176 お手軽アントの巣攻略戦と魔法の課外授業
「こちらがアントの巣になっています」
今回僕とユウは、第2拠点から徒歩で1時間ほどの場所にある丘にやってきた。
アントの巣というわけで、丘の中腹には洞窟の入り口ができている。
この中にあるのがアントの巣だ。
ちなみにここまで案内をしてくれたのは、シャドウの1体。あと護衛だか何だかという名目で、スケルトン部隊も80体ほどついてきていた。
しかもそのスケルトンだけど、一部のゴブリンスケルトンが土狼スケルトンの上にまたがって、騎兵の真似事をしている。
騎兵というより、スケルトンライダーってところかな?
「このスケルトンライダーだけど、いつの間にこんなことをするようになったんだ?」
「ドナン殿の考えで、ゴブリンスケルトンは徒歩で移動させるより、土狼スケルトンにまたがらせた方が足が速いだろうとの考えから、このようにしました」
「ふーん」
シャドウの説明を聞いて、なるほどと思う。
確かにゴブリンスケルトンはそこまで足が速くないので、早く走ることができる土狼スケルトンに乗るといいだろう。
ただスケルトンライダーとは呼んだものの、土狼スケルトンも当然骨しかない。
人間が鞍をつけていない裸馬に乗るのはかなり難易度が高く、よほど熟練していないと馬からすぐに落とされてしまう。
まして土狼は馬より格段に乗りにくいし、おまけにスケルトンになっているので肉がなくて骨しかない。
ゴブリンスケルトンたちは、土狼スケルトンのあばら骨の隙間に足を突っ込んで、かなり無理やりな感じで跨っていた。
「今すぐには無理だが、鞍をつけてやった方がよさそうだな」
「そうですね。しかし、鞍を作るにしても、材料になる物が……」
「僕たちの自宅に鞍に加工できそうな皮があるから、今度転位魔法陣を使って運べばいいか」
スケルトンライダーは、土狼の足の速さと、手先がそこそこ器用なゴブリンスケルトンを合わせることができる利点がある。
使い道ができそうなので、今後も強化していく方向で考えていこう。
それはともかくとして、今回の目的であるアントの方に戻るとしよう。
「アントの巣ですが、やっぱり洞窟に入って直接攻めますか?」
と、尋ねてくるのはユウ。
そういえば以前僕抜きで、ユウたちをゴブリン洞窟に送り出したときは(その後ドナン率いるアント軍団とも戦った)、洞窟の中に入って戦ってたんだよね。
「戦闘でしたら、我々もお供いたします」
ユウに続いて、シャドウが腕を掲げながら追従しようとする。
でもね、
「チマチマ戦うなんて面倒くさいから、ここから全滅させようか」
「……全滅って、アントの巣ごと壊したりしないですよね?」
「ユウ、君は僕のことを何だと思ってるんだい?」
確かに過去ゴブリン洞窟を攻略するためにレオンに水攻めをさせて、結果洞窟どころか丘一つ崩壊させてしまったこともある。けれど、僕は何でもかんでも壊せばOKって思ってる人間じゃないよ。
「安心していいよ、大魔法は使わないから。今回は水でなく、熱風を送るだけだから」
「熱風?」
首をかしげるユウの前で、僕は炎魔法で火の玉を一つ作って見せる。
魔力を多めに投入して、赤い色から青い色へ、そして白く輝く白光を放つファイアボールへと変わる。
「眩しいっ」
あまりにも光が強いものだから、ユウが視線を細めている。
太陽の光みたいに強力なので、直視していると確実に目に悪い。
そして光だけでなく、白いファイアボールから放たれる熱量も膨大なものだ。
「あとは風を起こして、洞窟内に熱風を送り込むだけだ」
というわけで、さっそく実行。
ファイアボールから発生する膨大な熱を、洞窟内へ風魔法で送風していく。
「……兄さん、この風って百度超えてますよね?」
「正確には分からないけど、300度くらいかな。もっと熱くできるけど、洞窟内のアントが燃えたらここまで来た意味がなくなるからね」
