192 ドラゴン流内職?(シルバリオン視点)
人間の街で目的の情報を手に入れた俺は、街を出てイグニスが待機している場所まで戻った。
けれど、そこでは森林の中でごろんと寝転んで、暢気にイビキをたてているイグニスがいた。
『お前、俺が情報調べに行ってる間に寝るなよ』
『フアアッ。ん?シルバリオン、戻ってきたのか』
俺は責める口調になるけど、イグニスの奴は何のその。
もともとこういう怠惰な性格をしているから仕方ない。
ただイグニスはイビキと共に、口から火山性の毒ガスブレスを噴き出していたようで、森の一部の木が腐食し、崩れ落ちていた。
マグマの中を好んでいるドラゴンなので、長居すると、この森が毒ガスに覆われかねないな。
『上級魔族の居場所が分かった。姐さんが戻ってくる前に、さっさと捕まえに行こう』
『おおっ、やっと居場所が分かったか。じゃあ行くぞー!』
目的地は分かっている。
俺も人間からドラゴンの姿に戻って、イグニスとともに空へ飛びあがった。
ただ空を飛ぶと、先ほど俺が情報収集に立ち寄った街に、サイクロプスの軍団が迫っているのが見えた。
目を凝らすとサイクロプスだけでなく、ゴブリンや……あとはコボルトとかか?
かなり小型の魔物たちが数千の群れを成して、都市へ進軍していた。
街ではカンカンと鐘が鳴らされており、魔族の軍勢を前にパニックになっていた。
『……一応、あの中に上級魔族がいないか探しておくか』
『そうするか』
人間にとっては、街を滅ぼされかねないほどの軍勢だ。
しかも今あの街では、非常時に兵力なれる冒険者の多くが軍に徴集されて、国境へと送られている。
サイクロプスの中でも巨大な個体ともなれば、街を囲んでいる城壁よりも背が高いものまでいた。
あんな軍勢に、今攻め込まれれば、街はひとたまりもなく落とされるだろう。
とはいえ、それはあくまでも人間基準での話。
俺とイグニスにとっては、単なる有象無象の雑魚集団でしかなかった。
人間が蟻を踏みつぶすのを戦闘と呼ばないように、俺たちにとって眼下の魔族の軍勢はその程度の存在だった。
街へ攻め寄ろうとしていた魔族の軍勢の前へ、俺とイグニスは降り立つ。
あとは、イグニスが高さ200メートルを超える炎の大絶壁を魔法で作り上げ、魔族の軍勢が逃げられないように包囲。
そこから先は、ここ最近俺たちの手慣れた作業と化している、上級魔族探しの作業をしていった。
サイクロプスの頭を前足でプチプチと千切り、明らかに上級魔族でないゴブリンたちは、尻尾を適当に振るって、まとめて叩き潰し、吹き飛ばす。
魔法を使ってくる魔族もいたが、上級魔族レベルの強さでなかった。
なので俺が次元魔法を使って、空間ごとその魔族たちを消滅させた。
――プチプチ
――ゴキッ、ボキッ
その後はサイクロプスの頭をネジ切りながら、見つからない上級魔族探しを続けていく。
ただこの作業が物凄く地味で退屈なので、俺とイグニスは自然と無言になって、作業を続けていった。
魔族たちは、阿鼻叫喚の悲鳴を上げて逃げまどっているけれど、俺たちからすれば単なる作業でしかない。
『こういうのって内職って言うんだよな』
『報酬はないけどな』
『……だなっ』
やっぱり、これってドラゴンがやることじゃないよな。
だが、上級魔族を見つけないと姐さんにボコられるので、ドラゴンのプライドや報酬の有無など関係なく、俺とイグニスは無言で作業を続けていくのだった。
でも、結局街を攻めようとしていた魔族の軍勢の中に、上級魔族はいなかった。
『ガー、面倒くせえ!』
内職染みた作業の後、結局上級魔族は見つからなかった。
イグニスが不機嫌に炎のブレスを吐き出して、その辺に散乱していた魔物の死骸を、まとめて炎で蒸発させてしまう。
あまりに高温のブレスのせいで、魔物の死骸が蒸発するだけでなく、周辺の地面まで溶けてしまい、マグマと化してしまった。
とはいえ、街の方に被害はなかったので別にいいだろう。
「ああ、きっとこれは竜神様の加護に違いない!」
「我々の街の危機を見て、竜神様が配下のドラゴンを我々に遣わして下ったのだ」
俺たちにとっては、ただの作業だったけど、その後なぜか街の住人たちが俺たちに向かって拝んできた。
何やら聖職者っぽい服装をしたおっさんに、いかにも貴族といった風貌の中年男性。
それだけでなく街の一般人たちまで、俺たちを崇め敬い、そして平伏するのだった。
まあ、人間に拝まれたからって、だからなんだというわけだが。
それより、早く上級魔族を確保しなければ。
でないと、姐さんが戻ってきてしまう。
後書き
シルバリオンが人間の姿のまま、街の冒険者や兵士たちと一緒に、魔族の軍勢と戦うストーリーも考えたり。
でも、そんなことしてたらただでさえ進みの遅い話が、さらに進まないよー!




