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187 上級魔族が見つからない (シルバリオン視点)

 ――GAYOOOOーー!!!

 ――GAYOOーー!!!

 ――GAYーー!!!


 現在北の大陸では姐さんの命令一下、ドラゴンたちが各地に散らばって上級魔族を探している。


『どう、誰か上級魔族は見つけたのー?』

 姐さんが咆哮を上げれば、近くにいるドラゴンたちから鳴き声が帰ってくる。

 もっとも、近くと言っても数十キロから百キロ以上離れている。


 それでも本物のドラゴンたちの咆哮なので、この距離でも普通に聞こえた。


 そんなドラゴンたちの鳴き声は中継されることで、さらに遠くにいる同胞にまで声が響いていく。

 伝言ゲームというか、何体ものドラゴンを中継ことで、姐さんのいる場所から大陸の隅っこにいるドラゴンまで声が伝達され、そして誰も見つけていないという情報が鳴き声で帰ってくる。


 "今"のこの世界での人間の文明レベルは中世程度で、離れた場所への伝達手段は、馬に乗った伝令か、伝書鳩が主だ。

 情報の伝達が瞬時に行われず時間がかかったが、俺たちドラゴンは数が揃えばこんなことができるのだった。




 とはいえ、誰も見つけていないというのは大変だ。

 ……姐さんの機嫌が悪くなったら、一番近くにいる俺とイグニスにとって大変なことになってしまう。



 ――ブウォン、ブウォーン


 現に姐さんの尻尾が不機嫌に揺れ動いて、それが俺とイグニスの顔面を殴りつけてくる。


『……』

『……』


 だが、ここで『やめてください』と言ったり、尻尾を避けてはいけない。

 姐さんの逆鱗に触れて、尻尾アタックで済んだのが腹パンやラリアットになりかねない。



 他のドラゴンたちも上級魔族を探しているが、俺たちもあの後上級魔族がいそうな魔王軍の拠点や、その辺にいたモンスター軍団を潰して回った。

 しかし上級魔族はいなかった。



『……いっそ、魔王城を潰しに行こうかしら』

 不機嫌に降っていた尻尾が止まった後、姐さんの口から出たのがこのセリフだ。


 上級魔族は基本的に魔王軍の中に多くいる。

 魔王城ともなれば、上級魔族の数に事欠くことがないだろう。


 姐さんだから魔王城にいる魔王とタイマンで戦おうが、あるいは1人で魔王軍全軍と戦おうが、勝利は小動もしないだろう。


 むしろ魔王軍がどれだけ粘ることができるかという次元の話になってしまう。

 勝ち負けでなく、負けるまでの時間が速いか遅いかの違いだ。



『しかし姐さん、魔王城はいいとしても、魔王に手を出すのは問題じゃないですか?』

『……』

 姐さんにしては珍しいことに沈黙し、青空を見ながら黙り込む。


『あのお方……"創主様"が、魔王には手を出すなとご命令されてましたよ』

『知ってるわよ。パパが手を出しちゃダメって言ったことぐらい』

 創主様とは、俺やイグニス、そして姐さんを作ったお方のことで、俺たちよりも遥かに偉いお方のことだ。

 ちなみに、俺たちは創主様とお呼びしているが、姐さんはパパと呼んでいる。


『魔王を潰しても、パパならあっそうで許してくれそうだけど、ママの方が確実に怒るわよね』

『怒るならいいですが、俺たちドラゴンステーキにされたくないですよ』


 ――ビクッ


 創主様は俺たちより偉いお方だが、真に恐ろしいのは創主様の奥方様。

 奥方様には、姐さんですら反応した。


『い、嫌だ。俺、昔尻尾をちょん切られて、ステーキにされちまったんだぞ……』

 ガクガクと震えだすイグニス。


 姐さん相手でも震えるあるが、創主様の奥方様はさらにヤバイ。

 というか、あのお方たちには俺やイグニスどころか、姐さんでさえ逆らえない。


 この世界では姐さんは間違いなく最強だが、創主様とその奥方様は、さらに別次元の存在だった。


 なお、昔尻尾をちょん切られたイグニスだが、その時の尻尾のドラゴンステーキは、

『フムフム、お砂糖掛けるとおいしいねー』