今回の目的はあくまでもアンデットアントを作ること。
もっと高温にできるけど、肝心のアントの体を燃やしては意味がない。
あとは少し時間を掛けて、熱風が洞窟内に充満すればいい。
超高温の熱が洞窟内にこもれば、それだけでアントは死んでしまう。それに僕が送風している風は、ファイアーボールによって酸素が奪われ、二酸化炭素の塊にもなっている。
熱だけでなく、無酸素の空気を送り込んでいるので、その点でもアントを攻めることができた。
「兄さんの戦い方がエグイ」
「ノンノン、僕は効率的な方法をとっているだけだよ」
暗い洞窟の中に入って、わざわざアントを1体ずつチマチマと倒すなんて非効率すぎる。
兄弟たちに戦闘訓練を積ませるならそれでいいけれど、今回は訓練が目的じゃないからね。
それから10分程度の時間を掛けた。
「さて、アントもそろそろ全滅しただろうから、あとはお前たちが死体を運び出してくれ」
「了解しました、主よ」
作業は終了。
熱風を送り込むのはやめて、あとはシャドウとその配下のスケルトンたちに任せることにした。
今の洞窟内って300度の高温の空気で満たされている上に、酸素がない状態。
僕とユウはドラゴニュートなので温度はなんとかなりそうだけど、さすがに無酸素の中では生きていられない。
対してシャドウとスケルトンたちは、300度の温度で体が溶けることはない。おまけに既に死体なので、酸素の必要性は0だった。
そして数の多いこいつらにアントの死体を運び出させれば、僕たちは楽できる。
いやー、やっぱり労働力があると僕の仕事が減って大助かりだ。
これからも、どんどん労働を割り振っていきたいね。
「……兄さんが魔王だ」
「元だけどね」
ユウの顔が引きつっているけれど、僕は正確に指摘しておいた。
この後はシャドウとスケルトンたちがアントの死体を運びだしてくるのを待つことになったけど、その間に巣の外に出ていたと思しきアントが、洞窟の出入り口で待機していた僕たちのところにやって来た。
スケルトンのほとんどは洞窟内にいて、今ここにいるのは僕とユウ、それに数体のスケルトンだけだ。
とはいえ、相手のアントの数はほんの10体。
戦闘になるまでもなく、あっさり倒せる相手だ。
ユウは剣を構え、スケルトンも戦闘態勢に入る。
「闇の炎」
そんな面々の後ろから、僕は闇魔法を放った。
闇魔法によって黒い炎が生まれ、それがアントの1体を焼く。ただし赤く燃える炎と違い、この炎に焼かれたものは、肉の焦げる臭いを出さず、灰となってその場に崩れ落ちる。
さらに残っているアントに対しては、
「影の呪縛」
闇属性の呪縛魔法を使って、影の糸で拘束した。
「ユウ、せっかくだからここで魔法の実践をしてみようか」
「兄さん?」
剣を構えて戦闘態勢だったユウだけど、せっかくだから魔法の課外授業といってみよう。
「ユウは闇魔法に対しての親和性も高いから、少しは使える魔法の数を増やしておいてもいいだろう」
「そうですけど、でも僕の魔法って……」
ユウは魔法に関して落ちこぼれのミカちゃんと違い、ちゃんと使いこなすことができる。
そもそも僕とミカちゃんという例外を除けば、僕の兄弟たちはみんなそれぞれの属性の魔法を使いこなすことができている。
転生組の僕たちと違って、実年齢が1歳そこそこなので、たまに魔法の加減が怪しいことがあるけれど、それでもみんな立派に魔法を使いこなせていた。
ただ使いこなす事ができるのに、ユウだけは魔法をあまり使わないようにしている。
「僕の魔法って、明らかに普通の魔法じゃないですよね。なんというか、ダークサイドっぽい魔法ばかりで……」
「それは分かっているけど、いざというときに自分の身を守る手数は増やしておいた方がいいだろう」
元人間としての倫理観から、ユウは自分の魔法を使いたがらない。
