203 今日のご飯は上級魔族
――GAAAAOOOOOOOOOO------!!!
『子供たちご飯よー!!!』
今日も我らドラゴニュート兄弟の偉大なる母は、僕たちのためにご飯を運んできてくれる。
口の中からたくさんの獲物を、ボトボトと僕たちが住んでる巣の中へ吐き出していく。
いつもの光景だ。
「ヒャッホーイ、飯じゃ飯ー」
そして真っ先にミカちゃんが駆けていき、その後をレオンが追いかけ、他の兄弟たちが続いていく。
これもいつも通りの光景。
たださ、
「うひょー、うめぇー!」
早速マザーが運んできた獲物を口に入れたミカちゃんが大興奮。
白銀の尻尾をフリフリと振りまくって、風が起きてしまうほど。
実にご機嫌な様子が見て取れる。
たださ、たたさあ……
ちょっと待て!
マザーが運んできたのが、黒い肌をした上級魔族なんだけど。
それも、1、2体なんて些細な数でなく、その数は10体以上……えーっと50くらいいるんじゃないか?
マザーがデカいとはいえ、よくこれだけの上級魔族を口の中に入れていられたものだ。
「てかさあ、これだけの数の上級魔族って、魔王城でも潰しに行かないと手に入らない数だよね……」
この世界のことに関して、いまだにたいしたことを知らない僕たち。
なので僕が前世で魔王をしていた頃の知識をそのまま当てはめるのはよくないのだろうけど、これだけの数の上級魔族にお目にかかるとすれば、それは魔王城くらいのものだ。
でなければ、大規模な戦争で上級魔族が集まっているなんて場合が例外だろうか。
上級魔族はその辺に溢れているゴブリンと違って、かなり数が少ないんだよ!
いずれにしても、マザーが今回運んできた獲物の数は質量ともに、とんでもないレベルだった。
僕がマザーにおねだりして上級魔族を食べたいとは言ったけど、さすがにこれだけの数を一度に運んでくるとは、僕としてもあまりに予想外すぎる。
その有様に呆然としていた僕だけど、そんな僕に気づくことなく他の兄弟たちは上級魔族に群がっている。
ミカちゃんは既に食べ始めていて、フレイアとレオンは劣化黒曜石の鉄板を取り出して、焼肉の準備。
リズとドラドの2人は、瀕死の状態で虫の息をしている上級魔族たちの首をひねって殺していく。
ほとんどの上級魔族は体に致命傷を負っていたり、首があり得ない方向に曲がって死んでいるものの、中には虫の息とはいえ、まだ生きている個体がいる。
そんな個体を殺していく事に、リズもドラドも躊躇いなんてない。
リザードマンっぽい外見のリズはともかくとして、、人化しているドラドはミカちゃんにそっくりな愛らしい姿をした幼女だ。
いや、ミカちゃんのような変態性がないので、ドラドの方が純粋に可愛い女の子だった。
ただ、そんな愛らしい外見なんて関係なく、普通に上級魔族の首を、ゴキゴキと音を立てて捻っていく。
ドラゴニュートパワー恐るべし。
まあ、僕たち兄弟の中では、元がドラゴン体型のドラドが一番物理的な力が強いんだけどね。
そしてユウは劣化黒曜石のナイフを使って、上級魔族の肉をはぎ取っていく。
前世日本人で、この兄弟の中では一番マトモな性格をしているユウだけど、今では野生のドラゴニュート生活に適応して、死体の肉を剥いだり切り刻んでいく事に全く躊躇いを見せることがなくなっていた。
そして上級魔族の皮膚は、弾力性に優れていて、いろいろな道具の素材として利用することができる。
というわけで、ユウは、ナイフを器用に使って上級魔族の皮を剥ぐ作業までしていた。
このモンハン原始人生活にすっかり適応してしまってるね。
「レギュラスお兄様、早くご飯にしましょう」
「兄さん、早く食事にしましょう」
