143 ミカちゃんチーム、ゴブリン洞窟制圧へ向かう その2 (ユウ視点)
「メシじゃメシー、ヒャッハー」
前回に続いてユウです。
ゴブリン洞窟にたどり着いた僕たち。
洞窟の入り口に現れたゴブリンたちは、またしてもフレイアの魔法によってあっさり壊滅させられ、中に入ってからはミカちゃんが1人で無双していた。
見た目は小さな女の子だけど、本当に強い。
僕に剣を教えてくれるし、リズの訓練もしてくれる。
前世で警備会社に勤務していたっていうから、やっぱりそれで強いんだと思う。
本人は会社では事務職だったと言ってるけど、絶対に嘘だろう。
……だってこの洞窟に入ってから、もう50体以上のゴブリンを、ミカちゃん1人で倒してるから。
これで前世は、「仕事以外ではただのゲーマーでした」なんてことがあるはずない。
(いやいや、あれはゲーマー&変態成分だけで生きてる男だろう。さすがに家の外では擬態してないと警察いき確実だけど)
僕の脳内で、なぜか兄さんの声が聞こえたけれど、ただの幻聴だろう。
気のせいだ。
それはともかく、前方はミカちゃんが1人で相手をしている。
中衛としてレオンがいて、その後ろにフレイア。
レオンはたまに洞窟の横から出てくるゴブリンを、氷魔法を使って倒している。
洞窟内では、水魔法の使用は禁止。
過去に洞窟一つ壊滅させたトンデモ事件のせいで、氷魔法しか使ってないけど、それだけでゴブリンたちを倒していってる。
そのレオンの後ろを行くのはフレイア。
「ああっ、ジメジメして鬱陶しいですわ」
頭上からポタポタと水滴が垂れてきて、おまけに空気もジトッとしている。
洞窟内で炎を使うと酸欠になってしまうため、外と違って洞窟内ではフレイアは戦力外になっていた。
炎魔法も、ファイア・ブレスも、どっちも酸素を消費してしまう。閉鎖された空間で使えば、酸欠で敵どころか自分たちまで自滅してしまう。
「ギャー」
「フレイア、危ない!」
なんて思っていたら、洞窟の物陰からゴブリンの1体がフレイアに襲い掛かってきた。
最後尾にいる僕が、咄嗟にフレイアを庇おうと動くけど、とても間に合いそうにない。
――バシャッ
「食料の分際でキーキー煩いですわ」
しかし僕が庇うより早く、フレイアが襲い掛かってきたゴブリンの頭を鷲掴みに……いや、掴むを通り越して強力なドラゴニュートの腕力で、ゴブリンの頭を木っ端みじんに粉砕していた。
フレイアの手からポタポタと、ゴブリンの血が垂れている。そして辺り一帯に、ゴブリンの頭だったものが飛び散っていた。
洞窟内はミカちゃんの光球の光で照らされているけど、洞窟内全てを明るくできるほどの強さはないので、周囲に陰影を作り出し、それがフレイアの顔を不気味に見せていた。
しかもフレイアは、口の周りについたゴブリンの残骸をペロリと舌で舐めて、
「生は美味しくないですわ」
と言って、不機嫌そうに口を曲げた。
う、うわああああっ!
