174 死霊たらしと平常運転なミカちゃん
前書き
今回の話は、前回の話からひと月ぶりに書いたもののなので、少し書き方が変わってるかもしれません。
(と、一応な注意事項です)
ドナンとの話し合いも終わったので、僕たちがいないとできない作業をこれからしていくことにしよう。
というわけで、僕とドナンは兄弟たちがいる玉座の間へ戻る。
するとそこでは、コーンコーンと音を立てながら、ミカちゃんが劣化黒曜石の塊を、ノミを使って削っていた。
削っているものはまだはっきりとした形を持っていないけれど、ミカちゃんってなぜか石造を作るのが得意という、変なスキル持ちなんだよね。
でも前回ミカちゃんが作った石造は……うん、考えたくないや。
しょせんミカちゃんだからね。
それからリズがハルバートを持ちながら、シャドウ3体相手に戦闘をしていた。
「フンッ」
リズが強く振るったハルバートが、シャドウの体へ振るわれる。
しかし、それをシャドウはとっさに右の腕を 2本を立てて受け止める。
忘れてはならないが、こいつらには合計で4本の腕があるエイリアン体型なのだ。
「グ、グガガッ、重いっ」
「本気でないとはいえ、私のハルバートを受け止めるとはなかなか頑丈ですね」
あのリズのハルバートを腕で受け止めるとか、シャドウってこの辺りにいるモンスターとは比べ物にならないほど強いね。
この辺のモンスターだとリズのハルバートを受けると、全て体を真っ二つにされてしまう。それもたった一振りで、何体も。
やはり、体がエイリアンなのは伊達でないようだ。
そのホラーな見た目に合った頑丈さだ。
そしてリズはシャドウ1体と戦っているのでなく、あと2体のシャドウがいる。
リズのハルバートを正面の1体が受け止めているところで、その背後から別のシャドウが忍び寄る。
「甘い!」
「グゲッ」
だけど背後から忍び寄ったシャドウは、リズが振るった尻尾にあっさりと吹き飛ばされてしまった。
「ならば、これはどうです!」
「奇襲を掛けるときは、静かにするものです」
リズの関心が背後に向いたと思って、最後に残ったシャドウが横から突撃するも、リズに足蹴りをくって、見事に吹き飛ばされていた。
それでも空中に吹き飛ばされながらも、空中にいる間に態勢を整えて地面に綺麗に着地している。シャドウはパワーだけでなく、身もなかなかいいようだ。
でもね、
「……リズ、シャドウ、戦闘訓練するのはいいけれど、室内ではやめようか」
「申し訳ありません、レギュラス兄上」
「「「申し訳ございませぬ、主様」」」
僕が注意したら、リズとシャドウたちはシュンとした態度になって、僕に頭を下げてきた。
ここがいくら広いからって、体育館でも訓練場ないのに、武器を振るって暴れるものじゃないよ。
なお、そんなリズとシャドウたちの様子を、ドラドがじっと眺めていた。
そしてそのドラドの髪を、フレイアが透いてあげている。
こうして大人しくしていると、フレイアも妹を構ういいお姉さんに見えるんだけどね。
はあっ、どうしてミカちゃんなんかに毒されてしまったんだろう。
「ユウ様、ユウ様ー」
「あ、あの引っ付かないで、お願いだから」
あと、ユウはなぜかレイスにベタベタと馴れ馴れしく触られていた。
あのレイスはドナンと一緒にいたおまけレイスだけど、僕の中では存在感が限りなくないんだよね。
というか、なぜそんなに懐かれている?
「ああっ、兄さんちょうどいいところに!」
「ユウ、頼むからミカちゃんみたいに、見境なく女に手を出さないでくれよ」
ユウとしては懐いてくるレイスを振り払いたがってるようで、僕に気づいたら助けを求めるように近づいてきた。
しかし、一番まともだと思っていたユウまで、いつの間にかレイスの女を虜にしていた。
「言っておくが、俺は女なら何でもいいわけじゃねえぞ!巨大なオッパイがついてない女なぞ、女であっても意味がない!」
「ミカちゃん、堂々と自分の性癖を語らなくていいよ」
「そうじゃそうじゃ、脂肪乳など邪道じゃ。……アベボシラーッ」
ミカちゃんは相変わらずだよね。しかしドナン、お前までミカちゃんと同レベルの会話をしなくていい。
なのでミカちゃんにするのと同じ教育を、ドナンにも施してやる。
「ドナン、お前も変態性癖を丸出しにしなくていいからな。次も同じことやったら、神聖魔法で昇天させてやるから」
「ハ、ハヒィィィーーー!!!」
ふうっ、せっかく手に入れた中間管理職だというのに、どうしてミカちゃんの同類なんだろう。
せっかく手に入れた管理職なので昇天させる気はないけれど、必要ならばこいつにもミカちゃんと同じく、肉体言語での語らいが必要になるかもしれない。
まあ、ドナンの場合はアンデット化しているので、わざわざ物理的にしばかなくても、軽めの神聖魔法を放ってやればそれだけで大ダメージが入るけど。
「兄さんー!」
「ユウ様っ……あ、うっ、ヒィッ」
あと、ユウと女レイスに関しては、僕がちょっと視線を向けただけで女レイスが黙った。
女レイスの語尾がちょっとおかしかったけれど、この程度で黙ってくれるならいいや。
「なんかエロイ声……でも巨乳でないので俺の管轄外……だがしかし、リア充くたばれ」
