207 巨大生物ベヒモス
今回の狩りの旅は第二拠点を経由して、いつもよりさらに北の方へ行ってみた。
というか、今までの狩りは第二拠点の周辺でしていたことが多く、このあたりのモンスターは大概僕たちの胃袋に収まってしまうか、拠点にいるアンデット軍団によって討伐されてしまった。
食べた方はともかくとして、拠点のアンデットたちにモンスターを討伐させたのは、拠点周辺の安全を確保するためだ。
ただそのせいで、僕たちの狩りは以前より遠出する必要ができてしまった。
そして今までの狩りの旅で行った事がない場所まで来たけれど、地面に草がぽつぽつ生えているだけの荒れ地で、出てくるモンスターも今までとさほど変わりがない。
ゴブリンに土狼。
洞窟があれば中にアントがいるだろうけど、あれはマズくて食べられないので、わざわざ相手をする必要なんてない。
そして砂蜥蜴に関しては、この辺りまで来ると生息域を抜け出してしまうようで、全く姿を見なくなった。
とはいえ遭遇するモンスターがいつも通りなので、それらを狩って食べて、最後にアンデット化させる。その結果、今回の旅で作ったアンデット軍団が100体を超えた。
していることはいつも通りだね。
「ふうっ、これで全部ですね」
「お疲れ様」
アンデット化作業がひと段落して、額の汗をぬぐうユウ。
しかしユウ。君もすっかりアンデットを作るのに抵抗感がないどころか、当たり前と思うようになったね。
よしよし、ユウには労働力確保要員として、将来も頑張ってもらおう。
ああ、素晴らしきかな、不眠不休で働ける労働者。
「レギュ兄さん、嬉しそうだねー」
「レオン、あれは嬉しくて笑ってるんじゃない。あれは、黒い笑みだ!絶対ろくなこと考えてないぞ!」
つい自然と笑顔になっていたようだ。
ひんな僕を見て、レオンとミカちゃんがそんなことを言っている。
「イヤだな。黒いわけないじゃない」
「どうせブラック企業経営者染みたことを考えてたんだろ!」
「フフフッ」
「ムギィー!労働者の敵めー!」
ミカちゃん、図星だよ。
こんな感じで、じゃれ合いをしたりした。
そんないつも通りな狩りの旅だけど、僕たちはここにきて、今までに見たことのないモンスターに遭遇した。
「まあ、大きいですわね」
『そうだね。でも、マザーに比べたらすごく小さいよ』
「ドラド、マザーと比べるのは可哀そうですよ」
「皆冷静に話してるけど、どう見ても僕たちとは大きさが違うよ」
現れたのは巨大モンスター。
それを前にしてフレイアとドラド、リズは割と暢気に話をしている。
そんな中、1人ユウだけが慌てていた。
だが、
「ウヒョー、あれはきっとベヒモスだ、ベヒモスに違いない。てなわけで、俺の飯になれー!」
なんて言って、ミカちゃんはブルーメタルタートルソード片手に突進していった。
「ミカちゃん、いくら何でもあれは無理ですよ!」
「飯じゃ、飯じゃー!」
もちろん、ユウの言うことなんて、ミカちゃんの耳には入ってすらいない。
「見た目が大きいだけで、大丈夫そうだけどね」
「ええっ!?」
全くユウは、何を1人だけ慌てているんだろうね?
僕を含めて、ユウ以外の兄弟は皆ベヒモスのデカさには驚いても、それを危険と認識していなかった。
ちなみにミカちゃんが言うベヒモスだけど、地球だったら、ゲームや小説で割と出てくるモンスターのひとつだ。
とはいえ、その姿は登場する話によって違いがある。ただどんな話でも、ベヒモスの体は非常に大きいのが特徴だ。
現に僕たちの前に現れたベヒモスは高さが4、5メートル、体長は倍以上ある超巨大生物だった。
地峡で例えれば、ダンプカーみたいなものかな?
そんな巨大生物が、4本の足で走りながら僕たちの方へ向かってくる。頭の先からは2本の長い角をはやしていて、それがベヒモスの強さと凶暴さを象徴しているかのよう。
とはいえ、見掛け倒しだね。
そして僕は、あの角を象牙みたいに使えないかなとか考えてたりする。
象牙だったら細工を施して調度品にできるね。第二拠点は劣化黒曜石でほぼすべてができているので、どの部屋も黒い色をしている。
そのせいで魔王城とか、不死者の城とか、暗黒神殿かと、兄弟から散々な言われようをしている。
けど、そこに象牙の白色が加われば、少しはましにならないかな?
