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1 妹

 ――メキメキ、バリバリバリッ


「フンギャー」


 なんかものすごい音がして、卵から禿の女の子が出てきた。

 生まれたてなので禿げているけれど、生まれたての赤ん坊みたいにサルみたいなクシャクシャの顔はしていなかった。

 青い瞳をしていて、そこそこ愛らしく可愛げがある顔立ち。

 まあ、それでも禿げてることに変わりないけど。


 ちなみに大きさは赤ん坊ではなく、幼女と言っていいサイズ。

 デカいなー。生まれた瞬間を見てなかったら、間違っても赤ん坊と思わない大きさだ。


 でも、生まれた瞬間に「フンギャー」って叫んでるからなー。

 見た目だけ見れば可愛いけれど、なんか可愛くない気がする。



 ちなみに卵から生まれてきは僕も同じだけど、この場所にはまだ孵ってない卵が、あと5個ある。



「やあっ」

 とりあえず、僕は生まれてきた女の子――多分妹――に片手を上げて挨拶した。


「ガー」

 で、妹の幼女の方はそんな声を出してる。


 ……可愛げねえー。



 この幼女、姿形は人間だけど、背中には白色のドラゴンの翼があり、お尻からは白い鱗に覆われた尻尾がはえている。


 そして僕の方は、エメラルド色をした翼と尻尾だ。



 どうも僕と妹は、竜と人間の間に生まれる種族、竜人ドラゴニュートらしい。

 妹の姿を見て、僕たちの種族の正体に予想をつけた。



 ただそれはそれとして、生まれたばかりの妹は僕の方をまじまじと見て、それから僕の背中に生えている尻尾に掴みかかってきた。


「ガー、ギャー、グー」

 なんて言いながら、興味津々に僕の尻尾を手で撫でる。


 微妙にすくぐったいけど、特に悪さをするわけでもないからいいか。


 そう、油断した次の瞬間、

「シメー」

 と叫んで、妹は口を大きく開けて僕の尻尾の先端を齧ろうと……


 ――ブヲンッ


 危険を感じて、僕は咄嗟に尻尾で思い切り妹の顔面をぶん殴った。


 妹の体が空を舞って飛んでいき、木材でできた巣の壁に激突する。


 ――ドゴーン、パラパラパラ。

 なんて音がして、木材の壁が壊滅。さらにその向こうにある岩の壁に妹の体がめり込んだ。


「……うわっ、マジか。……大丈夫?」

 やったのは僕だけど、予想外どころじゃ済まない攻撃力だ。


 尻尾の一振りだけど、威力がおかしすぎない?

 生まれたばかりなのに、今の僕の力は人間レベルじゃない。

 ドラゴニュートはドラゴンと人間の混血だから、人間よりもヤバイパワーがあるのかな?


 ウワー、やばいなー。どれだけ馬鹿力してるんだよ。

 まあ、魔王に比べれば全然ヤバくないけど。


 なんて思いつつも、僕は妹の無事を確かめるため、破壊された巣の壁を乗り越えて、妹の体がめり込んでいる岸壁へ向かう。


「大丈夫かー?」

「フンガー」


 直後、壁にめり込んでいた妹が、全く可愛げも女らしくもない雄たけびを上げ、岩の中から這い出してきた。


 それどころか、そのまま空中に飛び上って、僕へ向かって空中踵落としを華麗にかましてこようとする。


 ――こいつには手加減は無用だ。

 僕は悟った。


 生まれたばかで、こいつはすでに完全な野生児だ。


 目を半眼にし、光をなくした冷たい目で、飛びかかってくる妹を僕は眺める。


 そして僕は、1歩だけ後退した。



 それだけで妹の踵落としを僕は回避する。

 けれど、目標を見失った結果地面に激突した妹の踵は、そのまま岩の床にめり込む。

 自分の体よりも広い範囲の岩が、一気にひび割れ、粉々になって吹き飛んだ。


「なんて一撃だ!」

 とても生まれたばかりの赤ん坊の攻撃力じゃない。

 ドラゴニュートって、マジでやばい!


 ――お前はもしかして魔王の生まれ変わりか何かか?

 と、言いたくなってしまう。


 ま、僕はマジ物の魔王の生まれ変わりだけどさー。



「フンガー」

 ところで、強烈過ぎる一撃を放った妹だけど、無事でなかったようだ。あまりにも強すぎた一撃の反動で、振り下ろした踵が滅茶苦茶痛かったらしい。

 そのまま地面の上を転がりながら、踵を抱えて悶絶している。


 なんだろうこの子。

 1人で勝手に自爆して、漫才でもしてるのかな?


 攻撃を避けた僕が言っていい事じゃないけど、この妹は見てると面白いなー。

 攻撃力はすごいけど、お頭は本当に生まれたままのレベルだ。


 妹は地面の上を転がりながら涙目になっているけど、そんな姿を見ている僕はクツクツと笑って見てた。



 ――えっ、性格が悪くないかって?

 伊達に前世は魔王をしてませんよ。

 フフフッ。



 なんて、微笑ましく思いながら、床を転がる妹を見ていた。


「ほら、大丈夫?」

 とはいえ、このまま見てるだけなのも悪いよね。

 床を転がる妹に手を伸ばして……。


「ウガーッ」

 直後、差し出した手を我が妹はあろうことにも噛みつこうとしてきた。

 僕は咄嗟に手をひっこめる。


「このクソガキが。僕に噛みつこうなんていい度胸してるな。ああっ、教育してやろうか!」


 少しだけ前世の魔王の貫禄が出てしまった。

 睨みつけてやったら、それだけで床を転がっていた妹がビクリと震え、動きが止まった。


 そして恐怖から、お漏らしをしてしまう。


 なお、僕も妹も生まれたばかりだから、その体は一糸まとわぬ全裸。

 妹の股から暖かな汁が出てきて、床に小さな水たまりが出来上がる。



「うわっ、バッチイ」

 生まれたばかりとはいえ、前世や前々世などの記憶を持つ僕は、思わず鼻をつまんで後退。



 そしてお漏らしをしでかした妹は、恐怖から我に返ると、なぜか、

 ――ドヨーン

 とした空気を漂わせ、近くで膝を抱えて体育座りを始めた。


 ものすごく落ち込んでいて、地面に指を突き立てて、訳の分からない文字を書いていじけている。



 これは間違いなく羞恥心があるね。


 ……てかさ、生まれたばかりの赤ん坊(見た目は幼女サイズだが)が、お漏らしに羞恥心を感じるのっておかしいよね。

 そう言うのは、もっと成長してから理解できるようになってくものだから。




 ――こいつ、前世の記憶もちの転生者か?絶対に前世の記憶持ちだよな。

 僕自身が転生者ということもあって、僕は妹が転生者で間違いないと決めつけた。

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