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212 魔王レギュラス・アークトゥルス

 ――目指せ現代文明!

 ――目指せ電気!


 とはいえ、いきなりそんなものが実現できないことは僕だってわかっている。

 何事も段階を踏んでいかなければならない。

 だが千里の道も一歩から。

 どんなに遠い目的でも、まずは最初の一歩を踏み出さないと始まることすらできない。


 僕の知っている知識ではドラゴニュートの寿命は、50年から300年ほど。

 ただ僕たち兄弟のマザーはかなり特殊な竜なので、僕たちの寿命はそれよりはるかに長いだろう。

 仮に千年単位で生きられるなら、この世界にいる間に地球の現代文明以上のレベルにもっていくのは簡単だね。


 前世でもやったことだから。




 さて、狩りから自宅へと戻ったその日は、兄弟たちと一緒に狩りで得た素材を倉庫部屋に運んだり、道具の後片付けをしたりで過ごした。

 そして翌日には、僕だけで自宅に設置した転位魔法陣を使って第二拠点へ飛んだ。

 両手に大きな荷物が入ったカバンを持って。


「ううっ、相変わらずこの魔法陣の魔力消費量がデカい」

 しかし離れた距離を一瞬で移動できる便利な魔法陣だけど、転位することだけを優先して作った物なので、魔力消費が物凄く大きい。

 ドラゴニュートの馬鹿みたいな魔力量をもってしても、体からごっそり魔力が失われてしまう。


 これは僕だからその程度で済んでるわけで、仮にリッチのドナンがこの魔法陣を使えば、魔力不足で魔法陣が起動しないばかりか、下手すれば魔力が完全枯渇してドナンが消えかねない。

 アンデットは既に死んでいる存在だが、その体を動かすためには魔力が必要になる。

 その魔力が完全に失われれば、いかにアンデットと言えど消滅することは免れなかった。


 ドナンより魔力のあるシャドウでも、魔法陣を1回ギリギリで起動できる程度だろう。


 もっとも電化製品と同じで、これより魔力消費の少ない省エネ型魔法陣を作ることもできる。ただ転位魔法陣は高度な魔法技術が用いられて、省エネ化しようとすれば、それだけ製作工程が複雑になり、さらに転位に必要な計算の割り出しが難しくなる。


「早いうちにデネブに研究させて、もっと省エネ化させないとな」

(私はデスマーチから逃げられないのね……)

 魔法陣に関して、働くのはデネブであって僕ではない。

 僕の中でデネブがプチ絶望に包まれた声を上げたけど、働けることは素晴らしいことなんだぞ。


(そう思ってるのは、レギュラス様だけですよ)

 なんて返されたけどね。



 ちなみに今回僕が第二拠点に飛んだ理由だけど……

「レギュラス様、ようこそおいでくださりました」

 僕が第二拠点の転位部屋を出ると、ドナンがスケルトンたちを引きつれながら、慌ててやってきた。


「ご苦労、拠点の方で何か問題は?」

「ございません。それとレギュラス様の指示により、拠点傍に作ったスケルトンベヒモス用の車庫ですが、上空から見つからないように偽装を施しておりまして、2、3日中には工事が完成いたします」

「分かった」


 到着早々僕の魔力を察知したのだろう。

 地球の会社で例えれば、僕は各地に支社を持っている企業の本社会長で、ドナンは地方にある会社の支部長のみたいなもの。

 本社トップが突然登場しても、こうして大慌てでご機嫌伺に来るのは当然と言えた。


 ……ドナンって第二拠点の管理職として役に立ってるけど、こいつの前世って実は日本で会社員してたんじゃないか?


