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異世界転生したら七つ子の竜人(ドラゴニュート)兄弟だった  作者: エディ
第3章 第2拠点と不死者(アンデット)
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145 幽霊ドワーフとの接触 (ユウ視点)

『ワシの名はドナン。ドワーフ族のドナンと申します』

 そう名乗った人影は、背の高さは子供と変わりがなかった。

 (ユウ)たちが、この世界で生まれた時の身長と同じくらいだ。

 しかし輪郭はおぼろげながらも、ドワーフと言うだけあって、横の大きさは大人2人分はありそうな巨体だ。

 その体が脂肪ではなく筋肉に覆われているのだから、その力はとてつもないものだろう。


 もっともそれは生前の姿。

 今のドナンさんの姿は半透明になっていて、地球で言う幽霊。この世界で見ても、幽霊にしか見えなかった。


「もしかしてもしかしなくても、幽霊ですよね?」

 それに対して無言で頷くドナンさん。

 僕心霊現象を直接見るのは前世でも今世でも、これが始めんてなだけど……。

 というか幽霊が見えるとか、かなり怖い事だ。


 ……ただし心霊現象の中に、スケルトンを含めなければだけど。



『実はワシ、ここから遥か北にあるドワーフの国でかつては鍛冶師をしていたのですが、取引先の商人に嵌められまして、無実の罪で国を追われてしまいしまてな……』

 そこから、ドナンさんが1人滔々と話し始めた。


「なあ、こいつ何か言ってるみたいだけど、声が全然聞こえないんだけど」

「もしかして、ミカちゃんたちには聞こえていなんですか?」

「聞こえてないぞ」

 どうやら幽霊のドナンさんの声が聞こえているのは僕だけのよう。ミカちゃんだけでなく、フレイアとレオンの2人も聞こえないとのことだった。


 でも、スケルトンたちの方を見ると、「聞こえてますよ」という感じで、首を縦に振る。


 幽霊なだけあって、同じ死者であるスケルトンには聞こえてるようだ。

 でもミカちゃんたちには聞こえてないのに、どうして僕には聞こえてるんだろう?

 ……もしかして、例のヴァンパイア属性と関係があるのかな?


 そう思いながらも、

「何を言ってるのかわかるなら、俺たちに通訳してくれ」

 と、ミカちゃんに言われてしまった。

 しかたなく、僕はドナンさんの言葉を、ミカちゃんたちにもわかるように通訳していく。


「ドワーフの国だと!」

 そして僕が通訳を始めた途端、ドワーフの国という単語に、いきなり反応するミカちゃんだ。

 青い目をキラキラと子供の様に……いや、ご飯を食べる時の様に輝かせて、尻尾がブンブン左右に動いている。


「うおおおっ、さすがは異世界。やはりドワーフがいたのか。

 ……ちなみに女ドワーフは、もちろんボインキュボンのエロドワーフだよな。グフフフッ」

 やっはりミカちゃんだった。

 反応する方向が、斜め下にズレている。


「おい、ユウ、ちゃんと聞いてみろ!」

「ええっ、それはさすがに……ヒギャッ」

「いいから、エロドワーフがいるか、ちゃんと聞きやれってんだ!」

「わ、分かったから噛みつかないでー!」

 この世界に生まれてからずっとそうだけど、口答えしたらミカちゃんに噛みつかれてしまった。

 ミカちゃんは自分の欲望に正直すぎる。

 兄さんがミカちゃんのことを"野生児"とか"エロ親父"と言ってるけど、本当にその通りだ。

 あと、自分の本能に正直すぎる。


 僕は仕方なく、ミカちゃんの要望をドナンさんに尋ねてみた。


『我々ドワーフの女ですかな。ヌフフッ、それは大層美しい女子(おなご)ばかりで、皆引き締まった肉体に、ピクピクと動く胸をしておりますぞ。まあ胸を動かせるのは、何も女ばかりでなく、ワシら男も……』

