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211 新たな資源に夢が広がる(Byレギュラス)

 兄弟たちが第二拠点で訓練したり、働いたり、寛いだり、いろいろしている。

 その頃僕はドナンの執務室で、拠点にいない間の報告を受けていた。



 まずは拠点周りの治安問題。


「拠点周りのモンスターはほぼ駆逐し終えました。その際にシャドウの方々がアンデット化させたモンスターがいるのですが、これはワシの判断で拠点の兵士に組み入れておきました」

「なるほど。でも、シャドウがアンデット化した連中って、労働力としてちゃんと機能するのかな?」

「その点はご安心を。レギュラス様ほどではありませんが、シャドウ様方もアンデットに対して洗脳……労働教育が行えるようになりました」


 ドナンがシャドウを様付で呼んでいるけれど、ドナンは第二拠点の管理者として立場的にはシャドウより上になる。

 ただ戦闘能力とアンデットとしての格では、完全にシャドウの方が圧倒していて、それゆえに様付で呼んでいた。


 ま、それはそれとして、今"洗脳"って失礼な言い方したよね。

 そんな思いが僕の表情に出ていたのか、ドナンが慌てて、"労働教育"と言いなおしていた。


「シャドウもそういうことができるようになったか。それはいいね。ユウはアンデットを作ることはできるけど、労働用の教育ができなかったからね。それをできるなら、あいつらにさらにアンデットを増やさせてもいいね」