まあ、無意識でもアンデットを作り上げられるほど、死霊属性魔法へ特化している。そしてその次に、闇魔法に対しての適性がユウはずば抜けて高かった。
ただこの2つの属性は、ユウの言うように確かに暗黒面寄りと言っていい。
死や闇を司る魔法だからね。
もしこれがミカちゃんだったら、
「クハハハッ、俺の中に宿る呪われし力がー」
なんて中二病っぽいセリフを言って、喜んでそうだけどね。
まあ、ミカちゃんは中二病がどうこう以前に、自分の適性が高い光魔法と神聖魔法を、ほぼ使えない超落ちこぼれだけど。
「僕たちはモンスターがいる大自然の中で生きてるんだから、もしもの時に自分の身を守れるように、使える魔法の種類を増やしておく!」
「ミカちゃんから教えてもらってる剣じゃダメですか?」
「確かにユウの剣筋はいいよ。だけど、前回は物理攻撃が効かないレイスの相手もしたでしょう。いくら剣の腕を上げたって、あいつらには意味がないからね」
ユウって優柔不断というか、こういうことでなかなか決断力がないんだよねー。
「とりあえずは、ハードルの低い拘束魔法からでも覚えていこう」
「それぐらいなら、大丈夫です」
ふうっ、やっと説得成功。
というわけで、僕が今アントに対して展開している影の呪縛を、ユウにレクチャーしていくことにした。
なお、魔法の課外授業をしている間に洞窟に入ったシャドウとスケルトンたちが、アントの死体を運び出してきた。
影の呪縛で拘束していたアントたちがまだいたけれど、そっちは僕が魔法の授業ついでに、魂破壊という死霊系の魔法を使って仕留めておいた。
見た目には何の変化がないけれど、この魔法を放った瞬間、拘束していたアントたちの体が一斉に崩れ落ちて死んだ。
ただし、外傷に関しては皆無だ。
「あの兄さん、魂破壊って名前からして、ものすごく不吉なんですけど」
「この魔法は物理的な攻撃力は皆無だけど、魂を直接破壊する魔法だから。ちなみに生物だけでなく、レイスを含めたアンデットに対しても効果が抜群の即死魔法だから」
「そ、即死……」
ショックが強かったのか、ユウがドン引きしている。
でもさ、ユウはこういう魔法に対しての適性は恐ろしく高いんだけどね。
……ミカちゃんじゃないけれど、ユウの魔法適性って魔王とかできそうなダークさがあるね。
まあ、僕もそういった魔法を使いこなせるわけだけど。
「さすがは偉大なる主。小生、感服いたしました」
なんて魔法の授業をしていたら、シャドウの奴が右膝をついて恭しく僕に頭を垂れていた。
「はいはい、そういうおべっかはいいから。それよりアントの死体を持ってきてくれたようだし、さっさとアンデットにしようか」
魔法の練習はお終いだ。
あとは運ばれてきたアントを、アンデット化していった。
――ガタガタガタガタガタガタ
しかし、ユウはアンデットを簡単にポコジャカ作れるものの、出来上がったアンデットたちは骨をガタガタ鳴らして煩くしていた。
「さて、お前たちに素晴らしい労働の楽しさを教えてあげよう」
なのでいつものように、僕がアンデットたちに労働についての楽しさを語っていってあげる。
すると、煩くしていたアンデットたちはすぐに静かになった。
あとがき
今回の話でこの物語もついに50万字を突破しました。
ブックマークの登録数も250を超えていたりで、ありがとうございます。
ただこの話を書いている作者に、ちょっと疑問もあったり。
ちょいと愚痴交じりな感じにもなっている話ですが、近況報告の方に上げておきました。
(そういうのは読まなくていいって方は、気にせずに次の話へお進みください~)
http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/106928/blogkey/1575197/




