129 レギュラスの天敵
「イヤッハー、素晴らしぃー」
……誰か、助けて。
研究部屋でグラビ鉱石の研究をしている、僕改めデネブのテンションはヤヴァかった。
どうしよう、ミカちゃんとは方向性がずれているけど、かなりいっちゃってる頭をしてる。
これがミカちゃんだったら殴ればいいんだけど、デネブは僕の頭の中にいる存在だ。実体がないので殴れない。
強いてデネブの実体と言えば、僕の体になってしまうけど、自分で自分を殴るなんて何のギャグだ。
研究を一通りした後、満足したデネブが体の奥底に引っ込んで気配を消すと、僕は自分の体の操作権を再び取り戻した。
「あのハイテンションの変な声を兄弟に聞かれてないだろうな……」
ここは兄弟たちのいる母屋から500メートル離れていて、さらに出入り口は安全対策の為に、岩で閉め切っている。
とはいえ酸素穴はあるので、そこからデネブの声が漏れてたら嫌だ。
デネブの声といっても、僕の口を使って叫んでる声だからね。
あと研究の最中デネブは、鉱石に対して様々な魔法を使って実験をしていた。
「私にお任せください。魔導工学は専門ですから」
キラッと歯を輝かせてデネブは言っていたけど、僕の顔でそんな顔をしないでくれ。
鏡がないので僕もどんな顔をしていたのかまでは見えないけど、多分大人になってから見返す中学2年生の時に書いた小説並みに恥ずかしい表情をしていたのは間違いない。
「はあああっ、疲れた……」
主に精神的に疲れた。
あと研究中に魔力をガンガン使われたせいで、魔力欠乏による気だるさも感じる。
研究熱心なのはいいが、もっと僕の心と魔力の事も気にかけてくれ。
尻尾がぺたりと垂れ下がりながらも、僕は研究部屋を出て、翼をパタパタ動かして母屋に帰った。
――スッ
母屋に戻ると、兄弟全員から視線を逸らされた。
それも無言で。
(デネブ、お前だ。お前のせいで俺は、兄弟たちからこんな目で見られてるんだ!)
僕は心の中で悪態をつくけれど、僕のサブ人格でありながら隠密に長けたデネブは、それに対して何も答えない。
野郎、完全にバックレやがった!
「なあ、レギュレギュ。頬がこけてるけど、やっぱりあの指はヤヴァイんじゃないか?」
「えっ、頬がこけてる?」
ミカちゃんに心配されてしまったけれど、試しに自分の頬に触れてみれば、確かにコケている。
「うっ、ううっ」
なんだか無性に泣きたくなってきた僕は、マジで目から涙が出てきた。
「に、兄さん大丈夫ですか!」
「うわああっ、僕のサブ人格がクソすぎるー!」
「はいっ!?」
魔王の人差し指なんてどうでもいい。だいたい、あれは前世での僕の体だから、それが原因で僕の体がおかしくなることはない。
だけどあのサブ人格は、僕の精神を確実に悪い方向へ引っ張っていく。
「もうヤダ。酒でも飲んで全部きれいさっぱり忘れちまいたい」
「うおおっ、なんか知らんが、レギュレギュが今までにないグレ方をしているぞ!」
「兄さん、落ち着いて。とりあえず深呼吸をしましょう」
ミカちゃんとユウに労わられてしまった。
でも、たまには僕も労りが欲しい。
あんなクソ人格の相手をしていたんだから、誰か僕を労わってくれてもいいよね。




