177 対照的な2人
今回アントの巣を襲撃したことで、アンデットアントを300体ほど作ることができた。
僕が160体、ユウが120体、そして残りの20体はシャドウが作った。
「というか、お前もアンデットを作ることができたんだな」
「以前から殺したモンスターがアンデット化することがありましたが、お2人の姿を拝見して試したところ、私もアンデットを作ることができるようになりました」
これまでは意図的にアンデットを作ることができないでいたシャドウだけど、今回僕たちがアンデットを作っている光景を見て、アンデット化の魔法を習得してしまったらしい。
「こんなに簡単に魔法を習得できていいのかな?それもアンデットの作成とか……」
ユウがブツブツ言っている。
「こんなのダメだろう」、「倫理的に間違ってる」とか呟いているけれど、同じようにアンデットを作ることができるユウがそのセリフを言っても、説得力がなさすぎる。
そもそもシャドウは倒した相手が確率でアンデット化するのに対して、ユウの場合無意識レベルで死体をアンデット化することができる。
今でこそ、アンデット化の能力をコントロールできているけれど、以前はそのコントロールが効かなくて、マザーが運んできた獲物をよくアンデット化させていた。
「とはいえ、さすがは我が主と弟様です。私では20体作るのでやっとでした。格の違いを思い知らされました」
「そりゃまあ、ユウの奴はこの手の魔法に特化しているわけだしな。とはいえ、お前も見ていただけでできるようになるとか、大概だな」
「いえいえ、私などまだまだ大したことがありません」
なんて謙遜するシャドウ。
しかしさ、腕が四本生えているエイリ〇ンに謙虚にされると、見た目の違和感が半端ない。
「さて、これだけアンデットを作れば十分だろう」
「それじゃあ拠点に帰りますか」
「はい、我が主。そして偉大なる死の副王様」
今回の目的も無事に達成。拠点拡張の作業員として作ったアントたちには、これから拠点で活躍してもらうことにしよう。
「ちょっと待った。その死の副王って何?」
「もちろん、ユウ様。あなた様のことです」
「ええっ!」
気が付かない間に、死の副王とかいう、怪しげな称号がユウに与えられていた。
「なぜ、その呼び名を?」
「それは決まっています。その全身からあふれ出る強大な闇のオーラ。そしてあれほど簡単にアンデットを生み出される姿。それだけの力を持たれるユウ様には、まさに死の副王と呼ばれるにふさわしいお方ではありませんか。無論、我が主はそれ以上ですので、ユウ様が副王になるわけですが」
「い、嫌だ、そんな呼ばれ方!」
ユウが必死になって抵抗しているけれど、対してシャドウの奴は目をキラキラと輝かせている。
見た目が凶悪モンスターだけど、まるで子供のように目が輝いてる。まあ、キラキラというか、赤い目がギラギラと光っているように見える。
……まあ、こいつって一応生まれてまだ数十日だからなー。
「死の副王様」
「イヤだー」
シャドウは喜んでいる様子。対するユウはものすごく嫌がっている。
そしてこの場にいるアンデットたちは、なぜか両手を上げながら、一斉にガタガタと煩くしていた。
「ちょった待った!なんで全員僕のことを死の副王って呼ぶんだー!」
僕にはアンデットの声が直接理解できるわけでないけど、ユウはその能力から直接理解することができる。
まあ、言葉が分からなくても、この光景見てるだけで奴らが何を言っているのか分かる。この場にいるアンデット全員が、ユウのことを死の副王様扱いしているわけだ。
「とは言え実力はともかくとして、ユウの性格だと副王が勤まりそうにないけどな」
アンデットたちは嬉々とした様子だけど、そうつぶやく僕だった。
そんなことがあったものの、その後僕たちは第2拠点へ向けて帰ることにする。
そして帰る途中で、僕たちの前にゴブリンの一隊が出てきた。
この辺りにあるゴブリンの巣は、第2拠点の安全を確保するためにシャドウたちに潰させている最中だけど、まだ全てのゴブリンの巣を潰しきれてないようだ。
