205 体を乗っ取られので、大変だねー(棒読み)
高位の竜や、上級魔族の中でも更に上位に位置する個体、そんな者たちには自分の肉体が滅び去っても、再び同じ種族の中に前世の記憶を持ったまま蘇ることできる存在がいる。
つまり転生というわけだ。
ただしこの場合の転生は、小説によくある異世界転生でなく、あくまでも同種族の中に蘇る転生だ。
この転生に関しては、同種族に蘇る以外に、自分を殺した相手の魂を喰らって、体を乗っ取るなんて芸当もできた。
ところで、このような説明をなぜしているのかだけど、それは僕の現状にある。
「ゴレームの作り方、死者の蘇生法、人工生命の想像。なんだ、なんだこの知識の奔流は。 これらの情報はまるで魔王の……いや、それすらも及ばない神の領域を犯す知識ではないか。ク、クハ、クハハハ。
なんだと、この世界は丸い!?
そして世界の創造に関する知識。
ハハ、ハハハハ、ハハハハハ。
なんと素晴らしい、至高の叡智。
これがあればワシこそが、今代の魔王に代わって新たな魔王に……いいや、それすらを超えて、神となってくれよう。
フハハハハハハハ」
天井知らずのハイテンションで、恥ずかしげもなく高笑いをしている馬鹿だけど、これはあろうことにも僕だ。
もちろん研究部屋に徹夜で籠って作業をした結果、とうとう頭がおかしくなったわけではない。
正確にいうのなら、体は僕であっても、その中身は魔族の魂だった。
その魔族の名前はムシュフシュという。
この世界に存在している魔王軍の四天王最強にして、魔王に次ぐ実力から副王の称号を持つ高位の魔族だ。
僕がデネブの体用にしようとしていた準魔王の死体があったけれど、そこに入っていた魂だった。
これだけのレベルの魔族であるから、当然転生ができるわけで、そんな魔族の魂に僕は乗っ取られてしまった。
意識はあるけど、自分の体を自分の意志で動かすことができない。
(ああ、大変だ。
困ったな。
どうしようかなー)
ま、全く困らないから棒読みだけどさ。
そんなことより、魔族が僕の知識を読み込んで注意が逸れている間に……
(ギョッ、ギョエエェェェェェーーーーー)
そこで、僕の体の内部。
魂とか精神世界と言っていい領域で、サブ人格デネブの絶叫がとどろき渡った。
(イヤー、なんでここに他人がいるの。イヤ、イヤ、イヤーーーーーーー!!!)
「な、なんだ。なぜ精神世界の中に別人格が!」
(イヤだ。ハ、ハ、ハハ、ハハハ、ヒィ、バクリッ)
……南無南無。
あろうことにも僕の魂の中に入り込み、体を奪おうとしていた魔族ムシュフシュは、パニック状態のデネブに食われてしまった。
そう、文字通り食っちゃったんだよ。
精神世界の中でも、魂ってパクリと食べられるんだよ。
(ウ、ウゲェー、変なの食べちゃった)
「おいデネブ、食うなよ!」
(だってだってー。私たちの中に他人が入り込んできたんですよ。それをあろうことにレギュラス様は放置するし。イ、イヤ、他人嫌、怖い、人間怖い)
「あれは人間でなく魔族だがな」
(魔族も怖い、知的生命体ダメ、絶対ダメ。ダメダメダメ!)
「……」
相変わらずデネブはポンコツだ。
重度の対人恐怖症なので仕方がない。
「しかしなー、お前食うなよ。僕の体を乗っ取ったつもりで浮かれている間に、あいつの記憶を覗こうとしたのに、デネブがいきなり食ったせいでろくな情報を手に入れられなかったじゃないか」
(他人なんてNoー!)
ムシュフシュが僕の知識を読み込んで興奮していたけど、僕もそれと全く同じことをするつもりだった。
僕はこの世界に転生してからというもの、この世界についての情報はろくに手に入れられてないからね。
ただムシュフシュという魔族の記憶を読み取ろうとしたら、デネブが先に反応してムシュフシュの魂を食ってしまった。
そのせいで、ろくな情報を得ることができなかった。
食ってしまえば、もうそこから記憶を読み取ることはできなかった。
なお僕という存在は、かつてシリウス師匠から不老不死の薬を飲まされた効果によって、僕の魂に対するいかなる攻撃も無力化することができる。
今みたいに、ムシュフシュが僕の魂の中に入り込んで、僕の魂と体を乗っ取ろうとしたけれど、僕の魂の中に入ったが最後、ムシュフシュの魂の生殺与奪は僕の手のひらにあった。
師匠が名付けた不老不死と言う薬は、肉体に対しては不完全な不死性を与えるものだけど、魂という部分に関しては、真の意味で不老不死を実現する代物だった。
おかげで肉体が死んでも、魂が永久不滅でいられるため、別の体に新たに転生することができるわけだった。
その効果のおかげで、魂に対する攻撃は、僕とデネブに対しては全く効かなかった。
今回はムシュフシュを躍らせて、その間にこの世界に関する情報を調べようとしただけなんだよね。
でも、デネブのせいでろくに調べることができなかった。
(イギャギャギャ、蕁麻疹が、蕁麻疹がー!変なの食べちゃった。ペッ、ペペペッ)
「……この役立たず女」
この後も、対人恐怖症と勢いで魔族の魂を食べたせいで、デネブはただひたすら醜態をさらし続けた。
本当、どうして僕のサブ人格はこんなにポンコツなんだよ!
まあ、それはそれとして、この世界にも魔王軍がいるんだね。
しかも、今回の相手は魔王軍のNo2とか。
わずかとはいえムシュフシュの記憶を覗き見た範囲では、魔族は人間と戦争をしているという情報もあった。
でもそんなことよりさ、
「僕がおねだりしたのが原因だけど、それで魔王軍のNo2を狩ってくるとか、マザーってかなり危険じゃない?」
だって、子供のご飯が、魔王軍のNo2だよ。
ありえないでしょう。
「マザーってマジでヤバイ」
前々からマザーの能力は、前世の僕(魔王)以上なのは感じているけど、これは本当にヤバイかも。
まあ、僕はマザーの敵でなく身内なので、危険なことはないと思うけどねぇ……。
なんだか面倒なことをこれ以上考えるのが嫌になってきた。
とりあえずムシュフシュからはたいした情報を得られなかったし、アンデット作成の続きでも……いや、さすがに4日目の徹夜は無理だから、もう寝よう。
連日の徹夜に、さすがに2歳にもならない体では耐えられないようだ。
僕は考えることを放棄して、その場で寝ることにした。