 あまりにドナンがご機嫌伺に慣れてるものだから、そんなことをつい思ってしまった。


 ま、今回はドナンのことは重要でないのでどうでもいいか。



「ところで、レギュラス様は今回何用でこちらに?」

「別に第二拠点に用があったわけじゃない。北へ行ってやりたいことがあるから、ここを経由しただけだ」

「北ですか?」


 自宅から北の方角にあるのが第二拠点。

 今回僕が目指しているのは、この第二拠点よりさらに北。ベヒモスと遭遇した当たりの荒れ地だった。


「でしたら、スケルトンどもをお供に伴われますか?」

「いや、必要ない。それに今回は、周りに誰かいると確実に死ぬからな」

「はいっ!?」


 突然死ぬなんて言われて、ドナンが唖然としている。

 顔が骸骨なので、そこに表情が浮かぶことはないけれど、声の調子から理解することができる。


「言っておくがアンデットでも死……いや、もう死んでるから、消滅の方が正しいな。消滅するぞ」

「……」

 僕の物騒な言葉を聞いて、ドナンが沈黙してしまった。


「と言うことで僕は急ぐので、これでな」

「お、お待ちください。拠点の出口までお見送りいたします」

 僕がそそくさと移動を始めると、その後をドナンとスケルトンたちが慌てて追いかけてきた。




 僕は拠点の出口までドナンたちに見送られ、その後はドラゴニュートの翼を羽ばたかせて空へと飛んだ。

 自宅から持ってきた荷物が大きいので、少し飛びにくい。


 普段はあまり翼を使って空を飛ばないけれど、今回は風魔法も用いて空を高速で飛ぶ。

 風の属性竜の性質を持っていることもあって、僕は兄弟の中でも空を飛ぶ速度は最も速かった。


 しかも今回は風魔法にかなりの魔力を割くことで、普段以上の速度を出して高速で飛ぶ。

 そうして1時間ほどの時間を掛けて、前回ベヒモスと遭遇した場所までたどり着いた。


「ふうっ、さすがに全力飛行すると魔力が減るな」


 転位魔法陣の使用に、魔力を大量消費しての高速飛行。

 ドラゴニュートの莫大な魔力をもってしても、枯渇が心配になるほどゴッソリ減った。

 地上を歩くと何日もかかる距離をたった1時間で移動したのだから、魔力の消費が跳ね上がるのも仕方ないことだった。


 だが今回に限っては、どれだけ魔力を消費しようとも、僕の魔力が枯渇する心配はない。


「では始めようか、デネブ」

(……あの、レギュラス様、本当にやるんですか?マジでやめしょう、私こんなちっとも可愛くない骨になんてなりたくない!)

「フフフ、脱石器時代のためだから拒否はさせん!」

(ウワーンッ)


