153 この辺りで僕らに勝てるのは、マザーか同じ兄弟くらい
前書き
久しぶりに主人公のレギュラスに視点が戻ります。
――モグモグ、モグモグ
「ふむ、ただのスケルトンの骨に比べると、非常に奥深い味わいがあり、噛めば噛むほど深い味が出てきますね。非常に興味深い味です。ですがどこかとってつけたような風味があるのが難点でしょうか。とはいえ、これはこれで大変に美味で……」
とは、リズのグルメリポート。
送り出したユウたちがまだ帰ってこないので、僕たちは第2拠点の改善工事を一休み。
拠点の外に出て、スケルトンの骨でおやつタイムをしている。
スケルトンは材料があればいくらでも作ることができる労働力であり、最終的には僕たちのおやつになる存在だ。
ただ、今回は食べているのはただのスケルトンの骨でなく、魔力を加えて強化したもの。
これをリズとドラドにも食べさせてみた結果、上記のグルメリポートが返ってきた。
「難しいことはともかく、僕は美味しかったらそれでいいや」
リズの話は難しすぎるね。
いつもはリズの方が僕の話を難しいと言うけど、今回は真逆だ。
『もっと食べたいなー』
とはドラド。
口の中でバリバリボキボキと音を立てていたけど、体の大きなドラドだけに、スケルトン1体では、すぐにお腹に収まってしまう。
「さすがに僕でもスケルトンどもをポコジャカ強化しまくるのは無理だから。今日のは、僕たちだけの秘密のごちそうにしておこう」
「秘密のごちそう、いい響きです」
なんだかリズが目をうっとりとさせていた。
リズってこう見えて、かなり美食家なのか?
まあ、グルメリポートをするぐらいだから、味には煩いかもしれない。
なんておやつタイムを挟んでいる間に、外はすっかり暗くなってしまった。
戦闘面ではやや頼りなさが残るユウだけど、保護者としては優秀だ。
ミカちゃんがわがままさえ言っていなければ、いい加減帰ってきてもいい頃だろうと思う。
なんて思ってたら、片足と片腕がなくなっているスケルトンが1体、僕たちの所にやってきた。
随分ボロボロな姿で、這いずって僕たちの所へ来たけど、多分こいつはミカたちにつけておいたスケルトンの1体だろう。
途中でモンスターに遭遇して、手足をもがれてしまったのかな?
それでも帰ってくるなんて、とても優秀な労働力だ。
生身の生物だったら、腕とかもがれると、出血多量で動き続けられないからね。こういう時は、既に死にようがないアンデットは優秀だ。
「お前、何しに戻ってきたんだ?」
帰ってきたスケルトンに尋ねると、どうやらこのスケルトンは、ユウからの伝言を頼まれていたらしい。
顎の骨をガタガタ動かして、僕の質問に答えてくれる。
ユウだったらそのままでスケルトンの言葉を理解できるのだろうけど、僕はさすがにそこまで器用でない。
とはいえ、精神系の魔法や死霊系の魔法を使えば、スケルトンの頭の中を見通すことができる。
「兄上?」
僕がスケルトンの頭を覗いている間黙っていたので、リズが心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫だよ。ユウたちだけど、変な幽霊に遭遇したみたいだね」
僕はスケルトンから読み取った情報を、リズとドラドに伝えておいた。
「レイスですか?」
「半透明のお化けのモンスターだね。物理的な攻撃が効かない上に、食べられない奴だ」
『食べられない……ご飯じゃないの?』
ドラド、お腹が空いてるのかな?