「それにしてもこのゴブリンども、本当に頭が悪いな」
こっちは僕とユウにシャドウ。
そしてスケルトンが約100体に、アンデットアントが300体もいる。
対してゴブリンたちは、わずか8体しかいなかった。
普通これだけのアンデットがあふれていれば、隠れるなり逃げ出せばいいものを、ゴブリンどもは、ギャーギャー喚きながら、僕たちに威嚇してきた。
戦力差というものをまるで理解できていない。
「我が主、ここは我らにおまか……」
「闇の炎」
シャドウが何か言ってるけど、それより先に僕が魔法を放って、ゴブリンの1体を灰へと変える。
「さっきの課外授業の続きだけど、ユウも練習でやってみようか」
「え、ええっ!」
「ほら、さっさとやれっ」
ユウの優柔不断ぶりに付き合い続けるのも面倒くさい。なのでちょっと視線を鋭くしてユウ睨んだ。
「わ、分かりました。闇の炎!」
これ以上逆らうと危険だと思ったのか、ユウは素直に従ってくれた。
そしてユウの放ったダークフレイムの1発で、ゴブリンの右腕がポトリと落ちた。
その落ちた腕の付け根が、白い灰となっていた。
魔法自体は発動していた。
ただ、
「ユウ、威力を上げようか。これは一応、いざというときに身を守るための訓練を兼ねてるんだから」
「わ、分かりました。闇の炎」
再び魔法を放つと、今度はゴブリンがまとめて3体、ダークフレイムの餌食になって灰となった。
「まあ、合格かな」
ユウの場合、闇魔法は息をするように簡単に扱うことができるはず。
以前フレイアがとんでもない規模の太陽魔法をぶっ放していたけれど、ユウだって本気になればあの規模のダークフレイムを作り出すことが可能だろう。
もっともあんな自然破壊級の大魔法を放つことが必要になることなんてないだろう。
あれは対モンスターとの戦いでなく、下手すれば万単位の軍勢を根こそぎ消滅させかねない威力がある。そんな魔法を使う機会なんて、普通に生きてたらまずないよ。
それに僕でも、あのレベルの魔法を使われるとさすがに困ってしまう。とはいえ、いざというときに身を守る手段が多いことに越したことはないからね。
「主よ、私も試してよろしいでしょうか?」
「別にいいぞ」
そして僕たちの姿を見ていたシャドウも、闇の炎を使ってみたくなったようだ。
「闇の炎」
シャドウが魔法の言葉を唱えると、ボッと音がした後、闇の炎が生まれた。
その炎は生き残りのゴブリン4体を丸ごと飲み込んで灰へ変えるどころか、威力が大きすぎて近くにいた味方のスケルトン数体まで巻き込んでしまう。
ユウの場合、初撃の威力が小さかったが、こっちは威力が大きすぎて必要以上に魔法の効果範囲が広がっていた。
これではフレンドリファイアだ。
もっともスケルトンは多少減ったところで、すぐに補充がきく存在だけど。
「ムムッ」
しかし自分の魔法が思った以上に大きかったことに、シャドウは慌てていた。
「ユウの場合は性格の問題だけど、シャドウの方は威力のコントロールを覚える必要があるな」
「申し訳ございませぬ」
「別にいいさ。大体お前はまだ生まれたばかりだから、これから魔法のコントロールを覚えていけばいい」
とはいえ、生まれたばかりでもう闇の炎をぶっ放しているとか、シャドウも随分と怖いモンスターだ。
そもそも僕がもったいないついでで作ったのがシャドウだけど、シャドウは生まれの特殊性から、1体につきフレイアの3分の1程度の魔力量を持っている。
「これは思ったよりも強力なモンスターを作ってしまったかな」
そう思う僕だけど、敵対しているわけではないので問題ないだろう。
それより君は、僕の下で優秀な管理職労働者として成長していっておくれ。
フッフッフッ。
「おお、主様のお顔に素晴らしい笑みが」
「いや、兄さんのあの笑みは絶対にろくなこと考えないから」
そんな僕の姿に嬉しそうにしするシャドウと、呆れているユウ。
今日付き合って分かったけど、この2人はかなり対照的な性格しているね。