 頭の中でデネブが拒否してくる。

 だが、僕は石器時代を抜け出すため、そして現代文明へとたどり着くために、デネブに体を持たせ、働かせまくらなければならない。

 魔道具や機械に関して、デネブは僕より優れた知識と技術を持っている。

 この性格ポンコツ女に体を与えて、そういった方面での労働を専門でやらせなければならない。


 だから、僕は今回準魔王級の魔族であった、故ムシュフシュの骨をこの場に携えて持ってきた。

 僕の両手の鞄には、研究部屋で魔術紋を施したムシュフシュの骨、さらに上級魔族13体分の骨を詰め込んで、わざわざここまで運んできた。


 今から、僕はこの骨をアンデット化させる。

 最初にアンデットにするのは、ムシュフシュの骨。

 これはただのアンデットでなく、生前の準魔王級を超えた、魔王クラスの力を持ったアンデットとして強化し、生み出す。


「では早速始めよう、"変身(メタモルフォーゼ)魔王(フォーム・サタン)"」

 僕は強力なアンデットを生み出すため、ドラゴニュートの姿から、前世の魔王であった頃の姿へ転じた。

 それもいつものように、人差し指や両手を魔王時代のものにするのではない。頭のてっぺんから足の先まで、そのすべてを前世の肉体へと変化させた。




 その瞬間、太陽は輝きを失った。

 世界を巡り生命の息吹を運ぶ風は停止し、大地は黒い灰と化して消え去る。

 光は失われて闇に覆われ、深淵の底から恐るべき存在が鎌首をもたげて現れる。


『ああ、生きとし生ける者たちよ、その全ては死に絶え我が王国へ誘われる。

 世界よ、我が存在を前にして、その生命の息吹を止めてくれよう。

 あらゆる者たちよ、我が存在を知りて、絶望の中へ沈むがよい』


 ただの御大層な中二病患者のセリフだな。


 だが、この日この世界のこの場所に、かつて別世界に君臨した魔王、レギュラス・アークトゥルスが顕現した。




 僕は前世の姿に戻った後、自らの両手を眺めた。

 黒色。

 それは第二拠点の地面を壁を天井を埋め尽くす、劣化黒曜石の黒を連想させる。

 いや、劣化していない、本然の黒そのものの黒曜石だろう。


 黒曜石の手の指はドラゴニュートの時よりも細く長く伸び、5本の指が全て鉤爪のように細く鋭い。

 腕もまた細く、人の形をしているドラゴニートの時よりはるかに長く伸びる。


 足も極端に細長く、胴にしてもそれは同じ。

 全身が黒曜石で出来たかのような硬質の姿をした魔王。

 それが僕、いや"前世"での僕の姿だ。


 この姿になった途端、僕は周囲の世界を感じ取る感覚が極端に広くなった。


 ドラゴニュートの時にも、人間の時にもなかった、第6、7、8の感覚と言った、人外の領域の感覚が感知できるようになる。


 今この場所から、遥か頭上にある宇宙の静寂すら感じ取ることができる。


 ――スウーッ

 一つを息を吸い込んだ。


 それだけで、真下にあった地面が一瞬で崩れ去り、黒い灰となって壊れ消えていく。


 同時に大地と空中に存在する魔力が全て僕の中へ奪われて行き、僕に莫大な魔力を奪わせてくれる。

 この体はあらゆる存在を滅ぼし、そこに存在する生命もエネルギーも魔力も根こそぎ奪い去る。



「ああ、懐かしい。」

 存在物を消滅させる代わりに、存在を維持していた力の全てか僕のものとなる。


 吸収(ドレイン)なんて生易しい力ではない。

 これは世界そのものから、あらゆる存在を奪略奪し、強奪し、奪っていく力。


 そして言葉を呟けば、死の陰々とした波動が巻き起こり、周囲に黒い暴風が吹き荒れた。

 その風が嵐となって吹き荒れれば、空にある雲を黒く染め上げ、切り裂き、雲が黒い雨に変化して大地へ降り注ぐ。

 その雨は死の雨となり、荒れ地の大地に点々と存在した草花を枯れさせていく。


(レギュラス様、素の状態でしゃべったら駄目ですよ)

(そうだね、この体になると声を出すだけで、これだもんね)


 大地の草が枯れた後、地面も黒い色へ染まっていき、やがてそれらが酸の雨に打たれたかのように、溶けていく。



 僕の前世である"魔王レギュラス・アークトゥルス"。

 その種族名は"アニマ"と呼ばれる魔族で、存在するだけで周囲のあらゆる存在を貪り食らい消滅させる存在。

 世界に存在しているあらゆる物の消滅を代償にして、自らに尽きることのない魔力とエネルギーを得ることができる。


 そこには動物も植物も有機物や無機物であることなど関係ない。

 ただ存在するだけで、世界を貪り食らう存在。


 ただその場にいるだけで世界そのものを喰らっていく、最悪の存在と言えた。



 それゆえに僕の前世の父は、その力を外に漏らさないために厳重な封印が施された地下の施設に隔離され、全身を封印用の鎖で雁字搦めにされた上で、身動き一つできないようにされていた。

 それでも時折上げる、悲鳴のような叫びによって、封印施設の外にまで力を発し、世界を振るわせ、侵食し、犯す波動を放っていた。

 そのせいで封印施設の周囲は、何も存在しない場所となっていた。


 大地どころか、大気も、光も存在しない虚無のような空間。


 そんな世界の天敵とも呼べる存在が、アニマと呼ばれる種族だった。



 この姿になったことで、僕は世界を喰らうことで、そこから莫大な量の魔力を絶えず得ることができる。

 世界が存在している限り、それを喰らい続けることで無限の魔力を得ることができるため、今の僕はドラゴニュートの時に持っていた魔力とは桁違いの魔力を持つことができる。



 とはいえ、この体は存在しているだけで世界に存在している物を消し去っていく。

 前世では父に施されていた封印具に似たものをつける事で、能力の大半を抑え込んでいたけれど、今の僕にはその封印具が何一つなかった。


 この状態のままでいれば、今いる世界を喰らい続け、侵食し続けてしまう。

 そして、いずれは世界そのものを完全に喰らいかねない。


 僕とて、そんなことは全く望んでいない。



 では、早速目的のためにアンデットを作ろうか。


 今の僕には、無限と言っていい魔力がある。

 なのでドラゴニュートの時ではできなかった、準魔王クラスの魔王の死体を、強制的に魔王クラスの存在にまで引き上げたうえで、アンデットにすることが容易くできる。


 強化する際に不足している魔力など、世界を喰らうことでいくらでも補填が効くのだから。


後書き



 前々からずっと書きたいと思ってたところを、やっと一つ書くことができました。

 うわー、当初予定していた話のプロットらしきものを、やっと一つ消化できるー!

 それだけ話の進むペースが遅すぎるんだよー!



(更新が止まって、何度も間が空いて、未完で終わらせようと何度したことか~)

 と、最後の一行は余計ですね~

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