190 創主様の(どうでもよすぎる)闇 (シルバリオン視点)
前書き
前回の更新から約3か月ぶりとなりますが、なんとか書けたので更新を。
なろうの僻地で書いているこの小説、果たして完結までたどり着けるのかな?
(余りに展開が遅すぎて、未だにドラゴニュート兄弟が自宅周辺でウロウロしてばかりだしなー)
「ケッケッケッ、随分いいなりをしているが、お前みたいなやつが俺たち冒険者に勝てると思ってるのか?」
さて、鬼の居ぬ間ならぬ、姐さんの居ぬ間に小休止していた俺たちだけど、あのまま鬼族の酒場で蜷局を巻いていても仕方ない。
あのままでいれば、いずれ戻ってきた姐さんに見つかって、俺とイグニスの生命にかかわる問題になりかねない。
というわけで、俺は今回"人化の術"を使って人間に化け、人間の街へ潜り込んだ。
行き当たりばったりで闇雲に飛び回って上級魔族を探すより、魔族と戦争をしている人間から情報を仕入れた方がいいと考えたからだ。
もっとも、イグニスは人化の術を使って人間の街に潜り込むのは面倒くさいとのことで、街の遥か彼方で待機中。
もしイグニスクラスの巨大ドラゴンが、人化の術も使わずに街の傍にいれば、それだけで街がパニックになるだろう。
だから、遥か彼方で待機だ。
といっても、それはあくまでも人間の感覚。俺たちドラゴンからすれば、ちょっと飛べばたどりつける距離でしかなかった。
さて、そんな事情がありつつ、俺だけ人間の姿になって街の中へ入り込んでいた。
ところで、人化した俺の髪は銀色で、貴公子然とした姿になるらしい。
街を歩くだけで、10人中7、8人の女性が振り返り、ついでに同姓の男からたまに嫉妬と妬みの混じった視線を向けられる。
ドラゴンなので正直人間にモテても仕方がないのだが。
そんな視線を浴びつつ、俺は街にある冒険者ギルドへとやってきた。
ギルドは、様々な依頼や情報が集まってくる場所で、人間の社会で情報を調べるなら、まずここに来ればいい。
ギルドでは、武具に身を包んだ冒険者と呼ばれる者たちがいて、彼らはギルドで出される様々な依頼をこなして、日々の生計をたてていた。
そしてギルドにいるのは荒くれ者が多く、おまけに命を懸けてモンスターと戦っているので、刹那的な感情を抱いている者が多い。
そのためギルドには酒場が併設されているのだが、そこで酒を飲んでいた男の一人に、俺はいきなり絡まれてしまった。
「ケッケッケッ、随分いいなりをしているが、お前みたいなやつが俺たち冒険者に勝てると思ってるのか?」
ここで、冒頭でのセリフが飛んできたわけだ。
はあっ、面倒くさい。
この世界の人間の街には絶対に冒険者ギルドと呼ばれる組織が存在し、そこではなぜか、新人のギルド員に対して、先輩ギルド員が絡んでくるイベントが発生するようになっている。
なぜか……というか、その原因は全て創主様にある。
『異世界物っていえば、やっぱり冒険者ギルドだよね。あと、"主役補正"のあるやつには絶対に絡むイベントを入れないと。"お約束"ってやつだよ』
とは、昔創主が言っていたことだ。
"主役補正"とか、"お約束"とか、俺には理解に苦しむ言葉だ。
ただ総主様はそれらの理由によって、この世界の運行を行っている世界の法則に、そんなシステムを組み込んでいた。
この世界の法則によって、ギルドにいる冒険者が、たまに新人に絡んでくるイベントが発生してしまうわけだ。
世界の法則を操り、定めることができる創主様の能力は凄まじい。だが、能力の使い方を完全に間違えていると思うのは、俺だけじゃないはずだ。
現に、その時一緒にいた創主様の奥方様も、
『どうして、こんなくだらないイベントを世界の法則にわざわざ組み込むんでしょうね』
『そんなの決まっている!ハーレム野郎死すべし、慈悲はない!ボコボコにされて、無様にのたうち回るがいい。クックックッ』
『ああ、前世で妻に離婚されてばかりだったから、ただの僻みですか』
『僻みじゃないもん!』
なんてやり取りを、創主様たちはしていた。
……
まあ、そんなよく分からない理由によって、主役補正持ちの人物がギルドに行くと、勝手に絡まれるイベントが起こるようになっている。
