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193 姐さんから見た子供たち (シルバリオン視点)

 ――悲報、姐さんが戻ってくる。



 上級魔族の居場所にめどがついたので、そこへ向かおうとしていた俺とイグニス。


 だが上級魔族を確保する前に、大陸中に散らばるドラゴンたちの咆哮ネットワークによって、姐さんが戻ってきたことが伝達された。



 そして俺たちは姐さんの舎弟である。

 望んで姐さんの舎弟になったわけでなく、単に生まれた時からの宿命、腐れ縁、同じ場所で育ってしまったが故の不幸。


 姐さんの舎弟であるからには、上級魔族を確保するよりも、まず姐さんの元へご機嫌伺に赴かなければならなかった。


 ここで、上級魔族を優先してはならない。

 そんなことして姐さんを出迎えなかったら、俺たちが舎弟としての礼儀ができていないと、教育という名の暴力にさらされてしまうからだ。


「急いで飛ぶぞ!」

「クソウ、姐さん戻ってくるのが速すぎだろ!」


 俺とイグニスは悪態をつくも、それでも出せるだけの速度を出して姐さんの出迎えに急いだ。




『あんたたち、上級魔族は見つけたの?』

 そして姐さんの元へと駆けつけるなり、早速姐さんが尋ねてくる。


 だが、ここで「まだ確保できてません」と、言ってはダメだ。

 そんな言葉を真っ先に口にすれば、ボコられてしまう。


『上級魔族の居場所は見つけました』


 そして続く『これから、そこへ行くつりもでした』という部分は、暗に口にしないようにしておく。

 そこまで口にすると、『まだ捕まえられてないの!?』と言われて、不機嫌になった姐さんに、やっはりボコられる可能性が高いからだ。


 だが必要最低限のことだけ言っておけば、上級魔族を捕まえてなくても、居場所を調べていたと姐さんに理解してもらえる。


『そうなの、じゃあ早速そこへ行きましょう。シルバリオン、案内なさい』

『分かりました』


 使う言葉に気を付けた結果、姐さんにボコられずに済んだ。


 さっそく俺は先頭になって姐さんを誘導して飛んでいく。

 その後を、姐さんとイグニスの2人が続いて、目的地へと飛んでいく事になった。



 とはいえ、北の大陸は俺たちドラゴンでもかなり広大で、目的地にすぐにたどりつけるわけでない。


 その間暇だったこともあり、姐さんは自分の子供たちの自慢話を始めた。



『末っ子のドラドちゃんは可愛くて、将来は間違いなく美人に育つわね。きっとオスのドラゴンたちにモテモテになるでしょうね。もちろん、生半可なドラゴンが手を出して来たら、私がドラドちゃんに手を出したことを後悔させてあげるけど』


『『……』』

 怖いよ。

 姐さん、目が笑ってない。マジなんですけど!


 俺もイグニスもドン引きだ。


『三女のリズちゃんは、女の子だけどキリリとしてるわね。いっそのこと男の子だったらよかったって思うくらいね。だけど、それがリズちゃんの可愛さなのよ』

『へー、将来が楽しみですね』


 無言だとどつかれかねないので、イグニスが適当にお愛想する

『言っておくけどイグニス。あんたが私の娘にちょっかいかけたら……』

 ――ブンブンブンッ

『め、滅相もないです。姐さんの娘に手を出すなんて絶対にないです!』


 姐さんにギロリと睨まれたイグニスが、大慌てで首を振る。

 てか、姐さんの娘に手を出すとか、俺にもイグニスにも、そんな蛮勇は絶対にない。

 姐さんが義理の母になるとか、今でさえ舎弟として、姐さんに言いようにこき使われているのに、それ以上になるのは勘弁して欲しい。


『三男のレオンちゃんは、まったりのほほんしてるわね。気が抜けすぎてるのが心配だけど、まだ子供だし、私の息子だから大丈夫よね』


 のほほん?

 この姐さんの息子が、のほほんだと!?

 どうしよう、俺、想像できない。


 そう思って、チラリとイグニスを見ると、こいつも摩訶不思議な顔をしていた。


 ドラゴンの絶対支配者、暴君、暴虐最強ドラゴンの姐さんの息子が、のほほんとした性格だとか、あり得ないだろう!


 そんな想像もできない息子の性格に、俺とイグニスは、この時かなり間の抜けた顔をしていたと思う。



 だが、そんな俺たちのマヌケ面に気づく様子もなく、姐さんの話は続く。



『次女のフレイアちゃんは、兄弟の中で一番光物が大好きでね。やっぱりドラゴンの血を引いてるだけあって、光物に目がないのは当然よね』


 光物が大好き。

 これはドラゴンという種族に共通している性格だったりする。


 俺なんか、人間の交易船が海に沈没していると、それを漁って中にある金銀財宝などを、無限収納(アイテムストレージ)の中に入れて、大量に保管してたりする。

 ああいう光物って、集めておくとなぜか嬉しくなるんだよな。


『やっぱ光物は最高ですよね』

『ええ、本当に』


 うっとりとした顔の姐さん。イグニスと俺もついつい相好を崩して納得してしまう。

 光物を集めて、貯め込んでしまう。

 これはドラゴンの本能みたいなものだから、仕方がなかった。


『でも、フレイアちゃんってこの前大規模魔法使って、小さな丘を一つ消し飛ばしてたのよね。まだ生まれたばかりだから、ヤンチャにならなきゃいいけど』

『『……』』


 生まれたばかりの赤ん坊が、丘一つ消し飛ばす魔法を使う。

 俺たちなら簡単にできることだ。

 だけど、俺たちでも生まれたばかりの頃に、そんな規模のデカい魔法を果たして使えただろうか?


