136 いつも通りの狩り
僕の前世、つまり魔王をしていた世界では、竜車と呼ばれる乗り物が存在した。
それは馬の代わりに、下位竜である土竜に馬車を引かせたもの。
漢字で書けば、馬が引っ張る"馬車"ではなく、竜が引っ張る車だから"竜車"と呼んだだけに過ぎない。
ただし馬と違って、車を引っ張るのは竜だ。
馬力も持久力も馬とは比べ物にならないほど強く、悪路や斜面が急な山岳地帯では、竜車の需要は馬車よりも遥かに高かった。
なぜ僕がこのようなことを思い出しているかだけど、現在浮遊荷車を引いている僕の兄弟たちは、なぜかリアカーを引っ張ると尻尾をフリフリと動かして、嬉しそうにしているからだ。
例外としてリズの場合は、なぜか尻尾がピンと上を向いて、誇らしげな顔をしてリアカーを引いている。
何かプライドがあるみたいだけど、どっちにしろリアカーを引けることが嬉しいみたいだ。
ちなみにミカちゃんの場合は、なぜかリアカーの取っ手を掴んだ瞬間に走り始める。
「モンスターがいるんだから、走らないように」
僕が注意しても、それでもウズウズと我慢しているようで、知らないうちに小走りで走り始める始末だ。
レオンは喜んで尻尾フリフリだし、ユウにしても尻尾が微かに揺れ動いていて、内心の嬉しさを必死に隠しているかのような様子だ。
なお他の兄弟たちが喜んでリアカーを引っ張りたがるので、僕は未だにリアカーを引いていない。
兄弟たちがやりたがっているから、僕までその中に入る必要はないよね。
あと兄弟たちの中では唯一フレイアが、リアカーを引きたがらないでいた。
「そういうのは下々のする仕事ですわ」
……フレイア、お前どこでそんな台詞を覚えたんだ。まるで貴族の令嬢みたいなセリフだぞ。
それも長い髪を手で払いながらで、物凄く嫌味が効いている。
当人が美人なので、余計に絵になっているけど、悪訳令嬢っぽい仕草だった。
「ミカちゃーん、ちょっと尋ねたいことがあるんだけれど」
「俺は悪くねー」
絶対にフレイアのあれは、ミカちゃんの趣味が入ってる。
お前はフレイアに鞭打たれながら、リアカーを引っ張りたいなんて趣味を持ってるんじゃないだろうね?
……ミカちゃんなら、割と冗談抜きでそういう趣味を持ってても不思議じゃない。
「ヒギャー!」
とりあえずミカちゃんの頭を、ガシッと掴んでおいてあげた。
ところでリアカーにはしゃいでいる兄弟たちだけど、しっかり狩りもしている。
「グルルルッ」
僕たちの狩りでは定番の一つ、土狼の群が登場。
「水の呪縛!」
「ゴボボボボボッ」
さっそくレオンが魔法を使う。
今回レオンが使った魔法水の呪縛は、水の塊で敵の体を包み込み、相手を身動きできないようにして、拘束する魔法だ。
と言っても、これと同じことを既に水球でもしていた。
やっていることは同じだけど、拘束に主眼を置いている分だけ、アクア・バインドの方が拘束力が強い。
そして当然のことだが、水の塊が顔面部分まで覆っている場合、水生生物でなければ確実に溺死へと至ってしまう。
水に拘束された土狼は拘束から逃れようと暴れても、強力な水の力によって身動きもろくにとることができない。そのまま絶望の表情を浮かべ、ゴボゴボと口から空気を出し始める。
ほどなくして、土狼の溺死体が出来上がった。
「"狩ったー"」
土狼を仕留めて、暢気にシップを振るレオン。
もっともその周囲では、
「ファイア・バレット……あらっ、威力の調整が……」
――ゴバンッ
なんか変な音がして、フレイアの放ったファイア・バレットの1発が、地面の一部を融解させ、赤々と輝くマグマに変えていた。
これでは"狩ったー"ではなく、何も残らない。
土狼の体は蒸発してしまい、焦げた死体すら残っていない。
「フレイア、狩りでファイア・バレットを使うのは禁止な」
「……そ、そうですわね、レギュラスお兄様」
フレイアも自分の失敗を理解しているのだろう。尻尾をシュンと地面に落として、意気消沈していた。
「メシー!」
一方ミカちゃんは土狼を発見次第、曳いていたリアカーを放り出して、戦闘に入っていた。
愛用の鈍器剣を右手に握り、
「生肉、食欲、焼肉……あー、醤油ないかー。照り焼きも食いてー」
なんて言いながら、次々に土狼を惨殺していった。
なお鈍器剣なのに、相変わらず土狼の頭と胴体が綺麗に切断されている。剣の腕がおかしなレベルにあるのか、それともドラゴニュートパワーを使った速度ゆえに、このようなことが起きるのか。
あるいはあらゆる意味で常識はずれなミカちゃんだから、こうなってしまうのだろうか?
「フッ」
あと、今までは散々ヘタレだったユウも、ミカちゃん直伝の剣術を発揮していた。
模擬戦闘では、ミカちゃん相手に手も足も出ずいいようにされているだけだったけど、土狼相手には無双していた。
なんだかミカちゃんと同じで、土狼の頭と胴体が綺麗に切断されているんだけど。
あと目玉を突いて、そのまま脳に達する突きを打ち込んでいたり。
てかドラゴニュートの力がありすぎるせいで、そのまま脳を貫き、頭蓋骨まで貫いて、頭を貫通させていた。
いやー、ドラゴニュートの戦い方ってのは、相変わらずグロイなー。
グロついでで言えば、武器が槍からハルバートに変わったリズも相当なものだ。
以前は槍で薙いでも大した攻撃力がなかったが、今回からハルバートの斧刃が加わったことで、薙ぎの攻撃力が非常に増している。
「フッ」
ユウと同じように息を吐きながらハルバートを振るえば、その一撃で土狼がまとめて3体ほど斧刃にからめとられて、体を切断されていた。
以前の槍なら吹き飛ばされるだけで済んだのに、今回は完全に切断だ。
腹の中身が、ダバダバと出てくる。
血液に、体の中の臓物など……
本当、ドラゴニュートの戦い方ってのはグロイなー。
もっとも一番グロイという点では、ドラドかもしれない。
『フンッ』
前足を上げて、そして振り下ろす。
――ベシャッ
という音がして、土狼がただのペースト肉へと生まれ変わった。
ドラゴンドラドの無双ぶりは半端ない。
マザーが変なもの扱いしてスケルトンどもを踏み潰すみたいに、ドラドも土狼を踏み潰していた。
やっぱり親子だね。
やることがそっくりだ。
とはいえこんな感じで兄弟たちがいつものように戦って、本日の狩りは大量の土狼をゲットした。
さすがにフロートリアカーでは運びきれない量なので、今日はここで野営しながら食事をとることにしよう。
そして食べ終わった後は、恒例のスケルトン軍団の作成だ。
フフフッ、労働力労働力。
休む必要も、飲み食いする必要もない、素晴らしい労働力。