 素晴らしい労働精神にあふれた労働者(アンデット)を、シャドウたちがさらに増やしていく。

 ああ、いいねぇ。

 労働力が増えたら、出来ることがますます増えていくじゃないか。


 今すぐには予定してないけど、僕たち兄弟が住む街……最初は村程度かな?とりあえず崖にある自宅じゃなくて、平地にちゃんとした住処を作って住みたいね。

 何しろ僕の目標は、今の原始時代だか石器時代みたいな、モンスターをハンティングしている生活から抜け出す事。

 ちゃんとした文明人になりたいことだからね。


 文明人としては、街への定住は大事なこと。


 もっともマザーがいるので、住処を移せるのがいつになるかは分からないけど。



「ところでアンデットの数が増えましたので、また拠点が手狭になってしまいました。なのでアントを動員して、拠点をさらに拡張させております」

「うんうん、その辺のことはドナンの判断に任せているのでいいよ」

「ははっ」


 いやー、こういう判断をドナンはできるからいいね。第二拠点を任せるのに、ぴったりな管理職だ。

 これが他のアンデットどもだと、脳みそがスカスカで考える事すらろくにできないから困るよ。


 中間管理職が不足しているので、僕の中でドナンの有用性が上昇だ。




「それとレギュラス様の命令で、探索隊を周囲へ派遣しました。ただワシの生前の知識にあった周囲の地理とかなり変わっていたようでして……」


 ドナンの報告は次へ移る。

 僕たち兄弟はまだ生まれたばかりの赤子同然で、勝手に遠くまで行くとマザーに捕まって連れ戻されてしまう。


 この世界について知る前に、まずは自宅周りをもっと詳しく調べたいのだけど、それができないので、代わりにドナンに調査を命じておいた。


 それにドナンは僕たちと違って、生前はこの辺りを旅してまわった経験があるからね。

 とはいえ、ドナンは死んでアンデット化した後は、僕たちと出会うまでの間、ずっと闇に閉ざされた地下にいた。

 アンデット化した上に、太陽の日が差さない場所で過ごしていたため、時間の感覚が完全に失われていた。

 そのせいで自分が何年、あるいは何十年、下手すれば何百年地下にいたのかも分からない有様だった。


「お恥ずかしながら、自分の記憶と周囲の地理がかなり変わっているため、他の種族に出会うことができませんでした」

「ふむっ」


 生前のドナンの記憶では、ここから北の方には小人族の村があり、東へ行けば山脈があって、そこにはハーピーたちの集落があるらしい。

 あと、上半身が人で下半身が馬のケンタウロスなんて種族もいるらしいけど、拠点のアンデットたちに調査させても、それらの種族と出会えないでいる。


「レギュラス様のご期待に応えられず申し訳ございません」

「まあ、すぐに出会えなくても仕方がない。それに急いで探している訳でもないから、他種族との遭遇はそこまで焦らなくてもいい」

「はい」


 とはいえモンスターでなく、知恵のある他種族と遭遇できれば、いろいろな情報を手に入れることができる。

 それにうまくすれば、交易もできるかもしれない。

 そういった存在にいまだに出会えないのが残念だね。



 そして話は次へ移る。


「ところで有用な資源が近くにないか調べるようにも言ったが、そっちはどうなっている?」

「それでしたら、レギュラス様にお喜びいただける報告がございます」


 今度は資源の話。

 現状僕たちは、モンスター由来の素材ばかりを加工して使っている。それ以外では劣化黒曜石や、いびつな形のガラスくらいしか作れない。


 なので、生産に利用できる資源の確保は必要なことだった。


「まずはこちらをご覧ください」

 そしてドナンが執務用の机の上に並べたのは、宝石だった。


 その一つ一つを僕は手に取って確かめていく、青い色をしたサファイに、琥珀(トパーズ)、それにエメラルドといった宝石だ。


「そういえばフレイアがアンデットたちから石を受け取っていたけど、もしかしてこれか?」

「左様です。フレイア様は光物がお好きなようですので」

「そうだね」

 美人で光物が大好きなフレイア。

 将来性格が悪い悪女にならなきゃいいけど。

 いや、既にその鱗片が時たま見えているんだけどね……。


 そんな僕の個人的な思いはともかく。


「品質も大きさもたいしたことがないクズ宝石ですが、アントたちに周辺の地面を掘らせているので、今後それなりのものが出土する可能性があります」

「なるほど。宝石があれば、他種族に会った時に通貨代わりに使えるかな?」

「はい、宝石は希少ですので、ワシの故郷であるドワーフの里でも重宝されていました。ただ昔この辺りにいた種族は小さな集落程度でしたので、宝石にそこまでの価値を見出すかどうかは……」

「つまり宝石を(かね)の代わりに使えるかは、相手次第ってことか」

「そうなります」


 うーん、ドナンのいたドワーフの里はそれなりに文明が進んでいたようだけど、この辺りは昔から文明のはずれに位置する場所だったらしい。


 原始人とは言わないけど、宝石の価値が分からない相手と宝石で取引しようとしても、それは無理な話だよね。

 とはいえ、まだ他種族に出会っていないので、この件で頭を悩ます必要は今のところない。



「それと宝石以外で、近くに岩場を見つけました」

「岩場?」

「はい、白い岩でして、切り出して使えば建築材料に使えます」


 白い岩と言えば、大理石かな?

 そこまでいかなくても、建材に使えるなら大助かりだ。


「それはいいね。今は僕かリズが劣化黒曜石を作って、無理やり拠点の建材を補充しているからね。岩場の切り出し作業は早いうちに進めてくれ」

「御意にございます」


 アンデットたちで建材用の岩を取り出せるようになれば、僕とリズの負担が減る。

 第二拠点ではアンデットが増え続けていて、それを収容するために拠点工事を常に続けている。

 ただ建材の補充が追いつかなくて、地面や天井が土のままなんて場所が増えていた。

 何しろ第二拠点は、拠点なんて立派な呼び方をしているけど、元は地面に穴を掘っただけの場所だからね。



「そして次ですが、これらの品が」

 建材の話が終わり、続いてドナンが出してきたのは茶色と黒の塊の二つ。


 まず茶色の塊だけど、それは僕たちの自宅に一番最初からあった、鳥の巣染みた巣で使われていたもの。

「おお、木だ!」

 木だよ。

 木材だよ。


「今まで荒れ地しか見なかったから、この辺に木は生えてないと思ってたけど、ついに木を見つけたんだな!」

「はい。しかしレギュラス様、随分とお喜びのようですが?」

「当たり前だろ。だって木だぞ木。いいか、文明と言うのは木がなければ成立しないほど重要なものなんだからな!」

「さ、作用でございますね」


 僕としては木を見つけたのは、この世界に転生してから一番の驚き……なのはさすがに言いすぎだけど、興奮せずにはいられない。


 何しろ古代の人間は、火を手にすることで他の動物たちとは異なる生き方をするようになった。

 つまり文明の始まりだ。

 そして古代の人間が火を手にするには、木を燃やす必要がある。

 だからこそ、木から文明が始まったと言っても過言でないわけだ!


 それに木材は、建築の材料に使えれば、道具の材料にもなる。

 文明の基盤を支える存在が、木なんだよ!



「木ということは、もちろん森もあるよな。これからは大量の木材を手に入れられるんだなよな!?」

「は、はい。ここから西の方を探索した結果、森を見つけました」


 僕がテンションを高くしているせいか、ドナンが引き気味に答えている。


 だが、そんなドナンの態度などどうでもいい。


「木材を手に入れた、これで勝てる!」

「いったい何に勝つのです?」

「文明だ」

「は、はあっ」


 僕のこの世界での重大事項は、非文明を抜け出して、文明的な生活を手にすることだからね。

 間違っても、服が破けて素っ裸になっても平気で生きていける、ミカちゃんみたいな原始人になりたくないから!


