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195 シルバリオン対魔族(シルバリオン視点)

 上級魔族イコールおいしい御馳走かと尋ねられれば、『さて、それはどうだろう?』と、俺なら答えざるを得ない。


 俺やイグニスみたいな、最上級のドラゴンになると、生きていくのに必要なのは、肉ではなく魔力(マナ)で、それは空気中から摂取することができる。

 さすがに魔力100%では生きていけないので、たまに肉をとる必要があるが、一度食べればかなり長持ちするので、その気になれば2、3年食べなくても生きていられる。


 というか、ガキの頃を除いて、肉をやたらと食べるなんてことがなかった。


 そして上級魔族となれば、普通の生き物に比べて体内に保有している魔力(マナ)が多いので、魔力的な意味では美味と言えた。

 と言っても、進んで食べたいほどおいしいわけでもないし、豪華なわけでもない。


 珍しいので、滅多に食べられないだけだ。


 そして、俺は美食家でない。

 姐さんにしても、イグニスにしても、それは同じだった。



 しかしそんなことはこの際どうでもい。

 姐さんの命令だから上級魔族は狩って捕まえなければならない。

 これは絶対の命令だ。


 悲しいかな、姐さんの舎弟である俺もイグニスも、姐さんの命令に逆らえるほど無思慮ではなかった。



 てなわけで、姐さんの命令で俺とイグニスは、魔王軍の軍勢の中へ空からダイブした。

 地上には、蟻の大群、溢れるイナゴ。

 そんな感じで、ワラワラと魔族たちが溢れている。


 ほとんどは有象無象の低位の魔物(モンスター)たちで、ゴブリンやコボルト、その他雑多なモンスターだった。

 それらは俺たちがただ地面に降り立つだけで、プチプチと後ろ足で踏みつぶせる存在だ。


 たまにゴブリンに混じっているゴブリンメイジの放つ魔法や、ゴブリンアーチャーの弓矢が飛んでくるが、この程度の攻撃は、俺たちにとって攻撃と呼ぶのもアホラしい。

 鱗で簡単に弾けるし、目に当たったところで痛くも痒くもない。


 とはいえ、地上にはゴブリンが100万近く溢れている訳で、その数はとてつもない。


 魔族の軍勢と戦うのならば、このゴブリンたちの相手もすればいいだろう。

 だが、今回は上級魔族の確保が目的なので、ゴブリンやコボルトの存在は無視だ。



 ――GAOOOOOO!!


 俺が咆哮を上げれば、それだけで矮小なゴブリンやコボルトたちは頭を押さえて突っ伏す。


 俺の咆哮は、単に大気を震わせるだけに留まらず、咆哮によって発生した空気の振動が衝撃波となって、周囲に影響を与える。

 衝撃波はゴブリンたちの脳を直接揺さぶり、軽くても脳震盪、下手をすれば脳の内部が損傷して、命を奪い取る一撃となる。


 そのため俺の周囲では、致命的な一撃を受けたゴブリンたちが、瞬く間に倒れて身動き一つしなくなる。


 あるいは、離れた場所にいるゴブリンでも、強烈な衝撃波の余波で、耳の鼓膜が破れ、そこから血を流したりする。

 さらに遠方にいるゴブリンにしても、俺の咆哮のデカさに委縮したり、ビビッたりして、逃げまどい始めていた。


『さあどけ、でないと踏みつぶすぞ!』


 ゴブリンたちは俺の存在に圧倒され、俺の前からクモの子を散らすように逃げ始める。


 だが、何しろゴブリンたちはその数が数だ。


 小さな集団と違って、ゴブリンは地面を埋め尽くすように溢れていて、俺から逃げようとしても、すぐに後ろにいるのゴブリンにぶつかってしまう。

 それが各所で巻き起こり、押し合いへし合いの大混乱になってしまった。


 俺から逃げようとするゴブリンが、別のゴブリンに行く手を阻まれ、そこで互いに棍棒や剣をもって、『道を開けろ!』、『どけ!』と喚きあい始め、味方同士での乱闘まで始まる。



