133 いつも通りな御飯風景
「フハッ、クハハハハッ、遂に遂に完成したぞ!」
ただいま僕の体が大絶賛喜び中。
というかその笑い方やめろ、頭のおかしい人みたいな笑い方だぞ。
なお笑っているのは僕の体だけど、現在それを動かしているのは僕のサブ人格のデネブだ。
「レギュラス様、やりましたよー」
当人は嬉しそうにしているけど、こいつの声が母屋にいる兄弟たちの所に聞こえないか心配だ。
こいつが原因で、僕の人格が兄弟たちに疑われるようなことがあっては大変なので、この前研究部屋に、"遮音結界"の魔方陣を追加で施しておいた。
空気の分厚い層を作ることで、内外の音を遮断する結界だ。
本来は他人に聞かれては不味い相談事をする際に用いる魔方陣だけど、デネブの頭の悪い奇声を外に出さないために今回は利用した。
これで直接部屋に踏み込まれない限り、デネブの醜態が外部に漏れだすことはないだろう。
ただ内部だけでなく、外部からの音も遮断してしまう欠点があるけれど、
――GULULULULULULULU
『みんなー、御飯よー』
マザーの上げる超大音量の声は、普通に遮音結界を突き破って中にまで聞こえてくる。
「ひぃぃぃいいい。嫌だ、他人怖い、人は嫌だ!」
(いや、マザーは人間でなくドラゴンだぞ)
「ダ、ダメッ、知的生命体はダメ!」
かなり重症な引きこもりがデネブだ。
そのまま僕の体の操作権を明け渡し、隠密ぶりを発揮して僕の脳内のかなり奥深い場所に引きこもって、気配を完全に消し去ってしまった。
ダメだ、こいつはポンコツすぎる。
とはいえデネブが引っ込んだので、僕は研究室にいる間使っていた変身魔王の人差し指を解除して、研究室を後にする。
マザーにこの指が見つかると面倒だからだ。
それと食事時に出てこないとマザーは大声で吠えて、子煩悩な一面を見せて、心配し始める。
地球でもモンスターペアレンツなんてのがいるけれど、今世の僕のマザーはマジ物の超巨大ドラゴン。モンスターの中でもひときわ強力な存在なので、マザーが心配してオロオロし始めると、いろいろな危険があった。
何しろマザーが吠えただけで、数キロ先まで声が届く大音声だ。下手すると10キロ以上彼方にまで届く。
僕はパタパタと翼を使い、母屋へと戻った。
『さあ、子供たち御飯よ』
そしていつものように兄弟が集まって食事だ。
「いただきます」
目を閉じ、両手を合わせて祈る様な仕草をしてから、食事を始めるリズ。
相変わらず礼儀正しいというか、修行僧みたいな厳かさえある。
ただのいただきますの挨拶なのに。
――ゴオオォォォッ
そしてフレイアは、豪快にファイア・ブレスで肉を焼く。
「やっぱり肉は焼いて食べるのが一番ですわ」
炎の属性竜の性質を持っているフレイアらしく、焼いた肉が一番好きなようだ。
「メシー、モグモグモグ、モガモガモガガガ」
ミカちゃんは相変わら野生児ぶりを全開。
口の中に肉を次から次へ放り込んでいって、隙あらば他の兄弟たちの分まで横取りしていく。
「ああっ、それは僕のお肉なのにー」
「モガガー、フンガー、フガブカー(うるせー、トロトロ食べてるお前が悪い!)」
横取りされたレオンが涙目だけど、相手はミカちゃんなので抗議した程度では意味がない。
レオン、お前は相変わらずミカちゃんにいいように扱われてるな。
この調子だと、レオンは永遠にミカちゃんに勝てないな。
「フガガー(もらいー)」
――ヒョイッ
ついでにミカちゃんの魔の手は、ユウにも及ぶ。
だけどユウは反応が早く、ミカちゃんに奪われる前に、肉を持ち上げて魔の手を回避した。
「貴様、どうして俺の肉を奪う!」
「いやいや、これは僕の分ですからね。ミカちゃん意地汚すぎますよ」
「ウルヘー、寄越しやがれ!」
「グヘッ」
ミカちゃんはユウの腹に盛大な体当たりをかまして、撃沈させた。
本当に意地汚いミカちゃんだけど、食べ物の為にやたらと攻撃的になるのは勘弁してほしいね。
「モガガー」
ユウが腹を抑えて蹲っているけれど、そんなことは我関せず。ミカちゃんはユウが取り落とした肉を、口の中に突っ込んで食べていた。
――モグモグモグ、ハグハグハグ、ゴクン、ゴックン
一方ドラドは、ドラゴニュート形態でただひたすら肉を口の中へ放り込み続けていく。
食べている間は無言で、あまり咀嚼しないで肉を飲み下していく。
元がドラゴン体型なので、僕たち兄弟の中で一番の大食いがドラドだ。
体がでかい分、食べる量も段違いに多かった。
でも早く食べていかないと、ミカちゃんに横取りされる危険があるからか、ドラドが肉を食べる速度はやけに早かった。
なお、食欲魔人のミカちゃんだけど、フレイアと僕からは取らないようにしている。
僕の場合はそもそも腕力で勝ち目がないから。日々の肉体言語による教育が行き届いているおかげだね。
そしてフレイアに対しては、
「さあ、一杯お肉を食べなさい。お胸にたくさん蓄えるんだよ。ヌフフフフッ」
童話のヘンゼルとグレーテルでは、魔女が子供にお菓子を与えて丸々と太らせて食べようとした。
ミカちゃんの場合は、フレイアのさらなる乳の成長を期待しているようだった。
次に脱皮したとき、ミカちゃんの企みが現実になりそうな気がしないでもない。
『……レギュちゃん』
ところで食事中、マザーが僕の方をジッと見ていた。
何か言いたげな声をしているのだけれど、
「僕、何も悪いことしてないよ」
僕はニコッと笑っておいた。
『あんまり、あれは使っちゃダメよ』
「はーい、マザー」
魔王の人差し指を今も使っているのがバレてら。
だけど、"見た目は子供中身は超老人"の僕は、あざとい笑顔を浮かべて誤魔化しておいた。
まあ、誤魔化せきれてないけど、可愛いは正義だ。
我が子のあざとらしい可愛さを目にすれば、マザーもそれ以上何も言うまい。
「うへーっ、レギュレギュが子供ぶってて気持ちワリー……ゲフンッ」
「ミカちゃん、心の中で思っても、正直に口にするからいけない……グハッ」
ミカちゃんが何か言ってたので、ご飯についていた骨を投擲して黙らせる。
その後ユウがさらに失礼なことを言いやがったので、こっちも骨を投げて黙らせておいた。
「お前ら、一言も二言も余計なことを言うんじゃねえ!」
僕は2人に軽く恫喝しておいた。
もちろん、マザーに向かってはこんな態度は取らない。
マザーとガチで喧嘩になったら、今の僕だと勝ち目ないと思う。
それにマザーに御飯抜きとかされたら、大変だ。
どんな社会でも、ご飯を作ってくれる人は偉いのだ。
まあマザーの場合、作るというより狩ってくるのだけど。




