210 車庫と女王様フレイア
「おお、ベヒモスをアンデット化するとは、さすがはレギュラス様でございます」
今回の狩りの旅も無事終了。
自宅に帰る前に、僕たちは途中にある第二拠点へ戻ってきた。
そこで僕たちを出迎えにたのは第二拠点の管理を任せているドナンと、3体のシャドウ。
そして僕のことを死の王だなんだと持ち上げているので、王様の出迎えよろしく、ぞろぞろとゴブリンヤ土狼などのスケルトンの軍団も出迎えていた。
なお今回はフレイアが頭を吹き飛ばした頭なしベヒモスと、僕が倒したベヒモスの二体をアンデット化させた。
他の兄弟たちが倒したベヒモスもいたが、あれはレオンの魔法とリズの攻撃で前足の骨が2本とも折れていたため、スケルトンにはしなかった。
骨式ダンプカーとして使うにしても、肝心の足が折れてたら使えないからね。
なのでこのベヒモスに関してだけは、骨をバラシて武器などの材料にするつもりだ。
ちなみに、頭がないスケルトンベヒモスだけど、こいつは頭がなくても周囲の光景が見えている。
いや、正確には"見えている"という表現はおかしいか。
アンデットであるために、アンデット独自の感覚を持っていて、それによって視覚ではない別の感覚で、周囲の光景を理解しているのだ。
それはさておいて、
「こいつらの管理も今日からドナンに任せる。マザーに見つかると面倒だから、普段は拠点内に入れておきたいが……」
「おお、このように巨大なスケルトンまで私が管理を!」
リッチ化したとはいえ、ドナン程度の実力ではベヒモスをアンデット化させるのは無理がある。
時間を掛ければともかく、僕やユウみたいに、簡単にアンデットにはできないだろう。
そんなアンデットを自分の管理下においていいと言われ、ドナンの声はいつも以上にかしこまったものになっていた。
たださあ、
「この出入り口じゃあ、ベヒモスの出入りは無理だろ」
そう言ったのはミカちゃん。
僕も言いながら気づいたのだけど、第二拠点の出入り口は最大で砂蜥蜴の大きさを想定したものだ。
僕たちドラゴニュートは身長の高低はあっても人間サイズ。それと比べればバジリスクの方が大きい。
そしてそんなバジリスクより、さらに巨大なのがベヒモスだった。
間違っても、こんな巨大スケルトンを拠点の中に入れることはできない。
「あー、仕方がない。拠点の傍に穴を掘って、そこを車庫代わりに使うか」
「車庫ですか?」
車庫という言葉の意味が分からないようで、骸骨の頭をかしげるドナン。
「車庫って……兄さん、ベヒモスのことを完全にダンプカー扱いしてるんですね」
「当たり前だろう」
ユウが呆れた声を出してるけど、僕の中でベヒモスは便利なダンプカーだ。
全身骨しかないので、体の上に荷物を置くことができないけれど、それは荷台でも何でも取り付ければいいだけの話だ。
そうすれば大量の荷運びができるようになる。
そしてダンプカーであれば、わざわざ拠点内に入れなくても、傍に倉庫を作ってしまっておけばいいじゃないか。
というわけで僕は、スケルトンベヒモス用の車庫を作らせることにした。
もっとも車庫と言っても、単にマザーに見つからないように、穴を掘るだけだ。
この作業はアンデットアントたちに任せておけばいい。
第二拠点の拡張工事の際、穴掘りにアンデットアントが大活躍しているので、こいつらに車庫用の穴も掘らせればよかった。
『ドラドも手伝うー』
そして今回はその作業に、ドラドも参加。
すっかりドラゴニュート姿でいるのが当たり前になっているドラドだけど、メタモルフォーゼを解いて元のドラゴン姿に戻ると、全長10メートルのドラゴンになる。
ドラゴニュート形態では考えられないほど大きな姿になると、ドラドは尻尾を振りながら、前足を使って拠点近くに穴を掘り始めた。
ドラドは土の属性竜の性質を持っているので、案外穴を掘ったりするのが好きなのかもしれない。
「泥だらけになるだろうから、あとでお風呂に入れないとな」
そんなドラドを見て、僕は呟いた。
さて、車庫掘り作業……なんだか表現としていろいろおかしい気がするけど、とりあえずその作業をドラドに任せると、僕たちは拠点内で解散した。
アンデットたちが屯している不死者の住処と化している第二拠点だけど、居住性を上げたおかげで、今では結構快適な場所になっている。
劣化黒曜石で壁も床も天井も整えられ、僕たちのいない間にドナンが手をまわして、装飾も施され始めている。
この拠点内で、ミカちゃんはユウやシャドウたちを伴って戦闘訓練。
リズは拠点で常に必要になる劣化黒曜石の制作作業を行う。
一方フレイアは、玉座の間にある椅子に座っていた。
そんなフレイアの前にアンデットたちが揃っているのだが、アンデットたちはなぜかキラキラ光る石を持っていた。
……宝石か?
あいつらフレイアに命令されて、密かに宝石探しとかしてたんじゃないだろうな?
そんな宝石を一つ一つ手に取り、フレイアは目をキラキラと輝かせている。
あと、レオンはそんな宝石の原石に水のブレスを吐きかけて、土汚れを落とし、綺麗にしていた。
フレイアが女王様になっている。完全に女王様だ。
玉座に座って、宝石を堪能している。
長身の美女フレイアには大変よく似合う光景だけど、
「見た目は大人に近くても、中身2歳児のすることじゃないだろう!」
そう突っ込まずにいられない。
戦闘では火力超特化で、美人で宝石大好き。
将来フレイアは、男どもから光物を貢がせる女になる気がする。
現に今僕の目の前では、男の代わりにアンデットどもが宝石を貢いでるわけだからね。
……フレイア、頼むから悪い女にならないでおくれ。
もう完全に手遅れに思える。
僕は妹の将来に不安しか持てなかった。




