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異世界転生したら七つ子の竜人(ドラゴニュート)兄弟だった  作者: エディ
第3章 第2拠点と不死者(アンデット)
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126 魔王の人差し指(サタンフィンガー)

 前回に引き続き、研究部屋の強化の続きだ。


 壁の方は劣化黒曜石で物理的に強化したので、次は内部の魔力(マナ)を外部に放出しないようにする、"魔力遮断結界"の魔方陣を描くとしよう。

 研究中に魔法的な爆発が起こった際、この結界があれば被害を抑えるのに多少役立つ。

 爆発なんてものは起こさないのが一番だけど、安全対策の一環として、やっておいて損はないだろう。


 ただこの魔法陣は、普通に地面に図式を刻めば完成というわけではない。

 図式を描く際、高度な魔法操作が必要で、それをするためには今の僕では無理だった。

 ただし高度な魔法操作を行う方法はちゃんとある。


 例えるなら、さっきミカちゃんがノミを使って石像(フィギュア)を掘っていたのと同じだろう。

 ドラゴニュートの力なら劣化黒曜石を手で壊すことができるけれど、削ることは手ではできない。

 削るためには、道具のノミが必要だった。



 なので"魔力遮断結界"を描くのに、必要な道具を揃えればいいわけだ。


 僕は両手を目の前に持ってきて、人差し指を凝視する。

「レギュレギュ?」

 人差し指を眺めたまま黙っている僕を見て、ミカちゃんが不審に思って声をかけてきた。

 けれど、僕はそれに答えずに集中。


 これから行うのは魔法。

 いつもドラドに掛けている変身(メタモルフォーゼ)、それを身体の一部分にだけほどこす魔法だ。


変身(メタモルフォーゼ)魔王の人差し指(フォーム・サタンフィンガー)

 僕の人差し指が人間(ドラゴニュート)の形から変化して、細長く伸びた硬質の黒い指へと変わる。


 その指は明らかに人間の指とは異なり、細く長い。

 まるで黒曜石のような黒い色をして、そこから放たれる威圧感はただ物でなかった。


 ……ふむっ、前世の僕の体の一部だけど、まさかここまで威圧感のあるものだったとは驚きだ。


 変身(メタモルフォーゼ)は、自分の血に関係した者へ変身することができる魔法。

 そして転生者である場合は、前世の姿などに変身することもできる。

 今回僕はメタモルフォーゼを人差し指にだけかけて、前世の魔王だった時の指へと変えた。


 ――ダバダバダハ

 僕がしばらく前世の自分の指を見ていたら、変な音がした。


 何かと見たら、ミカちゃんが顔面蒼白になって、お漏らしをしていた。


 おいおい、ミカちゃん。

 外見はともかく、中身はいい歳したおっさんなんだから、お漏らしはやめてくれ。


「ヒィ、ウアァァァッ」

 そしてユウは、なぜか地面に両手をついて、倒れ込んでいる。

 なんだか顔から尋常でない量の汗が流れ出しているけど、どうかしたのか?


 ――ペタンッ

 レオンはなぜか両手で頭を覆い、地面の上に倒れるようにして寝っ転がっている。

 フレイアとリズは尻もちをついて、倒れている。

 3人とも体が、小刻みに震えている。


 特にリフレイアとリズは僕の方を見ているけれど、その目には怯えと恐怖しか浮かんでいなかった。


 一体、どうしたんだ?


 そして最後にドラドだけど、家にいる時はいつもメタモルフォーゼでドラゴニュート形態になっているのだけど、「バフンッ」と音を立てて、メタモルフォーゼが解けてしまった。


