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185 ゼロの舎弟たち (シルバリオン視点)

『姐さん姐さん、次はゼロのところへ行きましょうぜ』

 上級魔族を捕まえるべく探し回っている俺たちだけど、空を飛びながらイグニスが姐さんに提案をしていた。


『そうね、ゼロのところにもゼロの舎弟どもがいたわね。人海戦術ってやつで、早く上級魔族を捕まえましょう』

 姐さんもイグニスの提案に即座にうなずき、俺たちは進路を変更してゼロのところへ行くことにした。


 なお、ゼロというのは俺とイズニスの妹みたいな存在で、当然ながらこの星最強クラスの一角でもある。

 無論ゼロの奴も、数千万年の時を生きるドラゴンだ。



 そして姐さんに提案したイグニスは、

『俺に降りかかる不幸は、なるべく多くの奴におすそ分けしてやらないとな。クックックッ』

 なんて小声で笑っていた。


『……確かに人数が多い方が、フルボコの刑にされても一人当たりのフルボコタイムが減るからな』

 しかしイグニスの考えを、俺は浅はかだとも、性格が悪いとも思わない。

 姐さんにボコられる際、人数が多い方が一人頭の被害が減るので大歓迎だ。

 ボコられる中に巻き込まれるのは嫌だが、すでに巻き込まれているのだから、なるべく犠牲者を増やすことで、俺個人に及ぶ被害を小さくすることにしよう。


『ナイスアイディアだ、イグニス』

 なので俺は素直にレグルスの提案に賛辞を送るのだった。





 というわけで、姐さんと俺、レグルスの3体は、北の大陸の最北端にあるゼロの住処までやってきた。


 ――ビュオオオォォォォーーーッ


『相変わらずゼロはこんな寒いところによく住んでられるな。うおー、寒ぃー』


 ゼロの住処は一年中絶えることなくブリザードが吹き荒れる極寒の地で、火山地帯を住処にしているイグニスからすれば寒い以外の何物でもない。

 もっともイグニスは熱い場所を好んでいるものの、この程度の寒さでどうにかなる体をしていなかった。

 単に住処として暮らすなら、快適か不快か程度の違いしかない。



『ゼロー、ゼロー、出ておいで。とっとと出てきなさいー!』

 なお、姐さんが咆哮を上げると、その途端に吹き荒れていたブリザードがピタリと止んでしまう。


 氷の嵐(ブリザード)がたてていた音が鳴りやみ、空を覆っていた曇天の分厚い雲まで逃げ出すようにしてなくなってしまう。


 雲がなくなると青い空が露わになり、遥か天空にある太陽の光が頭上から降り注いでくる。

 万年雪で固められた白い大地に太陽の光が反射して、とても眩しくなる。



 姐さんがただ咆哮しただけで、天候操作の魔法と同じ効果が起こるのだから、本当に規格外な存在だ。



『おおっ、ここで寝そべると腹が気持ちいいー』

 そしてブリザードがやんだので、雪が降り積もった雪原に寝そべるイグニス。


『ウギャッ』

 だけど寝そべるイグニスの頭を、無反応で姐さんが踏みつけた。

 そのままドシドシと足音を立てながら、ゼロの住処を目指して進んでいく。


『お前さ、今はやめておけ。姐さんがまたキレたら、俺までとばっちりが来るんだから』

『ゲホッ』

 イグニスがあまりにもバカなので、俺も姐さんに倣って寝そべっているイグニスの頭を踏みつけてから、姐さんの跡を追うことにした。


『少しくらいいいじゃねえすよ。どうせ急ぐ旅でも……』

 ――ギロリッ

『ま、待ってください、姐さーん』


 イグニスにとっては急ぎでないけれど、子煩悩な姐さんにとっては急ぎの旅だ。

 姐さんに睨まれたイグニスは先ほどの能天気ぶりを即座に捨てて、大慌てで姐さんの跡を追いかけた。





 そうしてゼロの住処にまでやってきた俺たちだけど、

『申し訳ございません、竜神様。ゼロ様は北極に出かけておりまして、おそらくあと数か月……数年は戻ってこないと思います』


 ゼロの住処で出迎えてくれたのは、この辺り一帯を支配しているゼロでなく、ゼロの舎弟である年老いた万年竜(エンシェントドラゴン)だった。


 年齢は100万歳を超えているだろうが、さすがにエンシェントドラゴンといえど、ここまで年を取ると見た目もかなり老いてしまう。


 俺たちや姐さんには寿命がなく、老化もないのだが、エンシェントドラゴンと言えども普通の生物であるからには、老化から逃れられないのが宿命だった。



 それはともかく、ゼロは留守でしばらく帰ってこないのか。

 数か月や数年は、俺たちにも老いたエンシェンドドラゴンにも、たいした時間でない。

 とはいえ、今はそれがたいした時間になってしまう。


『そう、ゼロはいないの。でも、ゼロの舎弟どもはいるわよね?』

『無論でございます。我らはゼロ様に仕え、この地を守っておりますので』

『そう、だったら今すぐ全員集めなさい。上級魔族を探して狩るのよ』


 ゼロはいないけれど、今必要なのはゼロ本人より人手だ。

 いや、この場合は竜手(ドラゴンハンド)と言うべきか?


 まあ、どっちでもいい。



『分かりました、竜神様のご命令とあれば、直ちに我らが眷属を集めましょう』


 ――GALULULULULULULU


 年老いているとはいえ、それでも相手はエンシェントドラゴン。

 俺たちほどの咆哮でないものの、それでも立派な咆哮を上げて、この地にいるゼロの舎弟どもを呼び集めた。






 そうして集まったゼロの舎弟たち。


『お前たちいいわね、上級魔族を見つけ出したら仕留めるのよ。ただし、きちんと原型は残しておように。間違っても、噛み砕いたり、踏みつぶしたりしないのよ。分かったら返事をおし』

『『『『了解しました、竜神様!』』』』


 それだけ返事をすると、ゼロの舎弟たちは翼を羽ばたかせて、上級魔族を狩るべく、空のあちこちへ飛び立っていった。


『さすがはゼロの舎弟たちね。どこかの馬鹿と違って、きっちり仕込まれているじゃない』

『ヴッ、す、すまねえ、姐さん』


 ――ベシベシベシッ


 縮こまるイグニスの顔に、姐さんが尻尾の先をベシベシ当てていた。


 イグニス相手だからベシベシで済んでいるけれど、この尻尾攻撃でも、岩くらい普通に粉砕できる破壊力があるけどな。


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