124 番外編、超越者しりうす・あーくとぅるす (シリウス視点)
――ガチャガチャガチャガチャ
クルクルと回るスロットを見つめているけど、これは酷いね。さっきから全然当たらない。
詐欺じゃないの?
ちっとも絵面が3つ揃わない。
スロットのコイン1枚が100ドルするくせに、酷いぼったくりだね。
せっかく100枚分換金したのに、もう残りが10枚しかないよ。
あ、どうも。
自己紹介が遅れました。僕の名前は肥田木昴って言います。
別の世界だと、シリウス・アークトゥルスの方を名乗っていることも多いけど、ここは地球型の世界で、僕は日本人として生まれたので和名を名乗ってるわけです。
今頃別の世界で弟子のレギュラスや、僕を嫉妬神として崇拝している次郎が、ドラゴニュートとして暢気に生活してるだろうけど、そんな些事はどうでもよろしい。
「あへええー、砂糖が、砂糖がなくて、死にそう……」
当たらないスロットも問題だけど、それ以上に大問題なのが、砂糖がない事。
わざわざアメリカのラスベガスにまで来て、高額ぼったくりスロットで遊んでいるのに、その僕としたことが糖分を忘れてしまったよ。
僕が生きていくうえで、生命活動の原動力である砂糖様。
なのにポケットの中に入れていた飴玉は、全て食べ尽くしてしまい、胸ポケットに入っていたチュッパチャプスも、さっき舐め終わったので終わってしまった。
ああ、ああ、砂糖を砂糖をおくれ。
でないと僕は死んでしまう。
「ミッチー、砂糖プリーズ。一体どこまで買いに行ってしまったんだー!」
僕はスロットにコインを突っ込みながら、買い物に行った相棒が未だに帰ってこないことを嘆いた。
「HAHAHA、帰ってきたぞ、スバルー」
なんて叫んでたら、我が相棒にして、脂肪でブクブクに太ったデブのミッチーが、キャラメルコーンの入ったボックス片手に帰ってきた。
遅いと思ったら、映画でも見ていたのかな?
アメリカでは映画を見ながらのキャラメルコーンは当たり前。"ザ・常識"だ。
少なくとも僕の場合、カエデシロップまみれでベタベタのキャラメルコーンを食べながらでないと、映画を見ていられないよ。
「ミッチー、砂糖だ。今すぐ糖分を……」
「OKOK、そんなに慌てなくても飴玉はなくならないぞ」
「飴よりも先に、そっちの甘々なキャラメルコーンを頂戴」
「ほらよ」
――ハグハグ、モグモグ
「おっ、おおおおっ。糖分が体の中を駆け巡る、頭に生命の力がいきわたる。ああ、僕はこの世界に生まれてきて、これほどよかったと思えることはない」
「HAHAHA、もっとコーンならあるぞ。遠慮せずどんどん食べろ」
「わっほーい」
てなわけで、遠慮なんて無用で、キャラメルコーンを食べまくった。
ああ、幸せだ。
僕、砂糖の為なら世界征服でもできる。
まあ、征服したからって、それで何か得するものなんてないけれど。
そもそも世界征服するぐらいなら、沖縄かブラジル辺りに土地を買いまくって、そこでサトウキビ畑を作った方が遥かに砂糖を食べられるよね。
ああ、サイトキビ様。僕はあなた様の僕、あなた様の下僕。
砂糖様がいなくちゃ、僕は生きていくことができない。
あ、そうそう。
砂糖様のおかげで復活した僕の眼力をもってすれば、高速で回転している目の前のスロットが、超低速で動いしているようにしか見えない。
まるでコマ送りで動いている動画を見ているようだ。
「ホアー、アチョチョチョチョー」
早速どこぞのカンフー映画の主人公を真似て、スロットのボタンを高速で押していく。
――カシャン、カシャン、カシャン
――パラララ、パラパラ
7の数字が見事にそろい、壮大な音楽が鳴り響き始めた。
「ワオッ、スバル、スリーセブンだぞ。やったぞ、これで僕たちは大金持ちだ。早く、早く回せ、今ならスロットが当たり放題だぞ!」
「分かってるって、砂糖様の力をもってすれば、スロットごとき僕の敵じゃない!」
僕とミッチー、それに周囲でスロットをしていた客たちまでが盛り上がりだし、その後僕は1000枚のコインを稼ぎ出した。
今回のスロットでの収支は、最初の換金分を勘定に入れて+900枚。
実に90000ドルの大儲けだ。
「山分けだ、もちろん僕と山分けだよな、スバル!」
「ああ、もちろん分かっているよ。だからお願い、飴玉を僕に頂戴ー」
「OKOK、ほら、僕たちカウチポテトの味方。糖分だぞ」
「ワッホーイ」
ミッチーが渡してくれた飴玉に、僕は大感激だ。
あ、そうそう。僕はミッチーの事をデブと言ったけど、実は僕もミッチーと似たような体型してるんだよね。
昔は女の子からキャーキャー言われる美形青年だったのに、30歳過ぎたらいきなり太りだして、今では体重120キロ越えのデブ。
おかげで、今では女の子から「キャーキャー」より、「ギャーギャー」って喚かれることがおおいや。
ハハハ、なんでかな?
若かりし頃の僕は、一体どこへ行ってしまったのだろう。
ま、そんなことどうでもいいや。
それより飴玉飴玉ー。
ああ、口の中に入れた瞬間、蕩ける甘さがなんて素敵なんだ。
おまけにここはアメリカだから、飴玉が日本のものより、ものすごく甘ったるい。
「あああっ、アメリカって素敵。僕、この甘い飴玉の為に、アメリカ人になろうかな」
「HAHAHAHA、アメリカ人になれば、いつでも甘々の飴玉くらい食べられるぞ」
よし、日本国籍捨てて、アメリカ国籍を取得しよう!
(はあっ、この人って昔からでしたが、本当に頭が砂糖でできてますね)
そんな僕の脳内で、昔から住んでいる妖精さんが何かほざいてきた。
まあ、ただの幻聴だから、気にしなくていいよねー。