『ガハハハハ、面白いな。ほらほら、とっとと逃げないとペチャンコだぞ』

 俺と同じくゴブリンたちの前に降り立ったイグニスは、眼前で巻き起こる光景を見て、調子をよくしていた。


 ただでさえ混乱している場所で、さらに火炎魔法を使い、そこら中にマグマの池を作り出していく。

 瞬く間に万単位のゴブリンがマグマの池に飲み込まれ、体を焼かれ、蒸発していった。


 あまりの熱量に、ゴブリンの骨すら残ることなく消え去る。


 人間の子供が蟻の群れを踏みつけたり、巣穴に水を流し込んで溺れるさまを観察するように、イグニスは悪乗りして、混乱するゴブリンに、さらに追い打ちをかけている。


『イグニス、あまり遊ぶな。目的は上級魔族だからな』

『わ、分かってら。ただ、ちょっと面白かったから。ついな……』


 目が泳いでるぞ。

 イグニス、お前目的を忘れて、マジで遊んでただろう。


 まあいい。さっさと目的の上級魔族を確保してしまおう。

 イグニスの奴が上級魔族を捕まえられなくても、姐さんにボコられるのはお前だけだからな。


 そんなわけで、俺はゴブリンが溢れかえる地面を駈けて、上級魔族の気配がする場所へ突進していく。


 ゴブリンの群れを後ろ足で踏みつぶしながらの突進だが、こいつらは俺にとって障害でも何でもない存在にすぎなかった。


 たとえゴブリンたちが、俺たちのことをどう思っていようと、そんなことは関係なかった。



 そうして、俺たちは無人の荒野を駆け抜けるがごとく(あくまでも"ごとく"なので、実際にはゴブリンを踏みつぶしているが)、大地を駆け抜けていった。

 駈けている間に、俺とイグニスは別れて、別々の方向へと向かっていく。


 魔族相手に俺たちがわざわざ二人で固まって戦う必要もないので、別々に行動した方がいいと判断したからだ。


 そうしてイグニスと別れた後、俺は明らかにゴブリンとはレベルの違う、もっと上位の魔族が隊列を組んでいる場所にたどり着いた。



「白銀の巨大ドラゴン……まさか"皇竜(こうりゅう)"なのか?

 なぜそのような大物がこんなとこに。

 ……いや、今は考えている場合ではない。総員、防御結界を張れ!」


 たどり着いた場所では、部隊の指揮官格の魔族が俺のことを呟いていたが、すぐに頭を切り替えて、目前に迫る俺を危険と判断。部下たちに指示を出す。


 ちなみに"皇竜"というのは、俺の二つ名のこと。

 これでも、竜神と呼ばれる姐さんに継いで、俺はこの世界でかなりのビッグネームを持っている。



 それはともかく、魔族の指揮官の指示によって、俺の突進を阻もうと魔族たちが結界を展開する。


 数千の、それも明らかに下級ではない魔族たちによる防御結界。

 それだけの魔族が合同で展開した防御結界は、大規模攻撃魔法であっても耐えることができる強度となるだろう。


 ただ俺の場合だと、このまま体当たりしただけで、ブチ破れそうな気がする。


 気はするのだが、さすがに体当たりして結界を破れなかったら、皇竜なんて二つ名を持っている俺にとって、赤っ恥になってしまう。


 というわけで、

次元斬(ディメンション・カッター)

 次元魔法を放って、魔族たちが展開している防御結界の一部を破壊する。


 大規模攻撃魔法に耐えられる防御結界と言っても、それは通常のレベルでの話。

 俺がこの星最強クラスのドラゴンであるのは、誇張でも、妄想でもなく、列記とした事実だ。


 次元斬(ディメンション・カッター)の一撃で結界の一部を破壊すると、そこからクモの巣状に結界にひびが入っていき、瞬く間に結界が力を失って消滅していく。


「っ、化け物か!総員、攻撃魔法!」


 結界を魔法一つで破壊されたことに動揺しながらも、魔族の指揮官は、反射的に次の指示を出していた。

 優秀な指揮官なのだろう。


 だが、優秀な魔族の指揮官程度では、どうにかならないのが俺だ。



 ――GAOOOOOO!!


