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182 灼熱竜イグニス (イグニス視点)

 俺の名前は灼熱竜イグニス。

 北の大陸にある火山地帯を縄張りにしているドラゴンで、普段は溶岩の中に潜って怠惰な日々を送っている。

 硫黄と硫酸の匂いが絶えることがなく、さらに並の生物であれば触れただけで焼け焦げてしまう、溶岩が溢れかえる死の大地。


 そんな俺の縄張りに、まともな生物がやってくることはない。

 そもそも、この場所に生きたまま来られる生物なんて、滅多にいないからな。



 なのに何をトチ狂ったのか、魔王配下と抜かす魔族の軍勢が攻め込んできやがった。


 もっとも、数はたかだか3千ぽっち。

 この俺を倒すつもりなら、少なくともその100倍の軍勢はもって来いってもんだ。


 それに魔族と言っても、魔法の力を使わなければ俺の支配地では満足に生きていることができないひ弱な存在。

 奴らは俺の元へ辿り着いたときには、既にへばっていやがった。


『我々は魔王軍配下の……』

 などと軍勢の指揮官が偉そうな口上を述べようとしていたが、そんなものを俺がいちいち聞いてやる義理などない。

 お前らは、俺の支配地に土足で踏み込んだんだからな。


 なので俺が、魔法の基礎である"念動(サイコキネシス)"をちょいと使って、この場に溢れている溶岩で津波を起こしてやると、それだけで奴らはパニクっていた。


 まあ、軍勢を率いている上級魔族が数体いたので、奴らが協力してマジックシールドを張り巡らせることで、俺の初撃を防いだ。


 まあ、多少は褒めてやっていいだろう。

 ただの遊びの一撃だが、それでも俺の遊びを防いだ実力を認めてやる。



 そうして魔族どもの軍勢を睥睨していると、その中にいた上級魔族が何を思ったのか、この俺に話しかけてきやがった。


「灼熱竜イグニスよ、貴様の力は我ら魔族にとっても看過しえぬほどに強力だ。その力をもって大人しく魔王様の軍門に降るのであれば、魔王軍での栄耀栄華を約束しよう。だがしかし、もしも我らに歯向かうというのであれば……」

『おいおい、お前ら俺の遊びを防いだからって、暢気に口上なんて述べていてもいいのか?』

「たかがドラゴン風情が、調子に乗るな。我ら魔族の力を持ってくれば……」

『クハ、クハハハ、調子に乗るなよ、ゴミどもが!』


 こいつらは勘違いしてやがる。

 どうやら、こいつらはこの俺を力で従えることができると本気で思っているようだ。とんでもなくヒドイお笑いだ。



 俺は再び"念動"を使う。

 ただし、今度はこの場にあふれている大量の溶岩を空中へ持ち上げ、それを魔族の軍勢の上へ持って行く。


 3千の軍勢を飲み込むに十分な量の溶岩で、そんなものが自分たちの頭上に浮かび上がったものだから、魔族どもの一部が悲鳴を上げていた。


『お前らなんて、ただのゴミなんだよ』

「逃げる出ない!総員魔力を集中して溶岩を防げ!」


 俺が念動を切ると、当然空中に浮かび上がっていた溶岩が落下する。

 空中から落ちてくる溶岩に、しかし魔族の指揮官は冷静だった。


 だがよ、それがただの溶岩だと思うなよ。


 俺は空から降らせた溶岩に対して、炎属性の"加熱(ヒート)"の魔法を使う。

 人間レベルの魔法使いが使えは、単にモノを温めるだけの魔法だが、今回はこの俺が使ったヒートだ。

 溶岩は赤から青へ、そして白光を放つ液体へ変化する。


 それはこの星が生まれたときに存在していた、"原初の星の炎"。

 俺の魔力を加えたことで、この星のありとあらゆる物を、触れただけで蒸発させることができる熱量を持った溶岩となった。


「な、なんだ、この溶岩は!」

「バ、バカな。我らが総出で張るマジックシールドが、崩れていく」

「うっ、うわああああっ」


 魔族どもは3千の数がいながら、俺がちょっと魔力を込めた溶岩程度で慌てふためていてた。

 それどころか奴らの張っているマジックシールドが、バチバチと最初は音を立てていたが、すぐに"原初の星の炎"と化した溶岩に負けてしまう。


 シールドの各所が瞬く間に崩壊を始め、溶岩がドロドロとシールドを貫通して落ちていく。


 その後は魔族どもが阿鼻叫喚の悲鳴を上げるが、それもすぐに溶岩に焼かれ、溶岩に飲み込まれて跡形なく溶けて消えていく。


 俺の支配領域で戦うということは、すべて溶岩に飲み込まれ、何も残らなくなるということ。

 そのことをこの魔族どもは全く知らなかったようだ。


 ゴミのくせして、頭まで回らないのではとんでもない馬鹿どもだ。




「闇の(ダークスピア)

