208 スケルトンベヒモス
「モガモガ、モガガガガーッ」
フレイアの魔法でベヒモスを倒したので、その肉を解体していつものようにご飯だ。
そしていつものように意地汚い食い意地を発揮して、ミカちゃんが口の中に肉を詰め込みまくっている。
「ミカちゃん、まるでハムスターですよ」
「モガガーッ」
『ユウ兄、ハムスターって何?』
「ハムスターっていうのはね……」
ユウに注意されるけど、口一杯に肉を詰め込んでいて、喋れなくなっているミカちゃん。
そしてユウの知らない言葉にドラドが反応していた。
その後ドラドにハムスターのことを教えるユウは、相変わらず保父さんぶりが板についていた。
「レギュラスお兄様、どうぞ焼きたてのお肉です」
そんな光景を見ていた僕に、フレイアが焼いたベヒモス肉を持ってきてくれた。
「ありがとう。おっ、結構おいしいな」
「フフフッ」
上級魔族ほどではないけど、今まで僕たちが狩っていた骨と皮ばかりのゴブリンとは全然違っていた。
体が大きいから、当然肉が分厚くて、噛み応えがあっておいしい。
「この噛み応えが素晴らしいです。噛めば噛むほど奥深い味わいが肉汁からこぼれ出してきて、一口噛むたびにまるで違う肉を食べているような幻想を抱いてしまいます」
うん、リズのグルメリポートは相変わらずだね。
しかし、僕にはリズが一体何を話しているのか理解できないよ。
僕はリズ並みのグルメじゃないからね。
まあ、それでもこの肉がおいしいのは分かるけど。
『んふふー、おいしいー』
そしてドラドは、尻尾をフリフリしながら鼻歌交じりに肉を口にしていた。
いいね。
ミカちゃんみたいな、意地汚い幼女おっさんと違って、ドラドは可愛い妹だよ。
どうかドラドが、ミカちゃんや日々怖さが加わっていってるフレイアみたいなりませんように。
そう思う僕だった。
ところでベヒモスはかなり巨大で、解体しながら食べているので、大量の血が流れだしている。
野生の環境では、これだけ大量の血が流れれば、そこに肉食動物やモンスターが集まってくるのが普通だけど、そんな生き物が全く現れない。
あわよくば血の匂いに誘われたモンスターを逆に血祭りにして狩ろうと考えてたのに、当てが外れてしまった。
残念だ。
そして残念と言えば、ベヒモスの頭から生えていた角。
見た目が象牙ぽかったので、調度品に加工できないかと考えていたけど、フレイアが魔法を放った際頭と一緒に木っ端微塵に吹き飛んで原型を留めていなかった。
あとに残されていたのは、元角だったボロボロの消し炭で、それに手を触れた瞬間、形を失って崩れ去ってしまった。
僕、思うんだけどさ。
ベヒモス倒した魔法を使えば、普通に地球の戦車を破壊できると思うんだ。
そして、あれはフレイアの全力には程遠い一撃だ。
フレイア、一体君はどこへ向かって行ってるんだね?
妹が破壊魔神になったら嫌だから!
そう思うと、僕はつい黄昏れて遠くをぼうっと眺めてしまった。
野生の世界で強いのはいいことだけど、フレイアの将来が僕は大変気がかりだよ。
こんなことがありつつ、僕たちはベヒモスを倒した日は、その場で野営することにした。
ベヒモスが超巨大なので、底なしの胃袋を持つ僕たち兄弟が総がかりでも食べきることができず、処理をするのに1日かかってしまった。
フロートカーに解体した肉を乗せることもできるけど、冷蔵庫なんてないので、早いうちに食べきらないと痛んでダメになってしまう。
レオンに氷魔法を使って冷却させ続けるって手があるけれど、さすがにそれを常時続けるわけにもいかない。
なので、僕たちはベヒモスの肉を食べきるまで、この場に留まることになった。
そして間食した後は、ベヒモスをいつものようにアンデット化。
だけど、
「……兄さん、本気ですか」
「本気だけど」
なぜかユウが躊躇っていた。
「こんな巨大生物ですよ。そんなのアンデット化して平気なんですか?」
「何をいまさら、いつもやっている事だろう」
「いや、でも……」
煮え切らない態度だね。
相変わらずと言うか、ユウは気弱で、優柔不断なところがある。
悪い意味で日本人らしい性格を、ユウはしている。
「いつもやってることなんだから、心配しなくていいよ」
説得は面倒。
というわけで、今回は僕がベヒモスの骨をアンデット化させることにした。
そしてアンデット化は無事成功。
フレイアの魔法が原因で頭の骨は残ってないけど、それでも全身骨だけになった"スケルトンベヒモス"が4本の足で立ち上がる。
「よしよし、お前は巨大だから荷物運びに便利だな。せっかくなので、"ダンプカー"という名をやろう」
「名前じゃねえだろ!」
僕が折角つけてあげた名前なのに、なぜかミカちゃんが反対してきた。
分かりやすくてすごくいい名前なのに、何が不満なんだろう?
そして不満の声を出したミカちゃんだけど、すぐに興味はスケルトンベヒモスに移る。
「なあ、これって乗っても大丈夫だよな?」
「もちろん。スケルトンゴブリンと同じで、僕の命令には逆らえないから」
「ウヒョー、頂上は俺様のものだー!」
問題がないと分かると、早速ミカちゃんが翼を羽ばたかせて飛んでいく。
そのままベヒモスの一番高い場所。背骨の先端辺りに降り立つと、何やら腕を前の方に突き出して謎のポーズを取り出した。
「いいなー、僕も僕もー」
『ドラドもー』
そんなおこちゃまミカちゃんの後を追って、レオンとドラドも続いていった。
そうして3人はべひもんベヒモスの上で、キャッキャと声を上げ始める。
試しに僕がベヒモスに歩くよう命令すれば、ベヒモスが一歩動いただけで、3人は嬉しそうに歓声を上げていた。
スケルトンベヒモスが子供のおもちゃになる当たり、僕の兄弟たちは大概だよね。
「なんで皆あれが怖くないの?」
そしてそんな兄弟たちと違って、ユウだけがそんなことを呟いてる。
「デカいのは見た目だけだから」
そんなユウに、僕はそう言っておいた。
全く、他の兄弟たちと違ってユウだけは相変わらずこれだよ。
スケルトンベヒモスを怖がってるみたいだけど、何が怖いんだろう。
大量にものを運べる、便利な労働力になるのが確定してるのに。
「フフフッ、お前は荷運びダンプカーだぞ」