 この重要性を理解してないようで、ドナンの返事には呆れが混じっていた。



「コホン、僕としたことが少し興奮してしまったようだ」

「少しですか?」

 ――ギロリッ

「……」


 さて、木を見つけた興奮でつい我を忘れてしまったけれど、冷静になると少し恥ずかしいね。

 さっきドナンが何か口走ったけど、それに関しては視線で黙らせておいた。



 それはそれとして、ドナンが木材に続いて机に出した黒い物体は何だろう?

 手に取って、しげしげと観察。


「石炭か」

「はい、石炭です」


 そこでドナンの顔が、ニヤリと笑ったように見えた。

 既にドナンの体はリッチとなって全身は骨しかない。だが、それでも骸骨の顔が笑ったのを、この時の僕は直感で感じ取った。


「やはりドワーフなだけあって、石炭は嬉しいみたいだな」

「はい。木材でも火を起こすことができますが、石炭はそれ以上の火力を得ることができます。これがあれば、高温で鉄を鍛えることもできます」

 ドワーフと言えば、鍛冶。

 そして鍛冶に欠かせないのは、鉄とそれを溶かすための強い火力だ。

 木材以上に、石炭を見つけたことがドナンには嬉しいのだろう。


 アンデットになっても、ドナンには生前のドワーフだった時の本能が残っていた。

 そして僕も、ドナンと心を同じくしている。


「これで鉄鉱石さえ見つければ、鉄製品を手に入れることも不可能じゃないな」

「と言うよりレギュラス様、実はすでに鉄鉱石も見つけております」

「本当か!」

「はい」

「フ、フフ、フハハハハッ」


 笑いが止まらなくなってしまった。


 石炭と鉄。

 この2つがあれば、一気に文明を推し進めることができる。


 鉄は戦闘に使う武器や防具になるだけでなく、鋤や桑に使用して農具にだってできる。

 あるいはそれ以外にも用途は様々にあり、地球の現代文明においても鉄は抜かすことができない資源だ。


 ああ、もういっそのこと蒸気機関を作ろうかな。

 火力発電所を作って、電気を手に入れよう。

 電気が手に入れば、こんな野生生活ともおさらばできる。


「でも、この辺りだと大量の水を手に入れられる場所がないな」

 僕は頭の中で、一気に電化までしてしまいたい思いに駆られた。

 だけど、火力発電所を作るには大量の水がないとできないからね。

 あれは強い火力で水を蒸発させて、水蒸気の力でタービンを回して発電している。水がなければ、火力発電はできない。


 いや、それ以前に、まずは鉄を加工する炉がいるし、発電所なんてそうすぐにできる物ではない。


 とはいえ工業系の技術はデネブが詳しいので、これから毎日徹夜で働かせれば問題ないか。


死の進曲(デスマーチ)労働なんて嫌……)


 頭の中でデネブの呻く声が聞こえたけど、そんなの僕には関係ない。


「ドナン、よくぞやった!」

「ははっ、お褒めにいたたぎ光栄にございます」


 鉄と石炭を見つけて喜ぶ僕とドナン。

 これだけの仕事をしてくれたドナンを、僕は手厚くねぎらった。



 これからの目標は、電気を手に入れる事。

 いきなりは無理でも、なんとしても電気を手に入れなければ。

 そしてゆくゆくは、現代文明レベルの技術を作っていく事だね!


 ――目指せ、脱原始人・石器時代人生活!





 ……とまあ、夢は大きく抱きたいけれど、それはそれとして。

 今回の旅は自宅を出てから20日近く経っている。

 今までより遠い距離を移動したのでそれが原因だけど、いい加減家に帰らないとマザーが現れて大変なことになりそうだ。


 もちろん僕たち兄弟は大丈夫だけど、今ここにマザーが現れたら、確実に拠点ごとアンデット軍団を壊滅させかねない。

 なんたって、マザーだからね。

 過去にどれだけのアンデットが、マザーに「ナニコレ?」と言われて、踏み潰されたことか。

 それは嫌すぎる。


 ここまで拠点を大きくしたのだから、このまま破壊されてなるものか。



 というわけで、僕たちはその日は第二拠点で一泊すると、翌日には自宅への帰路についた。


 なお、ドラドが拠点の外に穴を掘ることで、そこにスケルトンベヒモス用の車庫ができた。

 ドラゴン体型のドラドでは大まかな作業しかできないけど、あとの細かい部分はドナン率いるアンデットアントたちに任せておけば問題ない。


 自分がいない間に仕事を任せられる管理職がいると、本当に助かるね。




 そんなこんなで、僕たちは自宅へ帰った。


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