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異世界転生したら七つ子の竜人(ドラゴニュート)兄弟だった  作者: エディ
第3章 第2拠点と不死者(アンデット)
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128 デネブ・アークトゥルス

 今までの狩りの旅で拾い集めてきたグラビ鉱石を、母屋の倉庫兼作業部屋から、兄弟総出で離れの研究部屋にまで運んでいく。

 旅をしながらため込んできた鉱石なので、その量もかなりのものだ。


 鉱石を運び終えた後、兄弟たちは皆母屋の方に戻ったので、早速このグラビ鉱石の研究をしていく事にしよう。

 なーに、魔力遮断結界まで張ってある研究部屋だ。

 この中でなら、魔王の人差し指を使っても、外まで気配が漏れ出すことはないだろう。


 ……多分。



 てなわけで、僕は好奇心と研究欲を刺激されて、魔王の人差し指を使いつつ、グラビ鉱石の研究をしていく事にした。

 尻尾をフリフリしながら、鼻歌を歌う。



(ふふふっ、久しぶりにレギュラス様の体を私が使える。ああ、レギュラス様ー)


 ……なんてやってたら、僕は自分の意識で自分の体を動かせなくなっていた。

 僕の中に僕ではない別の意識があって、それが僕の体を動かし始める。


 まるで別の何者かに、体を乗っ取られてしまったかのような感覚。



 まあ、別の何者かと言っても、実はそれは僕たちドラゴニュート兄弟の隠された8人目の兄弟である、デネブ・アークトゥルスなのだが。




 さて、デネブについて説明しよう。

 デネブ・アークトゥルス。彼女は僕と同じくアークトゥルスの性を持つ女性人格であり、僕の脳内で共存している、サブ人格的存在だ。


 彼女は僕がこの世界に転生する以前、僕が最初の人生でシリウス師匠から不老不死の薬を飲まされた時に生まれた、僕のサブ人格だった。






 なぜ、サブ人格なんかが僕の脳内にいるかだけど、それを説明するには僕が最初の人生で、シリウス師匠と過ごしていた頃の話から始まる。


「不老不死の薬の副作用なんだよね。僕の頭の中にも、サブ人格で幻の妖精さんが住んでいて」

(誰が妖精ですか!)

 師匠と話していた時の事、他には誰もいないはずの場所で、突然僕の頭の中に女性の声がして僕は驚かされた。


「師匠、今の声は一体……」

「ああ、今のが妖精さん」

(ギロリッ)

 妖精さんと言うけれど、何かとてつもない殺気を放ってきたので、僕は思わず体をびくりと震わせてしまった。


 あの頃の僕は、肝っ玉が小さいただのガキだったから仕方がない。


「あー、ゴメンゴメン。スピカっていうんだけど、不老不死の薬を飲むと、副作用でサブ人格ができるんだ」

「サブ人格ですか?」

「そうそう」

 調子のいい感じで言う師匠。


「あの、サブ人格って、危なかったりしませんよね?」

「全然問題ないよ。

 たまに体を乗っ取られて勝手に動かされたりすることがあったり、頭の中で大声でお説教されたりするけど、全然問題ないよ。それ以外だと勝手に魔法を使って、魔力を消費されることもあるけど、全然問題ないよ」

「それ、大問題じゃないですか!」

「へっ、何が?」

「……」

 とてつもないことを暴露している師匠。

 だけど、当人は全く問題ないって顔をしている。


「自分以外の意識が頭の中にできて体を勝手に動かすとか、完全に体を乗っ取られてるじゃないですか。そんな危険な薬を飲んだなんて……」

「あー、大丈夫だよ。僕の場合、サブ人格のスピカは小姑みたいにうるさいけれど、僕とは一心同体で、基本的に僕の不利になることはしないから」

「本当に……?」

 この超越者たる師匠の言葉を、僕は簡単に信じられない。

 だって、魔法一つで魔王を領土ごと滅ぼせる人の言う言葉だ。


 そんな風に疑いながら訪ねている僕に、師匠の頭の中にいるサブ人格のスピカの声がする。

(不利益というか……最初の頃は私がシリウス(マスターの体を乗っ取って動かしていたのですが、私が気を抜いた瞬間にこの人(シリウス)は勝手に体の操作権を奪うんですよ)

「うわああっ、それ大問題じゃ……」

(私は規律正しく品行方正に生きていたのに、あろうことにもこの人が体を動かし始めると、私が作り上げた人物像を崩壊させていくんです。

 砂糖をいきなりバクバク食べだすし、ヘラヘラした顔をしながら、私の清く正しい人間像を破壊していって……うっ、うううっ)

「アハハー、スピカなんで落ち込んでるの?」

あなた(マスター)のせいです!)


