160 お兄様にダイブ
「おかえりなさい」
『お帰りー』
第2拠点へ戻ってきた僕たち。
「うへー、疲れたー」
リズとドラドに出迎えられたけど、今日は魔力を使いまくったので、僕は真っ先に床にゴロリと寝転ぶ。
強化ゴブリンスケルトンを結構作ったし、フレイアの太陽魔法を無力化したし、あとおまけでドナンをリッチに作り替えたりもした。
僕、この世界に生まれてから、まだ1歳児なんです。
転生を繰り返しているけれど、魔力の量は魂に引き継がれるわけでなく、その時に転生した体がベースになって決まる。
齢1歳で、扱える魔力が常識外れに多いドラゴニュートだけど、それでも前世の僕と比べれば、扱える魔力量はかなり小さい。
……まあ、魔王なんてやれる体と比べてしまえば、さすがにドラゴニュートと言えど、見劣りして仕方がない。
ただし1回脱皮したことで魔力の保有量が増えたから、将来脱皮を繰り返せば、さらに多くの魔力を操れるようになるだろう。
「今の段階でこれだけ魔力を操れるってことは、この体ってどこまで伸びるんだろうね」
自分の操れる魔力量が多くなるのはいいことだ。だけどそれは同時に、フレイアにも成長の伸びしろがまだまだあるということだ。
今の全力で太陽魔法を使ってるから、もう2、3回脱皮したら、星の一部が溶けてなくなっちゃいました……なんて極悪魔法を習得しなきゃいいけど。
そうなったら、地球にある核兵器どころの威力じゃないね。
……フレイアには、絶対に破壊魔人染みた性格に育って欲しくないものだ。
「お兄様ー」
「ゲフッ」
なんて思ってたら、床に寝転がっていた僕の上に、フレイアが全身ダイブしてきた。
疲れていたこともあって油断していたので、もろにフレイアに圧し掛かられてしまう。
「フレイア、重い」
「私はレディだから軽いですわ。ホホホッ」
こんな時にレディぶらなくていいよ。
それにどう言おうが、重いものは重い。ついでに背中の辺りに、柔らかい物が当たるけれど、重いんだよー。
「ウガーッ、フレイアたんのオッパイは俺のもんだー」
「ゲフッ」
なんて油断しまくってたところに、さらにミカちゃんまでダイブしてきた。
「レギュラス、貴様に俺のフレイアたんの胸は渡さん!」
「ミカちゃん、私の全てはレギュラスお兄様のものですわ!」
「Noー。俺の愛おしのフレイアたんが、レギュレギュの毒牙にかかってしまったー!」
僕の上で暴れ回るなよ。重たいんだって。
「わー、皆楽しそうだね。僕も突撃ー」
「ゲフッ」
レオンまでなぜかダイブしてきやがった。
俺は座布団でも、布団でもないぞ!
「楽しそうですね……ていっ」
「ゲフッ」
ノウッ、リズまでなぜダイブしてくる。
『ワクワク、ドラドも……』
「「お前はダメだ!」」
最後にドラドまでダイブしようとしてきたのを、僕とミカちゃんが即座に止めた。
今のドラドはドラゴニュート形態。
変身を使えば見た目が変化する上に、変身先の能力をある程度引継ぐぐようになる。
その中には体重も含まれるけど、あくまでもある程度であって、全てではない。
なので元がドラゴン体型のドラドにダイブされれば、僕たちはドラドに潰されてしまう。
死なないとは思うけど、口から内臓飛び出しそうになるかも……マジで止めて。
『ショボンッ』
ドラゴニュート形態にして、幼女体型のドラドがションボリするけれど、だからと言って保護欲をやたらとそそる表情に負けてはダメだ。
僕は、こんなところで死にたくない!
「ここが僕たちの第2拠点です。……あれ?出発前はただの洞窟だったのに、天井も壁もすごく黒くなってますね?」
そんなところにユウが、今回味方にしたドナンとおまけレイス、シャドウたちを連れてやってきた。
なお出発前にユウと一緒に送り出したスケルトンどもは、フレイアの太陽魔法によって壊滅している。なので、シャドウへと進化を遂げた連中以外は全滅だ。
「おお、なんと禍々しい。まさに死の王に相応しき居城ですな」
「おおおっ、我らシャドウ一同。レギュラス様に素晴らしき城に感激いたします」
ドナンとシャドウたちは、そんなことを言ってる。
ちなみにユウたちが出かけていた間、居残り組だった僕とリズ、ドラドの3人で、ただの洞窟を住みやすくするための工事をした結果、現在のようになっている。
壁も天井も、全て劣化黒曜石製。
つまり、黒一色になっていた。
「城って……ただの洞窟だろう」
感動している連中は何を言ってるんだか。
僕から見れば、ここは所詮ただの洞窟。内部に手は加えたけど、外から見れば、ここは丘の中にあるただの洞窟にしか見えないだろう。
まあ、それはさておいて。
「そうだシャドウ。ここの洞窟の奥に石ころが山積みになっている部屋があるんだが、その中からグラビ鉱石を分別しておいてくれ」
「了解しました、我が主よ」
「部屋は分かるか?」
「スケルトンだった時の記憶が残ってますので、大丈夫です」
3体のシャドウどもは、さっそく仕事へ向かって行く。
うむうむ。
素晴らしい労働力だ。
ただし日本語をしゃべれるようになったとはいえ、元がゴブリンなので、ちゃんと石とグラビ鉱石を仕分けられる疑問だ。
あとで、ちゃんと確認を……
「そうだ、ドナンとおまけレイス。お前らはシャドウがただの石とグラビ鉱石を見分けられるか、確認してくれ。ただし奴らの作業には手を貸すな。あついらの知能レベルを知るための実験だからな」
「グラビ鉱石とは、なんですか?」
「そこにある石だよ」
拠点の中に転がっていたグラビ鉱石があったので、それを指さす僕。
「……なるほど、この魔法石の事ですな。我が主よ、承知いたしました」
そう言い、ドナンとおまけレイスも、シャドウたちの後を追いかけていった。
さて、仕事は割り振った。
あいつらはアンデットなので疲労を感じないし、夜中だろうと平然と働いていられるので問題ない。
なので奴らに仕事は全部任せて、僕は寝るぞ。
今日は疲れた。
「お兄様ー」
「フレイアたんー」
「……」
お前ら、僕の上にいつまでも乗っかってるんじゃねえ!