「闇の(パールオブダーク)


 ――ペシッ


「ん?」

 溶岩で魔族どもを皆殺しにしたつもりだったが、どうやら生き残りがいたらしい。

 俺から見たら針のように小さな闇が飛んできた。

 そして俺のいる溶岩の下から、黒い柱が付きだしてくる。


 ただし蚊に刺されるほどの痛みも、針の方は俺の鱗に当たって胡散霧消する。

 柱の方はもっとデカかったが、それとて俺の体をろくに持ち上げることもできない有様。俺がちょっとそちらに意識を向けただけで、魔法の構成式そのものが崩壊して、魔法の効果が消え去った。


 この俺の鱗のレジスト能力を前にすれば、いかなる魔法とて無力化できる。それくらい、俺の鱗の対魔性能は高い。

 そして俺が意識を向ければ、それだけで対象の魔法を破壊することなど造作もないことだった。


「闇の(パールオブダーク)

「闇の(パールオブダーク)

「闇の(パールオブダーク)


 だが、そうしている間にさらに魔法が連呼される。

 俺の周囲に、次々と黒い闇の柱が突き立っていく。


 どうやら魔族の軍勢の中にいた、上級魔族どもの魔法らしい。



『チッ、奴らどこに隠れてやがる。小さすぎて見つからんぞ』

 面倒くさいことだが、奴らは気配を遮断しながら魔法を連発してきてやがる。

 魔法は全く脅威にならないが、俺は弱者の存在をいちいち感知する能力なんて持ち合わせていない。


 奴らが気配を遮断すれば、俺が奴らを見つけるのは非常に難しいことだった。


『だが、全く無駄な抵抗だな』


「闇の(パールオブダーク)

「闇の(パールオブダーク)

「闇の(パールオブダーク)


 そうしている間にも、俺の周囲には次々に闇の柱がそそりたっていく。

 全長が50メートルを超えている俺にたいして、俺以上の長さを持つ柱を次々に建てていくのは見事だ。

 見事だが、それだけでしかない。


闇の領域結界(ダークリジェン)!」

 だが奴らは単に柱を増やし続けているのでなく、それはひとつの魔法を発動するための下準備に過ぎなかった。


 闇の領域結界(ダークリジェン)!の魔法が発動された瞬間、俺の周囲に増え続けた闇の柱が一斉に反応して、俺の周囲が暗い闇に覆われる。


 "闇の領域結界(ダークリジェン)"。

 闇属性の魔法で、結界内の存在を弱体化させ、さらに視力まで低下させる魔法。


「灼熱竜よ、いかに貴様が最強の竜の1体と呼ばれようと、我ら上級魔族が協力して編み出した結界の中では、お前とて本来の力を……」

『やかましい!』


 ――ガシャンッ

 相変わらず戦いでなく口ばかり達者な奴らだ。

 何が上級魔族だ。ただのおしゃべりな馬鹿じゃねえか。


 尻尾を一振りしただけで、貧弱な結界は砕け散ったぞ。


「な、我らの結界が、いともたやすく破壊されるだと……」

『そこにいたか』

「しまっ……」


 ――モグモグ、ゴリゴリ


 鬱陶しいことこの上なかった上級魔族を見つけた俺は、口の中に突っ込んで租借した。


「ぺっ、不味い」

 まあ、食ってはみたが、ろくな味じゃなかったので、すぐに吐き出す。


 ――ボッ

 と音を立てて、吐き出した上級魔族の体が溶岩に焼かれ、すぐに蒸発して消え去った。


『さあ、残りの奴らもいつまでかくれんぼをしていられるかな?お前ら全員始末してやるから、さっさと出てきやがれ!』


 上級魔族はまだ2体いたな。

 探すのが面倒なだけの奴らなので見逃してもいいが、この俺様の支配地に攻め込んできたんだ。


『当然、生かして返すわけねえからな!』

 俺はその後、気配を遮断している上級魔族を炙り出すために、この場にあふれている溶岩をそこら中にぶっかけまくって、奴らが隠れている場所を探していった。



 なかなか面倒くさい作業だったが、その後適当に溶岩をぶっかけまくっていたら、奴らも隠れていられなくなったのか、空に飛びあがって逃げようとした。


 だがな、

『俺はドラゴンなんだよ。空を飛ぶ速度で俺に勝てるわけがねえだろう』

「ぐわああああっ!」



 かくして、俺の住処に侵入したごみどもはすべて始末した。


 最後に噛み潰した上級魔族が、魔王がどうとかほざいていたが、そんなものは関係ねえ。

 俺は噛み潰した上級魔族の死体を溶岩に投げ捨てて、咆哮を上げた。


 ――GULULULULULULULULU

『人の睡眠を邪魔するんじゃねえ!』

 ってな。


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