 単純な咆哮。


 先ほどゴブリンに対して咆哮を放つだけで圧倒できたように、この時俺が放った咆哮によって、この場にいた上位の魔族たちも、予想外に巨大な咆哮にパニックになっていた。


 脳を直接揺さぶられて倒れる者、耳を押さえて血を流す者。


 ただ巨大な咆哮を放つだけ。

 それだけで、上位の魔族たちの戦闘力を刈り取る。


 とはいえ、それでも相手はゴブリンよりも遥か上位の存在だ。


「我ら魔族を、舐めるな!」

闇の門(ダーク・ゲート)

存在の否定(ネガティブ・バースト)

狂乱の月光(カオスティック・ルナ)


 闇の門から黒い触手を無数に伸ばして、相手を拘束し、命を奪い取っていく闇の魔法。

 相手の存在を消し去る消滅魔法。

 精神に異常をきたし、廃人にする精神魔法。


 それ以外にも様々な魔法が、俺に向かって放たれてくる。


 上位の魔族に恥じない、並の魔法よりはるかにランクの高い魔法の数々。



『空気の圧縮(エアー・プレス)


 だが、それらの魔法に対して、俺は圧縮した空気の塊をぶつける魔法を放つ。

 もっとも、俺の底なしの魔力によって作られた空気の塊は巨大で、それは山のようなデカさとなって飛んでいく。


 俺に向かって飛んできた様々な魔法が、圧縮されただけの空気の塊に、簡単に吹き飛ばされる。


 そして物理的な効果のない精神魔法は、空気の塊を素通りして俺に襲い掛かってくる。

 だが、人間や魔族以上に精神の構造が頑強な俺には、この程度の精神魔法は防御する必要すらなかった。

 効かない攻撃に対して、いちいち対応をする必要など全くない。


 結果、魔族たちの魔法は風の塊だけでほぼ全て吹き飛ばしてしまう。

 どころか、空気の塊は魔法だけでなく、その向こうにいた魔族たちまで直撃した。


 だが、空気の圧縮(エアー・プレス)の威力があまりにも強すぎたため、風の塊に挽き潰され、原型をとどめない魔族の死体の山が大量に出来上がってしまった。


『おっと、いけない。このままだと上級魔族を捕まえられないな』


 目的はあくまでも上級魔族の確保だ。

 このまま普通に戦っていたら、上級も何も関係なく、全ての魔族を挽き潰しかねない。


 挽き潰して、ペースト化した肉の塊を持って帰っては、姐さんにボコられてしまう。


 これは、かなり手加減をしないとマズイな。



 俺がこのままドラゴンの形態で戦うと、魔族を跡形なく消し去ってしまいそうなので、手加減することにした。


 手加減の方法は簡単だ。



 "人化の術"。

 ドラゴンの形態から、人の形態へ変化する。


 俺の50メートルに及ぶ巨大な体が、白い光に包まれながらみるみる間に小さくなっていき、わずか2メートルにも届かない、小さな人の姿へ変化する。


 白銀の髪の、貴公子風の姿をした青年。

 変化している最中に、無限収納(アイテムストレージ)から、人型の時に愛用している槍を取り出して、それを構えた。


「さて、手加減してやるからかかってこい」


「手加減だと?お前たちドラゴンが突然我々に襲い掛かってきたかと思えば、今度は手加減だと?貴様らは、一体我ら魔族のことを何だと思っている!」


 さすがに上級魔族ともなれば、俺の空気の圧縮(エアー・プレス)をかいくぐって生き延びた個体もいた。


 生き残った魔族が激昂するが、それに俺は付き合う気はない。

 俺は魔族なんかより、姐さんの命令を守ることのほうが、遥かに重大なんだよ。


 そして俺にとっては、人化することで弱体化した今の状態の方が、"魔族を原形をとどめた状態"で倒しやすい。

 ドラゴンの状態だと体がデカいし、放つ魔法の出力が巨大すぎて、魔族相手にはオーバーキルどころのレベルで済まなくなっていた。


「我らの仲間の仇!死ねっ!」

 上級魔族が、それも数十もの数が、人化した俺に向かって一度に襲い掛かってくる。


 だがしかし、人化したおかげで、本当に戦いやすくなった。


次元の十字杭・(ディメンション・クロス・パイル)