(やっぱり、姐さんの子供ってヤバイんじゃないか……)


 暴力の権化である姐さんのことを思い、その子供たちもかなり凶暴なのではと思ってしまう。

 今は丘一つでいいが、将来大陸を吹き飛ばすとかしでかさないよな?

 そんな化け物レベルの存在は、頼むから姐さんだけにしてほしい。




『次男のユウちゃんは物知りでね。兄弟の皆にいろいろなお勉強を教えてあげてるわ。生まれたばかりなのに、とってもいい子よね。でも、子供が優秀すぎると、私としてはちょっとつまらないかもしれないわ。小さい子供は、少しくらいドジっ子の方が親としては可愛いのに』


 俺としては姐さんの子供たちには、ぜひとも優秀で自制心と理性のある性格に育ってもらいたい。

 姐さんにそっくりの性格に育ったら、将来絶対に俺とイグニス、そしてその他大勢のドラゴンたちが泣かされる羽目になるのは目に見えている。


 無論、その子供たちの戦闘能力がどうこうは全く関係ない。

 子供を怒らせたという理由だけで、姐さんに締め上げられそうだから……


「ああ、なんで姐さんに子供なんかできたんだろう」

 ――バシッバシッ


『シルバリオン、あんた今何か言わなかった?』

『き、気のせいですよ、姐さん』


 危ない!

 姐さんは地獄耳だから、つい口から出た本音を聞かれてしまうところだった。



『長女のミカちゃんは、とっても可愛らしい天使みたいな子よ。……ただ、たまに……いえ、結構な頻度で顔面が崩れて、モンスターみたいになっちゃうのよね……

 親の私が言っちゃいけないんだけど、あの顔すごく気持ち悪いのよ』


 これまで子供たちのことを嬉しそうに語っていた姐さん。

 だが、なぜかここでその言葉に気まずいものが混じる。


『モンスターみたいな顔面?気持ち悪い?』

『きっと姐さんの醜い心が子供の顔に出て……フォゲェーッ』


 一言も二言も多いイグニスが、余計なことを言ってしまう。

 直後姐さんに尻尾アタックをくらい、飛んでいた空から地面に叩き落された。


『イグニス?あんた言っていいことと悪いことがあるわよ』


 今俺たちが飛んでいるのは、上空5000メートルの高さ。そこから地面への大激突だ。

 まあ、この程度で俺たちは死なないけど、これはかなり痛いだろう。


 というか、地面に叩き落されたイグニスの周辺が、クレーターになっているのだが。


『全く、私の子供が醜いわけないでしょう。もし次にそんなこと言ったら、あんたが喋れないように、口の中の牙を全部叩き折るわよ』

『か、勘弁してくだせぇー、姐さん』


 地面に叩き落されたイグニスが、頭をフラフラさせながら姐さんに謝ってきた。


 しかしイグニスが言うように、姐さんの暴力的な性格が原因で、子供の顔がおかしくなったのじゃないか?

 本当にその通りだと、俺はイグニスに心の中で強く頷いてしまう。


 もっとも、俺は間違ってもそんな言葉を口に出さないが。



 そんなトラブルがあったものの、イグニスも再び飛び上がる。

 姐さんの攻撃をまともに受けて、やや頼りなくフラフラと飛んでいるが、まあ問題はない。

 昔から姐さんの舎弟として、肉体言語で教育されてきた俺たちは、この程度でギブアップするほど弱くない。


 ……弱くはないのだが、それが原因で、俺たちは姐さんから見たら、ちょっと頑丈なサンドバック扱いされていた。


 物凄く、悲しいことだ。



『長男のレギュちゃんは一番上のお兄さんで、しっかりしているの。ユウちゃんもしっかりしているけれど、でもユウちゃんは優しすぎるのよね。

 それと違ってレギュちゃんは私にそっくりで、ちゃんと兄弟を締めてるし、兄弟のリーダーとして完璧ね。

 レギュちゃんを見ていると、まるで私そっくりで頼もしいわ』


 兄弟を締めている、私そっくり!?


 姐さんはレギュという子供のことを嬉しそうに褒めている。

 だが、姐さんの嬉しそうな顔と声。何より、姐さんが自分にそっくりだと認めていることに、俺とイグニスは互いに顔を見合わせた。


(イグニス、姐さんそっくりの姐さんの息子がいるだと!?)

(シルバリオン、姐さん二世とか、マジでシャレにならんぞ!)


 ヤバイ、さっき子供たちが姐さんそっくりに育ったら……なんて思っていたが、まさか既に存在していたとは。


『ち、ちなみにそのレギュ君は、普段どんなことをしてるんですか?』

 なので、聞きたくはないが、しかしどれだけ凶暴な性格をした姐さん二世なのかを、今のうちに聞いておかなければならなかった。

 今のうちから少しでも知って、出会ったときのために、心の準備をしておかなければ。


『そうねー、レギュちゃんはお腹を空かせてほかの兄弟に噛り付いているミカちゃんを、拳でよく沈めてるわね。それに魔法もたくさん使えるけど、あの子って魔力の気配を隠すのがかなり上手なのよね。

 私でも、レギュちゃんの実力って少し分からないところがあるのよね。

 まあ、生まれたばっかりでこれだけできるんだから、将来はきっと私みたいに……いいえ、私以上に立派に成長してくれるはずよ』



 あかん、俺を含めたドラゴンたちの将来はものすごく暗い。


 嬉しそうに話している姐さんだが、もしも姐さん以上のドラゴンが出てきたら……。

 俺とイグニスは互いの顔を見合わせたが、心なしかイグニスの顔が真っ青になっているように見えた。

 きっと今の俺も、イグニスみたいな顔をしているのだろう。



 ハ、ハハハ。

 姐さん以上だと。

 頼むから、そんな子供を作らないでくれ、姐さん!


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