180 レギュちゃんのおねだり (マザー視点)
前書き
今回から第4章になるとともに、しばらくドラゴンマザー(+α)を中心にした視点になります。
「ワーイ、このお肉って、とってもおいしやつだー!」
「ふむっ、やはり黒い魔族の肉は格別に上質な肉ですね。噛めば噛むほどに奥深い味わいが口全体に転がり、まるで神秘の世界を目の当たりにするかのような味わいが……」
「やっぱり食べる物は火を通すのが一番ですわ。それにしても、魔族ってとってもおいしんいですわ」
――モグモグモグ
今日も私は我が子のためにご飯を運んでいる。
私の大切な子供たちが、今日も仲良くそろって、巣に持ち帰ってご飯を食べている。
「うおりゃー、肉いただきー」
「ミカちゃん、それは僕のですよ!」
「うるへー、早い者勝ちなんだよ!モガモガモガー」
「クッ」
ミカちゃんは今日も元気いっぱいに肉に噛り付き、肉を横取りされたユウちゃんは少し涙目になっている。
でも、安心して。
『ユウ兄落ち込まないで、ドラドのを食べていいよ』
「えっ、いいの?」
『うん』
「あ、ありがとう。なんだかドラドの方がミカちゃんより大人だね」
『当然だよ。だってドラドは大人なんだから』
ドラドちゃんが、ユウちゃんのためにお肉を分けてあげると、それだけでユウちゃんは嬉しそうにしていた。
「まったく、ユウもいい加減ミカちゃんの横槍くらいどうにかできないと、野生の中で生きてけないよ」
最後にレギュちゃんがヤレヤレと首を振っていたけれど、悪気があるわけでなく、ここが大自然の中だからそう言っているのを私は知っている。
ところでそんなレギュちゃんだけど、
「ねえマザー、僕頼みたいことがあるんだけど」
『なに、レギュちゃん?』
みんなの住んでいる巣を私は上から見下ろしている。そんな私に、レギュちゃんが、尻尾をゆっくり振りながらおねだりしてきた。
レギュちゃんがおねだりするなんて珍しいわね。
「あのね、僕この魔族よりもっと強い魔族の肉を食べてみたいな。きっとすごくおいしいだろうから」
そう言い、レギュちゃんが手をモジモジとさせる。
まあ、レギュちゃんってばいつもはみんなのお兄さんでしっかりしているのに、こんな姿を見るのはママったら初めて。
もう、可愛いんだから。
「ウゲェー、子供ぶって露骨なおねだりするとか、レキュレギュキモすぎる」
「ミカちゃん。ちょっと黙ってようか」
「フゴッ」
レギュちゃんったら照れ隠しなのか、ミカちゃんの頭に拳骨をしていた。
私の子供たちだから、これくらいはちょっとしたスキンシップよね。
私にも弟がいるけれど、昔はよくどつきまわして遊んでいたから、こんなのは軽い触れ合いみたいなもの。
だからレギュちゃんって、やっぱり私の息子なんだなって思うわ。
こういうところは、私の若い頃にそっくり。
……いえ、今でもたまに(ただしマザー基準なのでたまにとは、数十年に一度を示す)弟に会いに行くと、どついてばかりだけど。
「ああ、兄さんの暴力支配が……」
なんて懐かしいことを思い出してたら、ユウちゃんが呟いている。
でもね、ユウちゃん。
私の子供なんだから、もっと元気にどつきあいをしていいのよ。
ユウちゃんは優しすぎるせいで、ミカちゃんにいつも齧られているけれど、そこは言葉じゃなくて拳で語り合うのがドラゴンってものよ。
私の場合、やられたら、やったドラゴンに100倍返しくらい普通にするけれど。
(ヒエエッ、姐さん勘弁してください。ギブギブ、これ以上やったら死んでしまいます。ウゲェーッ)
そういえば、そんなことを言って気絶しちゃうドラゴン仲間が多いのよね。
ふうっ、私はちょっと軽く噛みついてるだけなのに、大のドラゴンが情けない。
全く、嘆かわしいことだわ。
それはともかくとして。
「マサー、もっと強い魔族のお肉欲しいよー」
『分かったわ。レギュちゃんの頼みだから、お母さん頑張って獲物をとってくるわね』
「わーい、ありがとう」
レギュちゃんのおねだりに負けて、お母さんちょっと強めの魔族を狩りに行くことにしたわ。
今回の獲物は上級魔族に決定ね。
探すのが大変だけど、でも見つけてしまえば大丈夫。
なーに、たかが上級魔族。
私にとってはちょっと逃げ足が速い程度の獲物だから、見つけてしまえば捕まえるのなんて簡単。
でも、そのためには頑張って探さないといけないわね。
よーし、お母さん、今回の狩りは頑張るわ。




