130 グラビ鉱石と図書館
我がサブ人格デネブは超引きこもり体質で、基本的に人間関係を全く受け付けないダメ人格だ。
その証拠に、今日も1人で研究部屋でグラビ鉱石をいじりながら、ルンルン気分で尻尾をフリフリしているのだけれど。
――GYAAAAAOOOOOO
「あ、いえっ、ひぃえええええーーーっ」
マザーが「子供たち御飯よー」と、部屋の外から叫んだだけなのに、その声を聴いた瞬間に尻尾をビクリとさせ、体を強張らせて悲鳴を上げた。
そして地面の上に四つん這いになって転がり落ちて、バタバタと慌て始める。
「はいえっ、ひぃええっ……」
なんて言いながら、涙目にまでなってる。
パニックになりすぎて、もはや意味をなしてない言葉しか話せてない。
こいつは閉鎖された空間で自分以外の声(マザーも含む)が聞こえた瞬間、とんでもない体たらくぶりを発揮するのだ。
てかさ、頼むから僕の体でそんな情けない格好するなよ。
「はあっ、デネブの対人恐怖症がひどすぎて頭痛がする」
マザーの声に完全にビビったデネブは、僕の体の操作権をあっさりと明け渡してしまい、頭の奥へと引っ込んでしまった。
「おい、デネブ?」
(……)
「おーい、返事ぐらいしろよ」
(ダ、ダメッ。今はレギュラス様でも、話しかけないで……)
僕とデネブは、主人格と副人格の関係にあり、同じ体に宿っているため、同一存在と言ってもいい。
だけど、こいつは下手すると僕の声にすらビビってしまう、筋金入りのヒッキーだった。
『レギュちゃーん、どこに行ったの。御飯よ、レギュちゃーん』
研究部屋の外からするマザーの鳴き声が、さっきよりさらに大きくなっていた。
僕が出ていかないと、その内心配症のマザーが狂乱して、暴れ出したら大変だ。
僕は研究部屋の出入り口の扉を開けて、翼を使って母屋の方へ飛んで行った。
「マザー、僕はここにいるよ」
『まあレギュちゃん。飛べるようになったからって、お家からあんまり遠くに行っちゃダメよ』
僕はこれでも元魔王とか、元日本人なのだけど、マザーからはあくまでも年端のいかない子供扱いだ。
ところでデネブのポンコツぶりがひどいが、これでも一応優秀なところはある。
マザーの運んできた獲物を食べた後、再び研究部屋に籠り、デネブがグラビ鉱石の研究を続けた結果、
「これって間違いなく人工の鉱石ですよ」
(やっぱりそうか)
デネブが体の操作権を再度持ったので、僕は頭の中で答える。
「やっぱりって、レギュラス様も気づいてたんですか?」
(あくまでも可能性としてだけどね)
「ムムッ」
僕がうすうすグラビ鉱石の正体に気付いていたことに、デネブは不満な様子。
「実はこのグラビ鉱石は、○○だったんですよ!」
なんて感じで、僕に威張って報告したかったのだろう。
(で、この鉱石だけど、これって師匠の図書館を浮かばせていた鉱石だよね)
「……はい、そうです」
ちょっとションボリとした態度で答えるデネブ。
尻尾が垂れてしまっていて、しょげてる。
まあ、デネブの事は別に構わない。
「ちょっ、構わないって。その扱いは酷くないですか!」
……僕とデネブは一心同体。
僕の考えていることはデネブに筒抜けであると同時に、僕にもデネブの考えていることが筒抜けになっている。
そのせいで、突っ込まれてしまった。
(いちいち、人の考えてることに突っ込むなよ)
「ブーブー、私の扱いがひどい。私、女の子なんですよ」
(そうだね、実年齢数万歳の女だね)
「ちょっ、地味に"子"の部分を消さないでくださいよ!」
鬱陶しい女だね。
ま、これ以上こいつと漫才しててもしょうがないので、放置だ。
「ガーン」
尻尾をピンと上に立てて、ショックを受けるデネブ。
だが、もう貴様には突っ込まんぞ。
さて、僕の師匠シリウス・アークトゥルスは、通称図書館と呼ばれる施設を中心に活動している人なのだが、あの人の図書館は空に浮かんでいる。
……どこかの天空の城と同じだ。
ついでに図書館とはあくまでも師匠のつけた名前で、あの人がつける名前は大体物事の本質を表していない。
師匠の言う図書館とは、実際には空飛ぶ小島で、それこそ本当に○ピュタのような構造をしている。
内部には冗談で名付けた"飛行石"と呼ばれる、青い色をした導力コアまであるほど。
この導力コアによって、図書館の全てのエネルギー源が賄われていた。
「見たまえ、この巨大な飛行石を。これこそ"ピュタ"の力の根源なのだ」
初めて図書館の導力コアを見せられた時、師匠は僕の前でそう言っていた。
あの時の僕は転生をする前だったので、まさかあのセリフがネタだとは思わなかったけど、日本に一度転生した今では、あの時の師匠のセリフが、ただのネタだったのが分かる。
なお、図書館には導力コア以外では、師匠の膨大な知識をボケ防止のために本に記す執筆部屋があれば、一方では生物実験を行っているマッドな部屋もあった。
あと図書館の周囲は魔王クラスの実力を持つドラゴンが複数で警備していたり、ロボット兵がいたり、おまけに高位の次元結界によって通常の次元からは隔離された空間に存在していたり……。
正直、あれは図書館でなく、超科学と超魔術が合わさった、軍事要塞レベルの施設だった。
間違っても、図書館などと名付けていい施設ではない。
ただ執筆部屋に収められている本の知識を考えれば、あれくらいの軍事施設で防衛しても全く問題ないレベルだろうけど……。
まあ、話がそれてるので図書館についてはここまでにしよう。
あの図書館を空に浮かばせているのは、図書館の基底部に使われている、人工鉱石によって発生する浮力によるものだった。
その鉱石と、今デネブが研究しているグラビ鉱石は、全く同じものだった。
(ああっ、師匠ってば、この世界で本当に何やらかしたんだ。
というかグラビ鉱石が地面に普通にバラバラ落ちてるって……もしかして昔この世界で図書館と同じ施設でも墜落させたのか?)
「ウフフ、シリウス様なら、やってても全く不思議が全くないですね」
僕の不吉な予想に、デネブは笑いながら同意してくれた。