そんな中、フレイアとユウの2人が僕を呼んでくる。
「……そうだね」
食べる事に夢中になっているミカちゃん以外の兄弟が僕の方を見ていたので、僕も兄弟たちの所へ行って、本日の獲物である上級魔族を食べる事にした。
でもさあ、ゴブリンじゃないんだよ。
今日のご飯は全部上級魔族。
「マザー、もしかして魔王まで倒してないよね?」
上級魔族の死体の中には、明らかにただ者でないものまで混じっていた。
さすがに魔王とはいかないだろうけど、生きていたら準魔王級の能力を持っていそうな死体も何体かある。
だけど、そんな僕の問いにマザーは、小首をかしげて不思議そうな顔をするだけだった。
答えはあまり聞きたくないのでその反応で、別にいいけどさ。
さて、気を取り直して食事だ。
というわけで、早速上級魔族の肉をパクリ。
「やっぱり上級魔族の肉はおいしいな!」
そのおいしさに、僕は思わず尻尾を自然とフリフリしてしまうほどだった。
「……」
そして我が家のグルメリポーターであるリズは、上級魔族の肉を口に入れた瞬間、無言になってしまった。
「リズ、今日の肉の感想は?」
「レギュラス兄上、本当においしい物を食べた時、言葉でそのおいしさを語ることはできないのです。ムシャムシャ」
それだけ言って、リズは無言で上級魔族の肉を租借し続けていった。
お、おうっ。
よく分からないが、今までに食べてきた肉の中で一番おいしいということらしい。
その後もリズは無言で、ムシャムシャと食べ続けるだけだった。
そしてほかの兄弟たちだけど、
「ウフフッ、このお肉を"高級松坂牛"って言うのね」
なんてフレイアは訳知り顔で言う。
いやいや、松坂牛じゃないから。
誰が教えたのか知らないけど、松坂牛と上級魔族は全く違う肉だから。
「ドラド、口の周りに血がついてるよ」
『んんっー、とってもこのお肉おいしいのー』
ドラドも尻尾をフリフリ、興奮しながら肉を口に入れていく。そんなドラドの横で、顔についている血を拭いてあげるのはユウだった。
相変わらずユウの保父さんレベルが高いんだけど。
「すごくおいしいねー」
そしてレオンも尻尾をフリフリ、暢気にご機嫌な様子。
「フシャー、なくなる前に俺が全部食う。他の奴らには渡さんぞー!」
ミカちゃんもおいしい肉に興奮しているけれど、相変わらず意地汚い性格をしていて、自分が少しでも他の兄弟より多く食べようと、むしゃらに大量の肉を口の中へ突っ込みまくっていた。
「うげっ、ゲホゲホゲホッ。慌てて食べ過ぎて、変なところに肉が入った!」
相変わらず、ミカちゃんってこんな性格してるんだよねぇー。
あまりにもがめついて食べるので、咳をして咽てしまった。
「まあ、おいしいからいいかっ」
ミカちゃんのことはともかく、僕も上級魔族の大量の肉を食べられることに喜びながら、食事を続けていく事にした。
「マザー、こんなにたくさんのお肉をありがとう」
最後に僕はこれだけ豪華な獲物を運んできてくれたマザーに、お礼を言っておいた。
――GGGAAAAYYYYOOOーーー!!!!
『いいのよ、これもレギュちゃんたちのためだから』
そんな僕に、マザーが愛おしげに鳴き声を上げてくれた。
そして、僕は思う。
――フフッ、これだけ上級魔族の死体があれば、かなりの労働力を確保できるな。
僕は心の中でこっそりと笑った。
「……あのー、レギュさんや。今物凄くあくどい顔をしてましたぞ」
「ミカちゃん、気のせいだよ」
「……ぜってえ、嘘だー」
なぜかミカちゃんが物凄く嫌そうな顔をしてきたけれど、それに僕は笑顔を浮かべて答えておいた。
別に悪いことを企んでいる訳じゃないから、怖がる必要はないよ。
フフフフフッ。




