156 一応光の属性竜ミカちゃん
「主よ、ある……じ、よ」
スケルトンから作り出した○イリアンどもが煩い。
それにいつまでも、呼び方をつけてやらないのもまずいだろう。
こいつらはさっき生まれたばかりといっていい生物で、既に元になったスケルトンと、フレイアの膨大な魔力が結びついた結果、魔法生物としての能力を兼ね備えていた。
しかし生まれたばかりでその存在は酷く不安定で、心理的なもだが、今現在も力が不安定なせいで、体外に漏れ出していた。
放っておけば、このまま魔力をなくして死んでしまうだろう。
特に魔法生物の場合、自分の体が魔力によって形作られるため、魔力が0になるということは、体が崩壊して死んでしまうことを意味した。
なので、とりあえず全身が真っ黒なところから名前をとって、
「お前たちには"シャドウ"という名前を与えよう。お前はシャドウ1号、それで2号、3号だ」
「おおっ、主よ。我らに名を与えていただき、恐悦至極にいます」
勝手に感動するシャドウ1から3号たち。
たかだか名前だけれど、それを与えた瞬間に今まで不安定だったシャドウたちが安定した。
それにしても、こいらつ日本語を話せている。
魔力を多めに注いで作った強化スケルトンどもより、はるかに知能指数が高いのは確実だ。
「い、1号から3号って……村人ABC並に名前が安直すぎだろ」
なんてところで、ミカちゃんが呆れながら突っ込んできた。
「いいのいいの。どうせ勿体ないついでで作った奴らだから、凝った名前なんて付けなくていいの」
「そいつら1体で、フレイアの3分の1の強さがあるんだろ。それがついでって酷くねえ?」
「酷くても、事実だから仕方がない」
僕的には粗大ごみの再利用。とまではいかないけれど、それと似たような感覚だ。
「……最近、レギュレギュの魔王レベルが上昇しっぱなしだ」
「確かに兄さんって、魔法だけでなく性格も……」
「2人とも、何か言ったかな?」
ミカちゃんとユウが小声で話し合っているので、僕が笑顔で尋ねると、2人とも急いで首を横にブンブン振った。
まるで扇風機みたいだ。
「とりあえず、お前たちはそこで黙って待機だ」
なお僕たちが話している裏で、シャドウたちが主よコールを続けていたので、命令して黙らせる。
「御意」
命令されると、奴らは3人仲良く並んで突っ立ったまま、ピクリとも動かなくなった。
まるで中世の屋敷に飾られている飾り鎧みたいに、直立不動。
おまけに元スケルトンにして現魔法生物だから、呼吸の必要がないので、息すらしてない。胸の辺りが全く動かないので、ますます飾りっぽい。
あるいは、未知のモンスターの剥製っぽいかな?
ま、黙ったのでいいか。
強化ゴブリンスケルトンより知能があるなら、こいつらには後々役に立ってもらうことにしよう。
「ところでシャドウの事は置いといて、どうしてフレイアが、あんな馬鹿みたいな魔法を使う羽目になったのか、聞いてもいいかな?」
「いや、そいつらも置いとけるような話題じゃ……」
「ミカちゃん?」
「ウヒイィーッ」
話題を逸らすんじゃねえよって意思を込めながら見たら、ミカちゃんがなぜかビクリと震えた。
どうしてだろう。
僕はまだミカちゃんに肉体言語を使ってないのに、どうしてビビられないといけないんだ?