 そう言いながら、既に幽霊になっているドナンさんが、自分の胸の辺りをピクピクと動かして見せる。

 えーと、こういうのって筋肉マッスルな人たちがやる光景だよね。


 僕は若干引きつつ、ドナンさんから思わず目を逸らした。


「なんで、このおっさん胸を動かしてるんだ?気持ちワリー」

「ドワーフは男も女も胸が動くそうですよ……」

「Noー」

 ミカちゃんが気持ち悪がってるけど、僕も気持ちが悪い。


「ってか、もしかしてドワーフの女って、ペチャパイなのか?」

 ミカちゃんの言葉を翻訳したくないのだけれど、ミカちゃんが獲物を狙う目で僕の方を見てきた。

「通訳しないと、もう一度噛みつくぞ」

 言葉はないけれど、ミカちゃんの目がそう脅してきていた。


 仕方なく、僕はドナンさんにその旨を尋ねる。


『ワハハハハッ、何を言っているのか。我らドワーフの胸は、男女とも筋肉の鎧に包まれ豊満ですぞ』

 なんてドナンさんが言ってきた。


 あ、うん。ものすごく聞きたくなかった。

 そしてそのことをミカちゃんに改めて通訳すると、

「ドワーフNoー。筋肉の胸に用などない。俺が欲しいのは、脂肪でタップンタップンと揺れ動く豊穣の山脈なのじゃー!」

 なんて叫び出した。


 ああもう、僕こんな通訳ばかりしたくない。

 誰か、助けて……。



 ものすごく情けなくなって、僕はフレイアとレオンに助けを求めるように視線を向ける。


「フンッ、ドワーフなんて所詮私の敵じゃありませんわ」

 でも僕の思いを知ってか知らずか、フレイアはなぜか両手を腰に当てて、胸を突きだして威張ってる。

 あ、うん。ミカちゃんの教育のせいで、フレイアも考える方向がおかしくなってるから仕方ないね……。


「筋肉オッパイって、どんな感触?」

 一方レオンは、首を傾げながらそんなことを言う。

 僕の兄弟たちが、皆ミカちゃんの毒に汚染されてしまってる。



 僕は兄弟たちにいろいろ勉強を教えたりした。

 けどこっちの方面に関しては、ミカちゃんが洗脳のような教育を生まれた時から施してきたせいで、もはや兄弟たちはこんなことばかり考えるようになっていた。

 うううっ、ミカちゃん。頼むから見た目は大きくなってても、兄弟たちが皆1歳児なことを忘れないで……。


「ミカちゃん、兄弟の年齢の事を考えて、歳に合わないことを教えるのはやめましょう」

「ユウ、お前が何を言いたいのか、全然わからんぞ?」

「……だからオッパイとか、そういう事を子供に教えるのは早いってことです」

 少し小声になって、ミカちゃんにしか聞こえないように耳打ちする。


 だけどそんな僕の両肩をミカちゃんが掴んで、諭すような声で言ってきた。

「……ユウ、お前は前世では発情期の頃に死んだんだろう。だったら、もっとオスとしての本能を全開にしろよ」

「ちょっ!発情期とか言わないでくださいよ!」

 僕はそんなことを思ってないのに、ミカちゃんと話してたら、本当に話が変な方向に持っていかれてしまう。


 誰か、この変態親父をどうにかして!

 兄さん、ヘルプミー。僕じゃミカちゃんに勝てないー。

 ミカちゃんを止められるのは、うちの兄弟では兄さん以外誰もいない。


 ここにいない兄さんに思わず助けを求める僕だけど、当然ここにいないので、どうにもならない。



『……あのー、ところでワシの話の続きを聞いてくれませんかの?』

 なんてしてる間に、話から放り出されていたドナンさんが、申し訳なさそうにしつつも、僕たちの間に割って入ってきた。


「そ、そうですね。ドナンさんの話の続きに戻りましょう」

 ナイス、ドナンさん。

 ミカちゃんによっておかしくなった話を、これで元に戻せる。


「えっ、ペチャパイドワーフ族の話なんて興味ねえぞ」

 だけどミカちゃんは、その話題を速攻で切り捨てた。


 ミカちゃんって、本当に自分に正直というか、本能のままに生きている。

 自分の興味ない話だと、そこまで簡単に切り捨てられるなんて……。


 そんなミカちゃんの言葉に僕は絶句し、ドナンさんも沈黙してしまった。



 しばらく僕たちの間に静寂だけが流れる。


『ウオッホン。それではワシの話なのですが、ドワーフの国を無実の罪で追われた後、あてどもなく各地をさ迷い歩くことになりまして……』

 その後しばらくして、何事もなかったかのように、自分の生前の話を再開するドナンさん。

 なんて打たれ強い人だろう。

 単にミカちゃんのセリフを、無視しただけだろうけど。


 でも僕もそれに倣って、ミカちゃんの事を無視して、再びドナンさんの話を通訳していく事にした。


 だって、またミカちゃんのエロ話に戻りたくないから、仕方ない。





 その後も、ドナンさんの話は続いていき、それを僕が通訳していく。

 ドナンさんは各地をさ迷い歩きながら、ある時は人間の子供の背丈しかない種族の小人族の集落でしばらく生活を共にし、またある時は平原を駆け抜けるケンタウロスという種族にも遭遇したことがあるそうだ。


 小人族は、見た目は小さくてあまり外交的な種族でないけれど、同種族で集まった集落を作り、村の中で畑作って作物を育て、機織りをして布などを生産しているそうだ。

 狩猟はあまり得意ではないものの、それでも小人族の中には狩り人もいて、小型のモンスターを倒して、そこから取れる肉は食料に、皮などは剥いで自分たちの生活に利用しているとの事。