「おうっ!」

 直後、辺りが煙に包まれると共に、ドラドが元の大きさに戻ってしまう。

 身長1メートルちょっとの大きさから、その10倍近くの大きさへ戻ったせいで、ドラドが研究室の壁に挟まる。

 同時に僕たち兄弟全員も、ドラドと壁に挟まれてしまった。


「おい、ドラド。いきなり元に戻るな!」

 ドラドと壁のサンドイッチにされて、僕は怒る。


「ギ、ギャア、ギャオオンーー」

 だけど僕の声が聞こえていないようで、ドラドは悲鳴に近い雄たけびを上げていた。


 ドラドはこの場から逃げ出すように、ジタバタと身をよじり、研究部屋から無理やり体を引き抜いて、外へ出て行ってしまった。


「一体なんだ、ドラドの奴?というか、皆どうしてそんなに怯えてるんだ?」

 ドラドにサンドイッチされて皆も大変だったはずなのに、そんなことなどお構いなしで、皆ガクガクと震えている。


「……」

 僕は兄弟全員を見回す。

 ミカちゃん、ユウ、フレイア、レオン、リズ。

 そしてドラドは、部屋の外から顔だけ除きこんで、恐る恐る室内を見ている。


 それから僕は、自分の魔王化させた人差し指を眺めた。


 この人差し指だけど、明らかに違和感しかない。

 前世の僕の体の一部のくせして、今世の僕でも理解できるほど、強烈な違和感がある。

 ただ僕にとっては違和感で済んでいるけど、これは兄弟たちにとって……



 もしかしてドラゴニュートでもビビるくらい、この手ってヤバいのかな?


 そこまで考え至った僕は、魔王化させていた人差し指の魔法を解いて、元の指に戻した。



「ヒッ、ヒイッ、なんだよ、今の明らかにヤバいなんてレベルじゃなかったぞ。ヤバすぎて、小便ちびっちまったぞ……」

 指を元に戻すと、それまで固まっていたミカちゃんが、涙声になりながら叫んできた。


「あー、やっぱりヤバかった?」

「ヤバいなんてものじゃない。心臓を握られたかのような怖さがあったぞ」

「まるで体が凍り付いたかのように、動けなくなった……」

 ミカちゃんとユウが、いまだに怯えを含んだ声をしている。


「ううっ、レギュ兄さん。凄く怖かった」

 レオンは半べそ。


「凄いドキドキしました。あれが恋……」

 フレイアは額に冷汗を浮かべつつも、なぜか顔をほんのり赤く染めている。


 何か壮大な勘違いをしていないか?

 心臓がドキドキすれば恋というのは有り得る話だが、恐怖を感じている時にも起こることだぞ。


「レギュラス兄上は、やはりとてつもないお方です。気配だけで、身動きすらできなくなりました」

 リズは怯えを含みつつも、僕に尊敬のまなざしを向けてくる。

 こういうのを畏怖と呼ぶのだろうけれど、そんなに凄かったかな?


『もう、怖いのないよね。さっきの気配はないよね……』

 部屋の外から覗き込んでいるドラドは、おっかなびっくりしていた。



「あー、皆。なんかゴメン。驚かせちっゃたみたいで」

「馬鹿野郎。驚かせたで済むか。俺、マジで死ぬかと思った!」

 さすがに気まずさを感じで謝ったら、ミカちゃんに怒鳴られてしまった。


 うーん、前世の僕はとてつもない気配を、常時纏っていたから仕方がないね。

 前世ではアレが普通だったけど、まさかアレに僕の兄弟たちがここまで怖がるとは、予想していなかった。


「今後は魔王の人差し指(サタンフィンガー)は、皆がいない時に使うようにするよ」

 今回は僕が大失敗をしでかしてしまった。


 ここまで兄弟たちがビビるのは、ミカちゃんがこの世界の事をゲーム感覚でいたことが発覚して、僕が半殺しにした時以来かもしれない。



 前世の僕の人差し指。

 そこまでおっかない気配を放ってたか。


 ゴブリンとか砂蜥蜴や土狼に攻撃されても、全く無傷で済むドラゴニュート兄弟たちなのに、魔王の指の気配だけでここまで怖がるとは思わなかった。


 前世の僕って、どんだけ危険な存在だったんだ?

 まあ魔王だから、当然滅茶苦茶ヤバイ存在だったのは間違いないけど。


 ハッハッハ。


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