お化けでもここまではしない。
元が美人な分、フレイアの怖さが物凄く引き立っていて、僕は背筋に冷たい恐怖を感じてしまった。
この世界での妹を前に、あわや悲鳴を上げそうになったけど、なんとかそれは我慢。
「……フレイア、大丈夫だったかい?」
僕は背筋に感じる悪寒を堪えつつ、何とかフレイアに安否を尋ねる。
「ええ、ご安心くださいユウお兄様。レギュラスお兄様がミカちゃんの頭を掴むのを真似をしてみましたが、慣れないことをするものじゃありませんわね」
いや、慣れないがどうとかじゃなくて、襲ってきたゴブリンを返り討ちにするどころか、頭を粉砕してるんだけど……。
それに兄さんの真似って……。
兄さんの真似ちゃいけない部分は、真似しちゃダメだって。
「レオン、服が汚れたので、水で洗って下さいな」
「はーい」
そんな僕の思いも知らず、フレイアはレオンに出してもらった水で、汚れた服を洗っていた。
ここは敵が大量にいる洞窟なのに、フレイアもレオンも、そんなことを全然気にしていないようだ。
「服が水で透け、そこから見えるオッパイパイ。ヌフフフッ」
それどころか前方ではミカちゃんが、ゴブリンの首を回転斬りで斬り飛ばしながら、振り向きざまにフレイアの方を見ていた。
あ、うん。
ミカちゃんが強いのは知っているけど、余裕こきすぎじゃない?
油断したら、危ないし……
というか僕たちって、実は油断しててもゴブリンの洞窟を制圧できるぐらい強い……
そこまで考えて、僕は油断しないようにと慌てて首を振った。
ここは日本じゃない。異世界なんだ。
それも小説でよくある中世ですらなく、大自然の中。
油断は命取りになる。
「ユウ、後ろの警戒はちゃんとやれよー!」
なんて考えてたら、前方を行くミカちゃんに注意されてしまった。
今回、僕は兄弟たちの最後衛。
一番後ろで、背後からの敵襲を警戒する位置にいる。
ミカちゃんの言うに、考えてばかりで警戒を怠るわけにはいかなかった。
ここは敵地で、入り組んでる洞窟だ。
地の利はゴブリンにあるから、背後からの襲撃に注意する必要があった。
そしてミカちゃんが言った直後に、後ろからゴブリンが3体ほど向かってきていた。
僕たちの周囲は、ライトの魔法で照らされているけれど、僕の場合は暗闇でも昼間の様に周囲を見通すことができる暗視スキルがある。
ライトの照らす影を突いて、闇の中から奇襲しようとしているゴブリンたちだけど、その姿は僕の目にはっきりと見えていた。
――タッ
地面を大きく蹴って、後方にいたゴブリンたちの所へ一歩で詰める。
前世の人間だった頃では信じられないことだけど、5、6メートルの距離を詰めるなら、今の僕の身体能力なら、加速なしで、たった1歩強く踏み出すだけでできてしまう。
僕という敵が目の前に現れたことで、ゴブリンたちが驚きの表情を浮かべていた。
僕はその反応を見ながらも、ミカちゃんとの訓練で仕込まれたからだが勝手に動き、ゴブリンたちが声を上げる間を与えず、頭と胴体の間を鈍器剣で切り落とした。
ゴブリンたちの首を剣が抵抗なく通過し、それに遅れて風の切る音がする。
ゴブリンの首が空中へと舞い上がり、弧を描きながら地面にゴロゴロと転がり落ちた。
……。
勝ったとも、ゴメンとも言えなかった。
手に奇妙な感触が残るのが嫌だ。
でも、これは僕たちが生きていくためには仕方のない事。
弱いモンスターを狩って、それを食べていく事でしか、僕たちは生きていくことができない。
ゴブリンを瞬殺できても、僕の心は少し複雑だった。
「モガモガッ、だいぶゴブリンを倒したから、もう出て来なくなっちまったか?」
そんな僕とは対照的に、最前列を行ってるミカちゃんは、倒したゴブリンの片腕を口の中に入れながら、周囲を見回していた。
既に前方から襲い掛かってくるゴブリンは、ミカちゃんが全て倒してしまったようだ。
でも戦いの最中に、ゴブリンをおやつ感覚で食べいていいのだろうか?
だけど、この洞窟内のゴブリンは僕たちがほとんど倒したようだった。
倒した数は、全部で100を超えている。
あとで連れてきたスケルトンたちに命令して、兄さんたちの所へゴブリンの死体を運ばせよう。
倒したゴブリンは、僕たちのご飯になるから。