世界の法則が干渉して、酒場にいるもてない男が、いかにももてそう男に一方的に苛立ちを覚えて、絡むようになる。
なんで、こんなのが世界の法則に組み込まれるのか、大変理解に苦しむ。
なお今の俺は人間の姿をしていても、正体はドラゴンだし、ギルド員でもないのだが。
「その面がムカつく。一発殴らせやがれ!」
なんてことを考えている間に、酔っぱらった男が俺に向かって突っかかってきた。
とはいえ相手はただの人間で、おまけに酔っ払いだ。
冒険者なので、一般人に比べれば多少は強いだろうが、多少強い程度ではドラゴンの力に勝てるはずがない。
拳を振るわれたけれど、俺は余裕をもって手で受け止める。
「飲みすぎはよくないぞ」
まともに相手をするのは面倒臭いので、俺はそのまま力を入れて、酔っ払いを無理やり近くの椅子に座らせた。
「あっ、ああっ!か、体が動かねぇ」
椅子に力づくで座らせた酔っ払いが何か言ってるが、そんなことは知ったことじゃない。
「飲みすぎには気を付けな」
酔っ払いにこれ以上関わらないことにして、俺は先に進んでいく。
「おい、あんた。見た目の割に随分力があるようじゃないか。いっちょ、俺と手合わせしてくれ」
「……」
酔っ払いは難なくやり過ごしたのに、そのやり取りを見ていた別の男に話しかけられてしまった。
「手合わせ?」
「この裏に、ギルドの訓練場があるんだ。そこでいっちょ手合わせと行こうぜ。もちろん、チビって逃げ出したりしねえよな?」
物凄く安っぽい挑発をされてしまった。
『イケメン野郎死すべし、慈悲はなし!一人で絡んでダメならば、ギルド員総出でボコってくれる。クックックッ』
そういえば、このギルドのお約束イベントは、総主様の悪辣な企みが原因で、1人片づけても、次の人物が出てきて、さらに絡まれるようになっている。
そして、次を片づければ、さらに次が……。
創主様は俺や姐さんをはじめとして、この世界そのものを作られた偉大な方だ。だけど、一方で見てはならない闇がひどく深かったりする。
ただし、闇が深くても、ろくな理由でない闇が多いけど。
俺、こんなところにバトルするために来たんじゃないけど。
っていうか、早く上級魔族の居場所を聞き出さないと、姐さんにボコられる。
そう思いつつも、ここで逃げ出すと、上級魔族の情報を聞き出せなくなる。
逃げ出すと、敗者のレッテルが張られて、ギルド中から笑いものにされるという、訳の分からない世界の法則があるからだ。
笑いものにされてしまうと、当然ギルドでの情報収集なんてやってられなくなる。
「しかたない、全員叩きのめして、さっさと上級魔族の情報を聞き出すか」
諦めて、俺は上級魔族の情報を聞き出すため、挑発してきたギルド員をさっさと倒すことにした。
今の俺は人化状態なので、ドラゴンの時に比べると戦闘能力がかなり落ちている。とはいえ、それで人間程度に負けるほど弱くはなっていないが。
「この双剣使いのアグラの腕前を……ヘブシッ!」
「岩鉄の名を持つロックバルト……ホゲエッ」
「大岩切のグ……グベラハアーッ」
ギルドの裏手にある訓練場では、一人倒せば次の奴が。
そしてそいつを倒せばさらに次の奴が名乗りを上げて出てくる。
延々と立ち替わり入れ替わりで出てくるのだけれど、奴らが名乗りを上げている間に、俺はさっさと倒していった。
彼らは次々に冒険者を倒していく、俺の戦闘能力に感心し、だからこそ戦ってみたいと考えだしている。
けれど、その背後では世界の法則が、密かに彼らの思考が戦闘的になるように誘導していたりする。
世界の法則恐るべし!
というか、総主様は、こんなくだらないことに執念を燃やして、世界の法則を作らないでほしい!
まったく、主役補正ってなんだよ!
俺はそんなのより、さっさと上級魔族の居場所を聞き出したいのに!
こんなのだったら、人間でなく魔族に化けて、魔族から情報を聞き出しに行けばよかった。
……でも、魔族って力こそすべてって考え方が強くて、情報収集するにも、戦闘しないといけないことが多いんだよなー。
脳筋というか、姐さんみたいな思考回路してるから、魔族の社会が俺は苦手だ。
まあ人間の社会でも、なぜか終わる様子のないバトルを延々とさせられているけど。