 俺は腕を振って、次元魔法を発動。


 この魔法は相手の体を貫通して拘束する杭を、縦横の二方向から打ち込む次元魔法。

 2つの杭が縦横の2方向から魔族へ襲い掛かり、そのまま魔族の魔法防御力をいともたやすく突き破って、魔族の体をぶち抜き拘束する。


 その結果、魔族たちは十字架に貼り付けにされた処刑人のように、十字杭に拘束される。


 いや、拘束ではない。


 この魔法は、2つの杭が魔族の体を貫通して拘束している。

 そのため、次元の杭は体の中を突き破り、肉も内臓も貫通する。

 場合によっては、相手の脳すら一撃で破壊した。


 しかも十字の杭に貫かれ、拘束されたのは、俺に襲い掛かってこようとしていた魔族すべてだ。

 十字の杭に体を貫かれた魔族たちが、肉体を拘束され、貫かれ、死体となって、周囲に無数に出来上がる。


 まるで処刑場のような光景。



「人化して魔法を使えば、原型が残せて便利だな」


 この魔法は俺が元の姿であるドラゴンの状態で使えば、威力がデカすぎて魔族の肉体を簡単に挽き潰していただろう。

 しかし、人化したことで弱体化しているおかげで、魔族の死体を残すことができた。


 そして残った魔族の死体は、全て次元魔法無限収納(アイテムストレージ)の空間内に保存する。


「これくらい確保しておけば、姐さんも満足だろう」


 数十体の上級魔族だ。

 これで目的は達成だ。



「おのれ、許さん、許さんぞ。あの人の姿に化けたドラゴンを必ず始末しろ!」


 俺としては、これで面倒な戦いを終えてよかった。

 だけど、さすがに魔族の軍勢を一方的に荒らして回り、殺しまくったのがダメだったらしい。


 魔族の軍勢は120万はいるわけで、俺が戦ったのは全体から見れば、ほんの氷山の一角に過ぎない。

 そのために、上級魔族の数とて底知れぬ数が揃っていたようだ。

 俺が魔族の部隊を一つ壊滅させても、すぐに近くにいる別の魔族の部隊が、俺に向かって復讐心に駆られて攻め込んできた。


「やれやれ、弱いくせに、どうして死にに来たがるかな」


 面倒だけど、こいつらも相手をしないとダメなようだ。


 俺は人化したままの状態で次元魔法を使い、さらに襲い掛かってくる魔族たちを一度に10、20と叩きのめし、殺していく。

 そして魔法を掻い潜ってきた魔族には、接近戦で愛用の槍を使って体を突き刺す。




 ところで何を勘違いしたのか、槍で腹を突き刺して致命傷にした魔族がいたのだが、そいつが死ぬ間際の最後の命を振るって、俺の体に抱きついてきた。


「ク、ハハハ、お前の動きは封じた。これで俺の仲間が……」


 密着して俺の体を掴んでしまえば、それで動きを封じられると思ったらしい。

 決死の覚悟で、魔族は俺の動きを止めに来たわけだ。


「残念だが、無駄だ」

「なっ!」


 だがしかし、人化していても俺の膂力は魔族のそれを容易に上回る。

 張り付いてきた魔族を、俺は腕を振るって難なく払い飛ばす。


 俺に抱きついていた魔族の体はあっさりと、俺から引き離される。というか、吹き飛ばされるようにして空中を吹っ飛んでいく。


 自身の命を犠牲にして俺を拘束したつもりでいた魔族は、拘束をあっさり解かれてしまったことに、絶望の顔をしていた。

 だが、どうせこの魔族は生き残ることはできない。

 俺は、そいつのことをすぐに忘れて、さらに迫ってくる魔族の部隊を、次元魔法で一掃していった。



 その後は、魔族の数が多いのに辟易して、短距離転移魔法(ショートテレポート)を使って、短距離の空間を飛びながら、魔族たちを捌いていく。


 俺の方は、このまま長距離の転位魔法を使って戦場を離脱すればいいが、さてイグニスの奴はどうしているだろう?

 短距離転移魔法(ショートテレポート)を繰り返しながら、俺は途中で別れたイグニスの方を眺めてみた。


後書き



 我々『ゴブリン友の会』は、邪悪なドラゴンやドラゴニュートからの日々容赦ない弾圧に挫けることなく……グベラハーッ!



 我々『上級魔族友の会』は、邪悪なドラゴンからの容赦ない弾圧に挫けることなく……グベラハーッ!



 つまり、いつも通りですね。

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