小首をかしげて可愛らしくしているけれど、やっぱり1歳児だから、そう考えても仕方がないか。
とはいえスケルトンから得た情報で、ミカちゃんたちがお節介を働かせたというのは分かった。
そのせいで帰りが遅くなってるのだろう。
連絡してくれたのはいいけれど、帰りが遅くなるのは感心しないな。
とはいえ、戦闘面では心配しなくていいだろう。
ドラゴニュート4人に勝てるモンスターは、この辺りにいない。
ゴブリンや土狼はもとより、石化の毒を持っている砂蜥蜴も論外。
死霊系のゾンビやスケルトンは、どこでも自然発生する可能性があるけど、僕たち兄弟はスケルトンを、いつもおやつにしているからね。ゾンビの方は腐っているので食べられないけど、弱いので僕たちの敵にはならない。
僕なら、ゾンビ相手にデコピン1発で頭を粉砕できるけど、あいつら頭が飛び散ってもそのまま動くんだね。……あと、肉が腐ってるので触りたくない。
ハエが集ってたり、蛆が沸いてることもあるから、フレイアの炎で跡形なく焼き払うのが一番正しい倒し方だろう。
そして幽霊とか、高位の魔法使いが死たことで生まれてくるリッチなんて死霊系モンスターもいるけど、それでもうちの兄弟たちの方が確実に強い。
幽霊系の物理攻撃が効かないモンスター相手でも、ダメージを食らうことはないだろう。
もしこの辺りで僕たちに勝てる存在がいるとすれば、それはマザーか、あるいは同じ兄弟である僕たちドラゴニュートだけだ。
そこで僕はふと、面白くなってしまった。
「ハハハッ」
「レギュラス兄上、何か面白い事でもありましたか?」
「いや、兄弟の誰かか、全力で魔法ぶっ放したりはしないだろうと思ってね」
「全力で?」
僕の言葉に首を傾げるリズ。
「僕たち兄弟って、この辺りでは敵なしだけど、さすがに兄弟の誰かが全力で魔法を使ったら、ただでは済まないからね。特にフレイアが全力で魔法を使ったら、即死の危険がある」
『フレイアって、最近敵に容赦がなくなってるものねー』
「だよな。フレイア、もっといい子に育って欲しいな……」
ドラドも、フレイアのことをそんな風に思っていたのか。
実力うんぬんより、フレイアの性格は日に日にダークな方向に寄って行ってる。原因の半分はミカちゃんだけど、当人にもそういう部分があるのだろう。
……この世界ではないけど、僕は昔女に引っかかって散々な目に遭わされたので、妹にはそういう悪い女に育って欲しくなかった。
いい子に、もっといい子に育ってくれフレイア。
「……」
なんて考えているところで、物凄く危険な気配を感じた。
気のせいだと思いたかったけれど、僕から見ても明らかにヤバい気配だった。
どれくらいヤバいかと言えば……
「兄上、あれをご覧ください」
『わああっ、地上に太陽ができてる!』
ミカちゃんたちを送り出した方向にある丘の一つが、滅茶苦茶明るくなっていた。
というか丘が消滅して、そこにあった丘に代わるように、暗くなった夜の闇を消し去る、巨大な炎の塊が現れていた。
ドラドの言う通り、太陽というしかない炎の塊だ。
「フレイアですね」
『何してるんだろう?』
ここら太陽までは1キロ近く離れているけれど、それでも炎の塊からの熱がジリジリと僕たちの所にまで届く。
おまけに炎の塊は赤から青へ、そして白い光へと変換されていく。
こんな超魔法を放てるのは、僕たち兄弟の中ではフレイアだけだ。
「明らかに、これは普通じゃないぞ」
この炎が丘一つを消し去ったのは間違いない。
だけどそれだけでなく、尋常でない魔力があの炎の塊にはあった。
そのレベルは、100メートル級の巨大な火球なんてレベルでなく、もっと根源的に危険な威力を秘めている。
冗談でやっていいレベルを超えた、フレイアの全力の魔力がこもった、火炎球と化していた。
「何があったのか分からないが、僕は今すぐフレイアを止めに行く。ここなら大丈夫だと思うけど、もしもの時は2人とも全力で防御魔法を使いなさい」
あの炎は、僕たちでも即死級のレベルだ。
2人の妹に僕は急いで指示すると、背中の翼を広げて空へと飛び上がる。
「兄上、気を付けてください」
『レギュ兄、ちゃんと帰ってきてよー』
地上にいる2人の妹たちの声を聞きながら、僕は全力で炎の塊へと向かって羽ばたいていった。