 ドナンさんは、元が鍛冶師のドワーフだったこともあって、そんな小人族の村で道具を作ったりして、小人族と関わったことがあるそうだ。


 もっとも小人族は外向性に乏しい種族だったこともあって、ドナンさんが小人族の集落に長期間いるのは無理で、その後は再びあてのない旅に出るしかなかったとの事。


「なんだか話だけ聞くと、小人族って奴らは随分と薄情だな」

 故郷を追い出されたドナンさんだけど、行く当てのない彼を小人族たちは集落に迎え入れてわけではなかった。

 そんな話に、ミカちゃんが憮然とした表情になる。


 というか、さっきはドナンさんの話を聞く気がないって言ってたのに、ちゃんと話を聞いていた。

 ミカちゃんの尻尾がフリフリ動いてるから、本当はドナンさんの話に興味津々のようだ。

 それに僕たち、この世界では未だにゴブリンや土狼なんかのモンスターの相手をしたことはあっても、こうして話の通じる種族に出会ったのはこれが初めてだ。

 この世界について、僕たちよりも遥かに知っているドナンさんの話は、凄く興味深くて面白い。


 もっとも、ドナンさんは既に幽霊になっていて、話が通じるのは僕だけなのだけど。



 それはともかく、ドナンさんの話は続く。

 小人族の集落を後にした後は、平原を駆け抜けるケンタウロスの一族にも会ったことがあるとの事。

 ケンタウロスは上半身が人間、下半身が馬の生き物。


「ちなみに女性の胸はいかほどに?もちろん、両手で収まりきらない、とってもスンバラシイお胸もございましてよね?」

「ミカちゃん、いきなり気持ち悪い女言葉使わないで……」

「いいから、さっさと通訳しやがれ!」

「イダダダッ!」


 ドナンさんは僕たちは言葉を理解できるようだけど、反対にドナンさんのしゃべる言葉は僕にしか聞こえてなかった。

 僕が通訳しないと、ミカちゃんたちはドナンさんが何を言ってるのかわからなかった。


 僕はミカちゃんに逆らえないので、胸についてまで通訳しなければならなかった。

 ……異世界で初めて話の通じる相手に出会えたのに、どうして胸の話ばかり通訳しないといけないの。理不尽すぎる。


 もっともミカちゃんの存在自体が理不尽だから、今更かもしれない。

 僕は諦めのため息をついてから、ドナンさんの言葉を翻訳していく。


『ケンタウロスの男たちはかなり体を鍛えていて、実に素晴らしいですな。女の方もまあまあですが、しかしドワーフの別嬪(ベッピン)さんと比べれば、話にならないほど鍛えられていない。

 胸ですと?

 確かに中には巨大なものもありましたが、あれはただタプタプと揺れる脂肪。やはりドワーフ女の様に、筋肉がなければ美しくありませんな!』

「馬鹿野郎!筋肉より、脂肪の方がいいに決まってるだろ!」


 僕、2人の話を聞いていて分かったけれど、ドナンさん、もしくはドワーフの美的感覚は、どうやら筋肉質な胸にあるようだ。

 対してミカちゃんは、胸は大きいのがいいの一言に尽きる。


 ちなみに「筋肉で鍛えられた胸は、胸であって胸ではない!」なんて、ミカちゃんが豪語していた。

 僕には高度な話過ぎて、全く理解できない。理解したいとも思わないけど。



『グヌヌヌッ、筋肉こそが至上であるのに!』

「馬鹿野郎、このフレイアたんの乳を見てみろ。この巨大さを」

「ああんっ、ミカちゃんいきなりスリスリしないでくださいな」

 もう何がなんだか。

 ミカちゃんはフレイアの胸に、いきなり頭を押し付けてスリスリし始め、それでフレイアの顔が赤くなって……興奮している。


「ミカちゃん、兄さんに見つかると、また頭をガッてされますよ」

「うるせー、レギュレギュなんか怖くねぇ。俺はモニュモニュオッパイの方が怖いぜー。フウウーッ」

「ハ、ハフー」

 その後もミカちゃんは、妹のフレイア相手にセクハラを働き続けた。


 今世でのミカちゃんは、見た目は小さな女の子なんだけど、中身は前世の男のまま。

 いくら姉妹とはいえ、これは完全に犯罪だ。


「ミカちゃん、こうしてたら、もっと大きくなるんですわね」

「ウヘヘーッ、そうだよフレイアたーん」



 僕はこの光景から、目を逸らした。


『う、羨ましくなんてないからなー』

 あとドナンさんが、ミカちゃんに対して怒鳴っていたけれど、3人とも好きにしてください。

 僕は知りませんから。


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