 なんて具合で、その時は師匠とサブ人格のスピカが、漫才のようなやり取りを続けていった。





 まあ早い話が、不老不死の薬を飲んだ僕にも、副作用でサブ人格のデネブが存在するようになったわけだ。


 ただこのデネブなんだけど、

(デネブ、いきなり僕の体を動かさないでくれるかな?)

 僕の体をデネブが動かし始めたので、僕は自分の体を動かせなくなってしまった。

 なので、頭の中でデネブに文句を言う。


「あ、あひぃえええーっ。レギュラス様、いきなり話しかけないで。し、心臓がバクバクする!」

(いきなりも何も、君が僕の体を乗っ取るからだろ)

「あ、あいええー。私、人に話しかけられるとダメなのに、それが分かってていきなり話しかけてくるなんて酷い」

 僕の体を乗っ取っているデネブは、地面に両膝を付いて、目の端に涙を浮かべている。


 このデネブだけど、物凄い人見知りというか、超引きこもりの性格をしている。

 僕とは一心同体の存在でありながら、主人格である僕にすら気取られないように、常に頭の中でも存在を消していて、話しかけられないようにしているほどだ。

 超引きこもり、隠密の性格をしていた。


(ふうっ。デネブは僕のサブ人格なのに、主人格に話しかけられただけで怯えるのは、さすがにひどすぎない?)

「うううっ。私、人が嫌なんです。レギュラス様はいいけれど、他の人間なんかに話しかけられたら……」

 そこでブツブツと顔を地面に向けて、1人でしゃべり始めるデネブ。

 頼むから僕の体を乗っ取っている状態で、それをしないでくれ。


 ここに兄弟の誰かが来たら、僕の人格を疑われてしまう。



 なお、1人でブツブツしゃべり終えた後デネブは、僕の体を両手で抱きしめて、

「ああ、それにしても久しぶりのレギュラス様の感触。クンカクンカ、スーハー。

 ああ、やっぱり前世の魔王と違って、人間臭がするこっちの体の方がいいな。ウヘヘヘッ」

 1人で悦に入って笑い出した。


 この子が僕のサブ人格だって、凄く認めたくない。

 ミカちゃんの中身を女版にしたような子だ。


「酷いですよ、レギュラス様。私だって、あの変態エロおっさんほど重症じゃないです!プンプン」


 大変残念なことだけど、僕とは同一の存在であるため、声に出さずに考えていることでも、デネブには筒抜けで聞こえてしまう。

 でも、口に出してプンプンって、自分で言うなよ。



「あっ、それよりもこのグラビ鉱石でしたね。私がちゃんと研究するので、ご安心ください」

 この後右手を額の前に持っていき、軍隊式の敬礼をして、シュビッとポーズをとるデネブ。

 お前は誰に敬礼してるんだ。

 てか、前の行動とのつながりがなさすぎる。


 って、をい!

 お前、"俺"の話を聞いてるか!

 ちょっと、人の話を聞けー!


 デブネのマイペースぶりのせいで、思わず一人称を俺と言ってしまった僕だけど、そんな僕の声を無視して、デネブは魔王の人差し指を使いながら、グラビ鉱石の研究を始めてしまった。


 ……こんなサブ人格だけど、研究者としては優秀だ。

 体の操作権も奪われてしまったことだし、後のことはデネブに全部任せてしまうとしよう。


「はい、お任せください」

 シュビッと、再び敬礼をするデネブ。


 でも、僕の体でそんなポーズをとらないでほしい。



 ……俺のサブ人格がアホすぎて泣きたい。


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