134 浮遊荷車(フロートリアカー)
やってまいりました、第3回狩りの旅。
今回の狩りの旅の為に用意した品物はこちらになります。
というわけで、僕は旅に出発する前に、兄弟たちを研究部屋に集合させた。
「なにこれ?」
「タイヤのついてない荷車?」
研究部屋の中はデネブが散らかしていて汚いけど、それはともかくとして、部屋の中にでかでかと置かれている物を見て、ミカちゃんとユウがまず興味を示した。
「あらっ、この石はとてもきれいですね……」
「ピカピカ輝いています」
それとは別に、デネブ作の怪しげな輝きを持つ魔道具を、フレイアとリズが興味津々に見ている。
「コホン、フレイア、リズ。そっちはいいから、今回は旅の為にこれを用意したんだ」
話が脱線しないよう、僕は兄弟たちに改めてタイヤのついてない荷車を見せた。
「……なあ、レギュレギュ。見た目は荷車ぽいけどさ、タイヤがついてないんじゃ意味がないぜ」
「フフフ、そう思うのは早計。ミカちゃん、その取っ手部分を握ってみるといいよ」
「?」
僕の言葉に首を傾げつつ、とりあえず言われた通りリアカーの取っ手を握ってみるミカちゃん。
すると握った部分についている丸い飾りが赤から黄色、水色、青へと変わっていく。
「何これ?」
「色が変わって思いろしねー」
手元に着いた飾りに興味が行く、ミカちゃんとレオン。
だけどそんなことを話している間に、リアカーの本体がふわりと音もなく空中へ浮かび上がっていた。
「ふぁっ!?」
「浮かんだ?」
驚くミカちゃんとユウ。
「まあ、不思議ですね」
「わー、凄い」
とは、フレイアとレオン。
「私の重力魔法にそっくりです」
『本当だね』
リアカーが宙に浮かぶ姿はリズが指摘した通り、重力魔法で物を浮かばせたのとそっくりな光景だった。
「そうだよ。このリアカーだけど、今までに見つけたグラビ鉱石を使って作ったんだ。魔力を一定量ため込むと、握り手にある飾りが青くなって、それで浮かようになってるんだ」
どうだ凄いだろう。
と、僕の頭の中でデネブが自慢している気がする。
この宙に浮かぶリアカーを作ったのは、僕ではなくデネブだからね。
もっともあの超引っ込み性格のデネブなので、当然兄弟たちがいる前では自分の存在を完全遮断している。
同一存在である僕ですら、デネブの気配を察知できないほどだから、恐ろしい奴だ。
「レギュラス兄上は、凄い発明をされるのですね」
「お兄様がここ数日研究部屋に籠っていたのは、これを作られていたからなのですね」
リズとフレイアの2人は感心している。
「ファアアアッ、リアカーがタイヤなしで浮かぶなんて、そんな非常識なことがあり得るかー!」
「でもミカちゃん、この世界って魔法が使えるから、今更これぐらいで驚かなくていいじゃないですか」
「あっ、それもそうかー」
一方でミカちゃんがオーバーリアクションで驚いていたけど、ユウに言われてすぐに冷静になっていた。
「今更レギュレギュのすることに驚いても仕方ないよな。だって常識が通じない奴だから」
「……ミカちゃんにだけは、常識について語られたくないんだけど」
なんだか最近ミカちゃんが、やけに常識人ぶってる。
失礼な奴だ。少なくとも僕の方がミカちゃんより遥かに常識を持っているぞ。
野生児でエロ親父のくせしやがって。
しかしまあ、こんな感じでデネブの作ったリアカーに兄弟たちがワイワイと声を上げて、感心したり感嘆したりしていた。
なおこのリアカーだけど、グラビ鉱石が魔力を保存できる特性を生かして、一度魔力を供給すると、しばらくは魔力を供給しなくても浮かんだままの状態にできる。
車のバッテリーみたいに、魔力を溜めておけるわけだ。
「タイヤがないのは違和感が半端ないけど、これがあれば狩りで獲物を運んだり、珍しい物を拾い集めるのもかなり楽になるな」
とは、ミカちゃん。
「そうだよ。この"浮遊荷車"を使えば、今までより大量の物を運べるようになるから便利でしょう。
それに浮かんでいるから、道が凸凹でも関係なく進めるし」
「なんだか地球にあるリアカーより、凄い物ができてますね」
僕の説明に、ユウは感心と呆れが半分ずつ混じった声をしていた。
フフフッ、これでようやく僕たちは石器時代を超えて、一気に地球の技術水準すら抜いた文明の利器を手に入れた。
もっとも浮かんでいるだけだから、見た目だけで言えばリニアレールの親戚みたいなところかな?
ただリニアが超電導で浮かんでいるのに対して、こちらは重力制御という、技術面だけ見ればリニアよりさらに未来の技術が用いられているけれど。
なお新しい道具というのは、どこの家庭でも人が集まってきて、真っ先に試したがるのが常。
そんなわけで、
「まずは俺様が引っ張るぞー」
と言って、我が家の横暴キングミカちゃんが、真っ先に浮遊荷車を引っ張り始めた。
「いいなー、ミカちゃん」
うらやましそうにするレオン。
「私は引くのより、乗る方がいいですわ」
「ヌフフッ、フレイアちゃん。おじちゃんの車に乗せてあげよう。さあ乗りなさい、ぜひ乗りなさい。ドライブに連れて行ってあげるよー」
ミカちゃん……いや、その中身のおっさんである鈴木次郎氏が、まるでうら若い巨乳美女を、自分の自動車に乗せるかのような口説き方を始めていた。
「……浮遊荷車は3台あるから、あと2人ほど荷車を引っ張ってね」
ミカちゃんとフレイアの事は無視することに決め、僕は残った2台のリアカーを、他の兄弟たちにも引っ張る様に指示しておいた。
なお浮遊荷車だと名前がダサすぎるので、このリアカーの名前は、重力魔法の一つ"重力浮遊"と名前を突き合わせて、"フロートリアカー"と名付けられた。。