そんな女レイスの悲鳴のような小さな声に、ミカちゃんが反応していた。
それとなぜか、ユウの方を腐った魚のような目で睨んでいる。
ああっ、本当に面倒くさいおっさんだね。
もっともミカちゃんは今のところユウに手を出すつもりはないようで、
「うらやましくなんてない、うらやましくなんてないんだからな!俺はこの理不尽極まりない現実を、芸術に昇華させるんじゃー!」
なんて叫びだして、さっきから掘っている彫刻に、さらに意欲的に取り組んでいった。
無視しておこう。
それが一番いい。
それよりもさ、
「ユウ、頼むからお前まで変な方向にいかないでくれ。僕の弟が女たらしとか、勘弁して欲しい」
ただでさえミカちゃんはあんなのだし、それに影響されたフレイアは性格が悪くなってしまっている。
この上さらに変な兄弟が増えるなんて僕は御免だぞ。
「違うんです、僕は何もしてないですから」
「そうなのか?」
ユウが無実を訴えるので、女レイスの方を見て尋ねる。
「は、はい。ユウ様は何もしてないんです。ただ、とってもユウ様がとってもおいしくて……」
「「……」」
ユウのことがおいしい。
その言葉に、僕とユウが固まってしまう。
「おいしいだと……まさか事後!?」
ミカちゃんがノミを振り上げ、再びユウを睨む。
ミカちゃんが手にしている劣化黒曜石製のノミではドラゴニュートにダメージはいらないけれど、今のミカちゃんなら正気を失ってユウに襲い掛かりそうな雰囲気満々だ。
前世では嫉妬教団とかいう変態組織の教祖を、ゲームの中とはいえしていた人だからね。
それにしてもユウがおいしいねぇ……。
「……えーっと、もしかしてユウがおいしいっていうのは、魔力のことかな?」
「は、はい。そうです偉大なる死の王様」
「レギュラスでいいから」
「レ、レギュラス様」
女レイスが僕の質問に答えてくれるのはいいけれど、死の王様扱いされるのは正直面倒くさい。
普通に話す時までそれをされると、会話が成立しなくなる。
しかし、魔力がおいしいのか。
「あの、兄さん。僕の魔力がおいしいって、どういうことですか?」
「ああ、それはね、ユウはヴァンパイアの始祖の特性持ちだろう」
「はい」
ユウは望んではいないけれど、ラスボス的な属性持ちだったりする。
「それでヴァンパイアの魔力って、死霊系のモンスターからしたら、とってもおいしいらしいよ」
「はいっ!?」
「ヴァンパイアって基本的に魅了系の能力を持ってるけど、猫がマタタビにやられるみたいに、ヴァンパイの魔力って死霊系モンスターにはとってもおいしく感じられるらしいんだ。それも中毒になるくらい」
「……」
これはあくまでも僕の持っている知識に過ぎない。何度も転生している僕だけど、さすがに自分が死霊系のモンスターに転生したことは一度もない。
ただ、ヴァンパイアの魔力は死霊系のモンスターにはとても好かれる魔力だそうで、その魔力に魅了されて虜になったり、それが行き過ぎてヴァンパイアに下僕のように従ってしまうことまであるそうだ。
「おまけにユウは闇の属性竜の性質まであるから、余計に死霊系モンスターに好まれるんだろうね」
闇の属性竜は、アンデットを従える能力が高い。
そんな性質持ちのユウだから、女レイスにやたら好かれてしまったのかもしれない。
「それはつまり、ユウの奴が死んだ巨乳美女にも好かれてしまう、天然たらし野郎だってことなのか!?」
僕たちが話していたら、ミカちゃんがものすごい目でユウのことを睨んでいた。
このおっさん、単に嫉妬に狂うだけでなく、どうしていつも巨乳の方向に話を持っていくかな。
まあ、ミカちゃんなので、これがいつも通りの平常運転だけど。
「ユウ、僕は原因については話したから、女レイスとミカちゃんのことは自分で何とかしようか」
「えっ、ちょっと兄さん!?」
僕としては、これ以上ユウに関わりたくないな。
だって、
「ユウ様ー」
「もてない男の敵!前世で童貞だった俺の恨みを思い知れー!」
女レイスは目の中にハートマークを浮かべているし、ミカちゃんは劣化黒曜石のノミを振り上げながら、ユウに突撃していっていた。
「うっ、うわあああーーーっ!!!」
哀れなユウはミカちゃんに噛り付かれてしまう。
ついでにミカちゃんが暴れていると、近くにいた女レイスにミカちゃんの体がぶつかってしまう。
女レイスは実体がない霊体なので、物理的なダメージを受けることはない。
だけどミカちゃんは光の属性竜の性質持ちのため、興奮した時に体から神聖属性の魔力が放たれたりする。
「きゃあっ!」
そんなわけで、ミカちゃんの体が当たった女レイスが悲鳴を上げていた。
アンデットにとって、神聖魔法は致命的だからね。
「クウッ、俺にも主役補正のたらし能力が欲しい。あと、このレイスが巨乳だったら、今の悲鳴だけでご飯10杯いけたのに。ウ、クッ、クウウウッ。くたばれユウー!」
「ギャアアアーッ」
ユウの悲鳴が響くけど、僕はユウに強くなってもらうために、あえて手を出さなかった。
まあ、それはただの建前で、この騒動に関わりたくないだけだけど。
「どうしてうちの弟妹どもは、こんなのばかりなんだ?」




