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194 子供たちの御馳走(マザー視点)

『あら、気持ち悪い』


 シルバリオンに先導させて上級魔族がいるという戦場にやってきた私たち。

 空を飛んでいる私たちの眼下では、人間と魔族の軍勢が戦っている最中だわ。


『100万……いや120万はいますね、魔族の連中』

『これだけ群れてると、姐さんの言うように確かに気味が悪いな』


 なんだか虫の大群が群れてるみたいで、空の上から見ているだけでも気持ち悪くなってくるわ。

 イナゴやバッタが異常繁殖していて、それが空を真っ黒に染めるのを見たことがあるけれど、その時の光景を思い出しちゃったわ。


 その時は虫の大群が気持ち悪すぎたから、火炎魔法で群ごと全部焼き払って、消しておいたけれど。



 それと魔族と戦っている人間の軍勢もいるけれど、


『人間の方も10万くらいいますね。しかしこの数の差で、よく人間も戦おうと思ったもんだ』

 とは、シルバリオン。


 魔族に比べればマシだけど、人間だってこの数が集まれば、やっぱり見ていた気持ち悪くなっちゃうわ。



『でも、魔族の大部分ってゴブリンやコボルトでしょう。あいつらって数は多いけど、人間でも簡単に倒せるくらい弱いんしょう』

『そりゃ、確かに人間の兵士でも倒せますけど、1対1ならともかく、さすがに1対10の戦いになれば、人間の兵士じゃ勝ち目がないですよ』

『ふーん、そうなの。シルバリオンは人間に詳しいわね』

『そりゃ、たまに人間の街にも顔を出していますから』


 私たちならいざ知らず、人間だとこの戦力差は覆すのが容易でないみたいね。


 こんな会話をしながら、私たちは魔族と人間が戦っている戦場を空から睥睨していたけれど、


 ――グオオォォッ


 観察していた私たちに気づいたようで、魔族の軍勢の中から、空を飛ぶことができる飛行部隊が、私たち目掛けて突撃してきたわ。


 人間の背中からコウモリのような羽をはやした黒い魔族を筆頭に、鷲の上半身とライオンの下半身をもつグリフォンや、狼やヤギに蛇の頭などを持ったキメラがたくさん飛んでくる。


 数は1000くらいかしら?

 地上にいる軍勢からすればたいしたことがない数だけれど、それでも結構いるわね。


 でも、それより大事なことは、この飛行部隊を指揮していると思しき黒い魔族。

『シルバリオンの言う通り上級魔族がいたわね。とりあえずあれを捕まえちゃいなさい』

『分かりました』


 今回の目的である上級魔族がそこにいた。

 私たちはここに戦いに来たわけでなく、レギュちゃんのために、上級魔族を捕りに来ただけだもの。



 命令を受けたシルバリオンは、早速次元魔法を使って、上級魔族の周辺の空間を次元結界で他の空間と切り離す。


『よっと』

 それから少しためをして、シルバリオンは次元空間破壊(ディメンション・クラッシュ)をぶっ放した。


 魔法の効果によって、魔族の航空部隊が空間ごと歪んでいく。

 そしてそこから先は一切の音が出ることなく、魔法の効果範囲の空間の歪みが増していく。


 無音でありながら、空間が歪んでいくという、非常に現実感の伴わない不可思議な現象。

 この次元の歪みが極に達した時、そこにいた魔族は空間共々全て破壊、消滅させられた。


 1000の魔族はたった一つの魔法で全滅。いや、消滅したわ。

 ただしこの破壊の中で、次元結界であらかじめ隔離しておいた上級魔族だけは無傷。

 あらかじめシルバリオンが使った次元結界は、この上級魔族を消滅させないための、防御の役割を果たしていた。


 その後、たった一つの魔法で部隊を全滅させられた上級魔族は、間抜けな顔をして呆然としていたけれど、そんなことはお構いなし。

 シルバリオンが手招きすると、上級魔族を隔離していた空間がシルバリオンの手の方へと移動していく。

 まるで隔離された空間はシャボン玉のようで、上級魔族はその中に包み込まれているかのよう。


 この事態に上級魔族は我に返って悲鳴を上げ、魔法を放って結界を破ろうと抵抗したけれど、そのすべては不発に終わった。


 今の魔族の周囲の空間はシルバリオンの支配下にあり、この中では通常の魔法を使うことはできなくなっている。


 私やイグニスならば全く問題ないけれど、たかが上級魔族程度では、シルバリオンの次元魔法に対抗できるわけがなかった。


 そうしてシルバリオンは、上級魔族を手元に引き寄せる。


『生きたままがいいですか?それとも黙らせるために、潰しておきましょうか?』

『そうね、完全に息の根を止めるのはもったいないから、半殺しにしてちょうだい』

『分かりました』


 ――グチャッ

 シルバリオンが手加減をして、上級魔族を死なない程度に手で握り潰す。


 弱い魔族を一方的に嬲るのはあまりよくないことだけど、せっかく手に入れた上級魔族だから、これのとどめの刺し方を子供たちに勉強させるためにも、生きたまま持って帰るのがいいわね。

 今までにも弱いモンスターにとどめを刺すことを子供たちに教えてきたけど、今回は上級魔族なので、今までよりちょっとレアね。


 とはいえ、元気なままの上級魔族だと、今の私の子供たちには少しあぶない。

 なので、半殺しで息絶え絶えの状態にしておかないといけないわ。



『はい、姐さん』

 半死半生の上級魔族を、シルバリオンが手渡してくる。


『ありがとう、シルバリオン。でも、他にも上級魔族がいるみたいだし、せっかくだから他にも何体か見繕いましょう』

『えっ、まだ捕まえるんですか?』

『当然よ。レギュちゃんのためにも、そしてほかの子供たちのためにも、今日はレアな上級魔族のお肉をたくさん持って帰らなくちゃ』


 せっかくのレアな上級魔族だもの。

 地上にはイナゴや蟻のように魔族と魔物が溢れかえっていて、そこでは私でも滅多に見かけない数の上級魔族がいる。


『子供たちの御馳走のために、もっと狩るわよ』


『拒否権は……』


 ――ギロリッ


『わ、わっかりました姐さん!』

『俺、全速力で上級魔族を狩りに行かせていただきます』


 シルバリオンが余計なことを言おうとしたけれど、私が一睨みしただけで素直になったわ。


 その後、シルバリオンとイグニスは互いに先を争うようにして飛び出し、地上にいる魔族の軍勢へと突撃していった。


『さて、私も子供たちのために、おいしそうな上級魔族を狩らないと』


 さあ、そこで待ってなさいよ、御馳走たち。


 そう思い、私も地上にいる魔族の軍勢へと突撃していった。


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