ドナンの奴は生前は両親から彫刻を仕込まれていたそうだから、任せればいい品を作ってくれるかもしれない。
あっ、でもあいつって僕の玉座とか抜かして、ガーゴイルが彫られた悪趣味極まりない椅子を作ったことがあったか。
あいつってドワーフらしく技術力は高いのに、趣味が悪いよなー。
なんて考えていた間に、ミカちゃんが突進してくるベヒモスめがけて大ジャンプ。
ドラゴニュートの力で、地上4メートルはあるベヒモスの頭の高さにまで簡単に飛び上がり、「お覚悟ー」なんて叫んで、ベヒモスの頭に切りかかった。
その結果、
「ギャャヒンッ!」
剣は見事ベスモスの眉間をとらえたのだけど、頭の分厚い革に阻まれて、剣が通らなかった。
そのままミカちゃんが、ベヒモスに弾き飛ばされてしまう。
「畜生、そういやこの剣全然切れないのを忘れてた!」
弾き飛ばされたものの、ミカちゃんは空中で翼を羽ばたかせて滞空する。
こういう時に翼があるって便利だね。
しかし、それはそれ。
ミカちゃんが武器にするブルーメタルタートルソードは、刃が付いていない。
今までに倒してきたゴブリンとかだと、ミカちゃんの技術力と、ドラゴニュートパワーのおかげで、刃なしの状態でも斬ることができたけど、さすがに巨大モンスターベヒモスの革は切れないようだ。
斬れない剣では、ただの鈍器になってしまう。
「ど、どうしましょう」
そしてそんな光景を見て、ユウがビビッている。
「ユウお兄様、大丈夫ですわ」
一方他の兄弟たちは、いまだに余裕。
フレイアが一歩前に出て、口から小さな炎を噴き出した。
その炎にフレイアの魔力が加味されて、小さな炎がみるみる間に大きくなる。
「弾け飛びなさい」
「フレイア、どこでそんなセリフを覚えたんだ!」
きめ台詞を口にして、フレイアは作り出した炎の塊をベヒモスへと放った。
その炎はベヒモスの頭部に見事直撃。
直後、ドカーン。
なんて表現では生ぬるい大音声が轟いて、辺り一帯の空気を震わせた。
あまりにも音が大きすぎて、鼓膜がおかしくなりそうだ。
僕だけでなく、兄弟皆が耳を塞いでその音に耐える。
それは魔法をぶっ放した当のフレイアも同じだ。
まるで爆弾でも爆発させたかのような音だ。
僕は急いで風魔法の"遮音結界"を張って、爆音を強制的に遮断させる。
これで爆音から耳を守ることができた。
「フレイア、魔法を撃つのはいいけど、自分にまで被害が出る魔法はやめようか」
「はい、レギャラスお兄様」
今回の魔法は爆発音がひどすぎる。
こんな産廃魔法をすぐ傍では使って欲しくないね。
僕に注意されて、フレイアの尻尾がシュンと地面に垂れ下がってしまった。
ただそんな説教はしたものの、フレイアの魔法が命中したベヒモスは、頭部が木っ端微塵に吹き飛んで、その巨体を地面に横たえていた。
頭が吹き飛んでは、どう考えても生きていられない。
即死だよ。
ドラゴニュートの魔法恐るべしと言うべきか、はたまたフレイアの火力超特化の魔法恐るべしと言うべきか。
まあ、いずれにしてもベヒモスは魔法一発で簡単に倒されてしまった。
ベヒモスが巨大でも、フレイアからすればこの程度の相手にしかならないわけだ。
ところで今回フレイアが用いた魔法は、炎系統の魔法と言うより、爆発系の魔法と言っていい。
「爆裂魔法使いフレイアたん、恐るべし!」
火力超特化のフレイアの魔法に、いつの間にか傍に戻っていたミカちゃんが呟いていた。
しかし、僕もミカちゃんと同じで怖いよ。
このままフレイアが成長していくと、破壊の化身にならなきゃいいけど。
兄弟の中では、僕を除けば一番火力に特化しているのがフレイアで、しかも過去に一度ブチギレて、核兵器並みの威力を持つ最終破壊魔法も使ってるからね……。
こんな物騒な妹ってイヤだなー。




