127 続・魔王の人差し指(サタンフィンガー)
カキカキカキ。
前回変身を使って、体の一部を魔王の人差し指にした僕だけど、その指が放つ気配だけで兄弟全員にビビられてしまった。
人差し指だけとはいえ、さすがは魔王の指。
とんでもない恐怖効果だ。
とはいえ、ミカちゃんですらお漏らしした代物なので、兄弟たちが近くにいる時にこの指を使うことはできない。
なので兄弟たちを母屋の方へ帰らせた後、僕は離れの研究部屋に1人残って、地面に魔力遮断結界を描きこんでいった。
地面に魔王の人差し指で図形を描きこみつつ、同時に複雑な魔力を流し込んでいく。
簡単な魔力操作ならドラゴニュートの状態でもできるけど、魔王の一指し指は操作できる魔力の精度が段違いだ。
例えるなら、ドラゴニュート状態の人差し指は、筆で米粒に複数の文字を書くことができるレベルの精度。日本には、そういう細かいことができる職人芸の持ち主がいたから、そんな感じだ。
一方魔王の人差し指の場合、ナノ単位以下での精密さが求められる、電子回路を組み立てるようなレベルでの精度を持つ。
米粒に文字を書くのは十分に精密な作業だけれど、電子回路レベルになれば、もはや人間では実現不可能な精密さが要求される。
そういうレベルでの精密な魔力の操作を、魔王の人差し指ならばできた。
そうしてほどなくして、魔力遮断結界の魔方陣を描き終えた。
「うんうん、問題はないようだ」
指先に魔力でできた塊を作り出し、それを魔方陣の外へ向かって発射。魔力の塊は結界に激突すると、パンと音を立てて消滅した。
これでもし魔力関係の事故が起きても安心だ。
少なくとも魔方陣の外まで、被害が出る事はないだろう。
――GYAAAAOOOOO!
安全確認をしたところで、マザーが鳴き声を上げて家へと帰ってきた。
さあ、作業はここまでにして、今日もご飯を食べるとしよう。
母屋に戻り、我が家の初期から存在している木造の巣で、兄弟そろっていつものように食事。
のはずだけど、兄弟たちは皆僕から少し距離を撮った場所に固まって座っていた。
「みんな、どうしたの?」
既に魔王の人差し指は解いているので、怖がられるはずはないのだけど。
「なあ、レギュレギュ。あの指の気配が、母屋にまで来てたんだけど……」
母屋と研究室の間には500メート目の距離があるのに、それでもダメだったらしい。
「んー、まあ、そのうち慣れるから大丈夫でしょう」
「をぃ、全然大丈夫じゃねえ」
「まあまあ、どうせビビるのは最初だけだから」
ミカちゃんに思い切り反論されたけど、僕は気にするなと言っておく。
だって、これから始めるグラビ鉱石の研究では、魔王の人差し指をどんどん使っていく予定だ。
だったら慣れてもらわないと、研究ができなくなってしまう。
ところでミカちゃんにして既にこのような態度をとっているわけだけど、マザーの様子もいつもと違ってちょっとおかしい。
超巨大なマザーが周囲に視線を向けながら、何かを警戒するように緊張感を漂わせている。
「マザー?」
このマザーが警戒するほどの事態なんて何もないのに、どうしたのだろう?
巨大なサイクロプスだろうが、海中にいる超巨大生物だろうが獲物として運んでくるのがマザーだ。
そのマザーが警戒するほどの生き物なんて、この家の周辺にはいないはずだ。
――GULULULULULULU
気難しい鳴き声を上げつつ、マザーが鼻をヒクヒクと動かす。
身長120メートルのドラゴンが鼻をひくつかせると、それだけで僕たちのいる場所にまで、風が起こるほどだ。
やっはりマザーのでかさは半端ない。
『……レギュちゃんから、変な気配がするわ?また変な物とか作ってないわよね?』
マザーの言う変な物とは、主にアンデットの事だろう。マザーはスケルトンを見るたびに、いつも変なもの扱いして踏み潰している。
あと、僕たち兄弟以外の生き物がいた場合も、踏み潰している。
そのせいでドラドが初めてドラゴニュート化した時なんて、マザーに変なもの扱いされて、あわや潰されかけたことがあった。
「変な気配って、もしかしてこれのことかな」
マザーの勘が鋭いな。
僕は再度変身を使って、人差し指を魔王の人差し指へと変えた。
「ヒギィーッ」
その途端、兄弟たちが一斉に地面に突っ伏して、ガクガクと怯えだす。
あ、いかん。
いきなり使っちゃダメだったのを忘れてた。
『レギュちゃん、また変なことしているのね。相変わらず器用というか、うちの子供たちはみんなお母さんが考えもしない事ばかりしているけれど……』
我らの偉大な母は、そこでブツブツと文句を言い始める。
っていうか、僕たちがしていることって、マザーの考えの外にある行動ばかりなんだ。
マザーには、文明を理解してもらえないのだろうか?
なんて思ってる間に、マザーのつぶやきは終了。
『その指はちょっと危ないから、あんまりしちゃダメよ』
「うん、わかってるよマザー」
注意されたので、大人しく従っておく僕。
もちろんマザーのいない間に、グラビ鉱石の研究でしっかり使いまくらせていただきます。
バレなきゃ問題ないないのだ!
それにしても魔王の人差し指が、超巨大ドラゴンのマザーまで警戒させてしまうとは、これは僕も予想外だった。
なお、この後は兄弟そろっていつもの食事になったけれど、兄弟たちは僕の傍に来ないで、常にビクついていた。
これは僕がミカちゃんを半殺しにした時以来の怯えられ方だね。