『どうしてこの人はステーキにまで砂糖をつけないとダメなんでしょう?』

『それはお砂糖様こそが僕の生命線だからだ!』

『はいはい、分かっていますよ』

 創主様は砂糖をたっぷり振りかけたドラゴンステーキをおいしそうに食べて、奥方様の方は心底あきれ果てていた。


 そして切られたイグニスの尻尾の方は、回復魔法で普通に生え直していた。

 まるで蜥蜴の尻尾だな。


『クッ、ドラゴンステーキにはなりたくない。でも、パパとママにバレなければ……』

『あ、姐さん、駄目だ。それは絶対にダメだ!』

『マジで奥方様に殺されますよ!』

 創主様より、子煩悩の方が勝ってしまいそうな姐さん。

 それをイグニスと俺が慌てて止める。


 姐さんにフルボコの刑にされるより、奥方様の方が俺たちはもっと怖くて恐ろしい。


『そ、そうだわ。魔王城に近づかなければバレないわ。1千キロ離れた場所からブレスを撃てば、魔王城の周りにある結界ごと吹き飛ばせるでしょう』

『だからダメですって。それに遠くからブレスを撃ち込んでも、上級魔族を手に入れるには結局魔王城に近づかないといけないじゃないですか。バレますよ』

『チッ、いいアイディアだと思ったのに』


 姐さんなら1千キロの彼方からでも、ブレスで魔王城を破壊できるだろう。

 でも、どこがいいアイディアだよ!


 姐さんの考えに、俺はげんなりする。

 ただ創主様の命令で魔王のいる魔王城を襲うことは無理なので、姐さんもこのことに関しては、これ以上考えないでくれた。




『……いっそのこと、パパの所に行ったら上級魔族がいないかしら?』

『創主様ご在所にいるのは実験用(モルモット)なので、勝手に狩ったらいけないでしょう』

『ムウーッ』


 魔王城の次は、創主様の"御在所"のことを考える姐さん。

 あそこなら上級魔族がいるかもしれない。

 ただ、あそこにいるのは基本的に上級魔族よりもっと希少価値の高いモンスターだったり、魔王クラスの生命体などだ。

 なので上級魔族程度の貧弱な存在は、逆にいないと思う。



 ――ドシン、ドシン、ドシン


 上級魔族は見つからず、魔王城はダメ、造主様の御在所もダメ。

 あれもダメこれもダメで、姐さんが不機嫌に尻尾を地面に打ち付け始める。


 もちろん姐さんの尻尾の一撃なので、地面の土が圧縮されて窪みを作っていく。


 大地に亀裂が入らないだけましだが、姐さんが不機嫌に尻尾を叩きつけ続けると、ここに大地の裂け目ができかねない。



『ふうっ、しかたないわ。子供たちもお腹を空かしているでしょうから、私はこのギガンテスを持って、一度家に帰ることにするわ』


 不機嫌に大地に叩きつけていた尻尾が止まり、そう言う姐さん。


 よかった。

 やっと魔王城と創主様の御在所をあきらめてくれたか。



『でもいいこと、私がいない間もちゃんと上級魔族は探しておきなさい』

『も、もちろんです姐さん』

『わ、分かってるっす』


 ギガンテスの体を口に咥えて飛び上がる姐さん。そんな姐さんの姿を、俺とイグニスの2人は地上から見送った。






『ああ、もう姐さんが帰ってこなきゃいいのに』

『大体姐さんのガキが悪いんだ。なんだって上級魔族なんか食いたがるんだ』

 姐さんが空の彼方へと消え去った後、俺とイグニスはそれぞれに悪態をつく。


 ――GYYYAAAOOOOOOOOOOOOOOO!!!

『聞こえてるわよ!』


 直後、空の彼方から極太のレーザー光線が飛んできて、俺とイグニスの全身に大激突した。


『ウギャッ!』

『ゲホ、ゴホッ!』

 イグニスの奴はその場で飛び上がって悲鳴を上げる。

 対して、俺の方は光魔法への耐性が高いので悲鳴を上げずに済んだが、驚いた拍子に唾を飲み込んではいけない方向に飲み込んで咽てしまった。



(……姐さん、相変わらず地獄耳すぎる)

 極大レーザー光線を受けた後、俺とイグニスは声を出さずに、互いの視線だけで会話を交わすのだった。


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