魔法陣を使うと負担が大きくて困ってしまう。
「うひょー、飯じゃ飯ー!」
そんな僕の苦労なんて気にせず、転位部屋を出ていったミカちゃんが、マザーの狩ってきた獲物目指して、全速力で飛んで行っていた。
「ご飯、ゴハーン」
『ドラドもお腹すいたー』
それに続いて、能天気レオンとドラドも続いていく。
……なんとも平和なものだね。
僕もお腹がすいたので、早く食事にしよう。
さて、自宅にある巣に戻ってきて、いつものように食事。
超巨大ドラゴンのマザーだけど、その図体のデカさに反して、かなり子煩悩でもある。
自宅に帰ってきたら、僕たちがいなくて心配したようだけど、転位部屋から現れると同時に明らかにホッとしていた。
安心したようで、尻尾をグワングワンと動かしている。
それだけで周りに風が吹くんだけど。
うっ、結構圧力のある風が……。
『皆いなかったから心配したじゃない。ご飯を持ってきたから、皆で仲良く食べるのよ』
「モガモガモガー」
約1名、マザーの言ってることなんてお構いなしで、既に肉に貪りついている。
これもいつものことだけどねぇ。
そんなミカちゃんのフライング食事を始まりにして、僕たちもいつものようにご飯を食べる事にした。
「「「「「『いただきまーす』」」」」」
モグモグモグ。
『ねぇ、レギュちゃん』
ところで食事中のことだけど、マザーが僕に話しかけてきた。
「何、マザー?」
『レギュちゃん、あまり変なことしちゃだめよ』
……
……
……
「変なことってなーに?」
内心、ギクリとするものがあった。
今回僕がしたことと言えば、前世の姿に戻って"ヒャッハー"しながら最高位アンデットどもを作ったことだ。
久しぶりに前世の感覚に戻った解放感から、テンションが高くなってしまったのもあったけど、その余波で、"ちょーーーーーーっと"ばかし、地形が変わってしまった場所がある。
『レギュちゃん、それに変な"お人形"ばかり集めてるわよね』
「えっ、ええっ!"人形"って何のことかなー?僕分かんないー」
ギクギクギク。
"人形"って、マザー気づいているのか。
第二拠点にいる大量のアンデットどものことを。
た、頼むからあいつらを拠点ごと潰さないでくれ。
下位のアンデットはポコジャカ作れるけど、ドナンみたいに管理職を任せられるアンデットや、最高位アンデットどもは、そうはいかないんだよ。
それに拠点には、鉱石を始めとしたいろいろな物資が集まり始めたから、あそこを潰されると、この世界に転生してからしてきた努力がすべて消えてしまう。
「マザー、僕変なことなんてしてないよー」
『そうだといいんだけれど』
そう言うマザーの尻尾は、ちょっと動き方がぎこちなかった。
僕の事、疑ってるな。
疑っているというか、この会話からして、マザーは僕がしていることに大体気付いている。
だけど、ここはしらを切って、第二拠点を守らねば。
『はあっ、レギュちゃんがそう言うなら、いいけれど。あんまり変なものばかり集めないのよ』
「うん、分かったー」
ウゲーッ、マザーに第二拠点のことが完全にばれちまってる。
拠点には気配遮断の結界とか張り巡らせて、アンデットの気配が周囲に漏れないようにしてるんだけど、あの程度の結界ではダメなのか。
変な汗が出てくるんだけど!
「で、でもマザー。あそこって僕の大切なものを集めてるんだ。だから、マザーも変なことはしないでね」
『……まあ、レギュちゃんがそう言うのなら……分かったわ』
今、物凄い間があったぞ。
マザー、滅茶苦茶迷ってただろ。
だが、言質は取った。
マザーは何もしないと言った。
野生のドラゴンの言質なので、時に嘘をつく人間のそれよりさらに信じられないけど、それでも言質を取ったぞ。
これで第二拠点は守られた……と、信じたい。
何しろマザーであれば、第二拠点を潰すなど造作もないことだ。
今回、あの場所には魔王級の"デネブアンデット"と、最高位アンデットの"13魔将"が揃ったけれど、それでもマザー相手では瞬殺とはいかないまでも、簡単に叩き潰されてしまう戦力差がある。
今の第二拠点って、プチ魔王城並みの戦力があるけど、それでもマザーに太刀打ちするのは不可能。
僕の見立てだけど、マザーと前世の僕が正面からガチで戦った場合、僕の方が明らかに分が悪いほど、マザーは強い。
前世の僕が作れる程度のアンデットでは、マザーに勝てるはずが万に一つもなかった。
「マザー、僕、マザーのことが大好きだよー」
『私もレギュちゃんのことは大好きよ』
だから僕は、懸命にマザーに媚を売っておいた。
僕、前世"魔王"とか"暗黒街の帝王"なんて経歴があるけど、逆らってはいけない相手に喧嘩をうる馬鹿じゃないから。
僕は勝てる相手にしか、喧嘩はしない主義だから。
ミカちゃんが勝てるはずのない僕相手にいつも挑んでくる、そんな馬鹿なことをしない主義だから。
「ウゲエーッ、わざとらしすぎるぶりっ子で気色わりぃー」
「黙れ!」
「ギャヒン!」
僕だって、今の自分の態度があざといなんて百も承知している。
だが、ここでミカちゃんが余計なことを言ってきたので、肉体言語で静かにさせた。
まったく、このアホおっさんは本当にお頭が足りてない。
余計なことを言わなければ、叩かれずに済むのに。
とにもかくにも、僕は第二拠点を守るため、恥も外聞も捨ててマザーに媚を売り続ける。