「兄さん、目が怖くなってますよ」
なんて思ってたら、ユウに言われた。
おっといけない。
ついつい癖で、いつものように今回もミカちゃんが原因で、フレイア大暴走になったんだと決めつけて睨んでしまった。
なのでユウとミカちゃんから視線をずらして、
「で、どうしてこんな大惨事になったのかな?」
僕はフレイアの炎によって消し飛んだ周辺を眺めながら、再度尋ねた。
ここには丘が一つあったはずなのに、今ではそれがフレイアの太陽魔法で蒸発してしまい、跡形も残っていない。
さらに周辺部は熱によって焼かれていて、土が熱で溶岩化した後、冷え固まった塊がそこら中にある。
辺り一帯の地面に生えていた草も、全て燃えてしまって、荒れ地だけが残されていた。
「それはアントと戦いになって、フレイアがキレちゃって……」
「アントとの戦い?」
「実は……」
そこからはユウが、何があったのか話してくれた。
早い話が、フレイアがキレた原因はストレスのせい。
もともとフレイアは、洞窟のような暗くてジメジメして湿った場所が嫌い。そして密閉空間では炎魔法が使えないせいで、大量の敵を焼き払う事ができず、ストレスを溜めまくっていたらしい。
そしてキレた結果が、アレだった……と。
「フレイア……マジで怖っ」
ストレスが原因であんな太陽魔法使うとか、僕でもドン引きしてしまうレベルだ。
そのフレイアは、現在レオンに介護されて、ぐっすりと眠り込んでいた。
魔力を使いすぎると疲れや倦怠感が出てしまうけど、今回フレイアは全力で魔法を使ったので、その反動だろう。
運動して体を動かせば疲れで眠気が出てくるけど、魔法の場合もそれと同じだ。
「スースー」
と、フレイアは寝息を立てているけれど、たまに、
「クソ蟻が……」
とか、険のある声で呟いていた。
「僕、フレイアが怖い」
「僕も怖いです」
僕の正直な感想に、ユウも同意する。
「ううっ、フレイアちゃん。あんなに大きな胸をしているのに、超女王様気質とか……フ、フフフッ。お、俺の中のビックモンスターが暴れ出し……ゲボファッ」
「おっさん、お前のせいでフレイアの性格がどんどんひん曲がって行ってるんだよ!絞めるぞ」
「ギブギフ、関節技ダメー。ギャー」
フレイアがあんな性格になってしまったのは、全てミカちゃんのせい。
おっさんの趣味が原因なのだろうけど、よりにもよって妹の性格をあんな風にするとか、このおっさんの頭はマジで沸いている。
その後は、ミカちゃんにいつも以上に丁寧な肉体言語を使って、語り掛けてあげた。
「フベラファハー」
そのせいかしゃべり終わった後は、ミカちゃんは現実を見ていない夢見がちな少女の様な目をしながら、フラフラと歩きだしていた。
「お花が綺麗。ワー、大きな川だー。渡っちゃえー」
「ミカちゃん、そっちに行っちゃダメー!」
フラフラ歩いているミカちゃんを、ユウが必死になって止めていた。
でも、このおっさんにはこれぐらいしておかないといけない。
これぐらいしても、性癖が治らないから困るんだけどね……。
ああ、ミカちゃんの相手をしてたら本当に疲れる。
主に精神的に疲れて、僕は近場にあった岩に腰かけた。
するといままで存在を忘れていた幽霊が、視線に入った。
2人とも心ここにあらずと言った表情で、ポカーンと間抜け面をしている。
ここに来た時から外野扱いしてたから、忘れてたや
「そこにいる幽霊2人だけど、この人たち何?」
「ああっ、そういえば筋肉乳おっさんの事、すっかり忘れてた!」
僕が尋ねたら、妄想の中で三途の川を渡りかけていたミカちゃんが、いきなり大声を出した。
相変わらず、復活早いなー。
てか、筋肉乳おっさんって何?
そのあだ名、酷すぎない。
「お前のせいで、俺らはフレイアに殺されかけたんだぞー!」
呆れている僕の前で、ミカちゃんがドワーフ幽霊に飛びかかっていた。
「フゲラシー」
「ヘボシッ」
だけど相手は実体のない幽霊なので、飛び込んだミカちゃんの体が、そのまま通過してしまう。
ミカちゃんはそのままレイスの向こうにあった地面に、顔面から大激突して雄たけびを上げる。
あとレイスの方も、ミカちゃんが貫通していった際に雄たけび上げて、思い切り悶絶していた。
「グ、グヘッ。死ぬー」
地面でももんどりを打ちながら、レイスが叫ぶ。
もっとも、もう死んでるから、死にはしないけどね。
ちなみにすでに実体のないレイスが、ミカちゃんが貫通した際に悶絶している原因だけど、
「ミカちゃん、何があったのかは知らないけど、そのまま触れ続けてると、レイスが成仏して消えるよ」
「なんですと?」
「ミカちゃんって性格はあれだけど、一応光の属性竜だから、神聖属性の適性が高いんだ。そのせいでアンデットに触れると、相手にダメージを与えることができる」
「おおっ、そうだったのか。でも、今までスケルトンどもにも触っても、成仏はしなかったぞ」
「普段触る分には問題ないけど、ミカちゃんの気分が高揚したり、攻撃的になってると、アンデットにダメージが入るんでしょう」
「ほー、俺にそんな能力があったのかー」
光の属性竜についての説明をしておく僕。
もっともミカちゃんってあんな性格してるから、光や神聖より、エロと食い気と本能が主属性だと思うけど。
やっぱりミカちゃんが、光の属性竜の性質持ちなんてありえない。
アンデットを成仏させるより、誰彼かまわず襲い掛かって、「メシー」って言いながら齧り付いてる方が、はるかに似合ってる。
「それはともかく、幽霊についても聞いておこうか」
ミカちゃんの性質に関してはこのくらいにして、僕は改めて、この場にいるレイスたちのことについて尋ねた。




