123 番外編、竜の種類とマザー
竜という物を大雑把に分けると、下位と上位に分けられる。
下位のドラゴンは、飛竜や地竜と呼ばれる。
ただ、これらは本来のドラゴンでなく、竜の亜種と言っていい存在だ。
ワイバーンは体長が5から8メートルほど、稀にだが大きな固体になると10メートルを超えるものが存在する。
たまに火を吐くことができる固体もいるが、上位の竜から見れば非常に脆弱な存在にすぎない。
と言っても、ただの人間から見れば、非常に強力な存在であることに間違いはない。
竜殺しなどと呼ばれる称号を持つ人間が殺している竜は、基本的に大型のワイバーンを殺したものに与えられている。
本物の竜を殺せる人間であれば、それは伝説の領域に片足を突っ込んだような、人を超えた人間だけだろう。
なおワイバーンは基本的に群れを作って行動し、人が調教することで懐くこともある。
竜騎士などと呼ばれる、竜に跨って戦う騎士たちが乗るのが、ワイバーンだ。
一方、土竜は地面の上を走ることに特化した竜の亜種。
馬の代わりに馬車を引っ張っていることがある。
馬より力も持久力もあるが、飼育するためには馬以上に食料が必要で、馬ほど飼いやすい動物とは言えなかった。
性格は基本的に大人しくて、滅多なことで暴れることもない。
それでも竜の亜種であるため、馬よりは扱いにくいことは確かだが。
これらが下位の竜。あるいは、竜の亜種だ。
一方上位の竜になると様々なレベルの物が存在しているが、通常の上位竜であれば、全長が10から50メートルの大きさをしている。
これらは口から炎を吐き出し、空を飛んで人間や巨大な生物を襲って食べる。
気性が荒く、群れでの行動をせずに単独で生きるのが常。
子作りをする際には、母竜と子竜だけで生活をする。父親の方は、母竜に子供を孕めば、あとは勝手にどこかへといなくなってしまう。
一匹狼、アウトロー的な性格をした生き物と言っていいだろう。
この竜より上の存在として、属性竜が存在している。
属性竜も先ほど言った竜とあまり大きな違いはないが、通常の竜と違って、各種属性に応じたブレスを吐き、さらにその属性に応じた魔法を操ることができる。
炎を操る、炎竜。
水を操る、水竜。
風を操る、風竜。
土を操る、地竜。
光を操る、光竜。
闇を操る、闇竜。
通常の竜よりも、属性竜の方が魔法を操れる分だけ強力なのが特徴だ。
そして竜の中には、長い歳月を生き続けて、全長が100メートルを超える超巨大竜が存在している。
これらの竜は古竜と呼ばれることが多く、歳を経た竜と言われている。
あるいは、元々竜の種族のひとつとして、これだけの大きさにまで成長する種族もいる。
ただ、どちらの場合も、古竜と呼ばれている点では同じだ。
ただ古竜に関しては、もはや伝説や神話の領域に片足を突っ込んだ存在で、その姿を見ることができただけで、奇跡と言っていい存在だ。
その血を人間が飲めば不老不死となり、人を超えた強靭な肉体を手にすることができる。
なんて伝説がうたわれるほど。
そしてこの古竜よりさらに上位の存在として、神の如き力を持つ竜、"竜神"が存在している。
翼をただ羽ばたかせるだけで荒れ狂う嵐を呼び起こし、海に巨大な波を作り出して船を海の藻屑へと返す。
口より吐き出されるブレスは、大都市を一撃で滅ぼし、いかなる攻撃をもってしてもその体に傷をつけることはかなわない。
燦爛と光り輝く鱗からは、神秘の光がこぼれ出し、その光に触れた者は、浄化の炎によって焼き尽くされる。
古竜ですら神話に片足を突っ込んだ存在であるからには、竜神とはもはや神代の世界の住人。
というか、そのような存在が実在しているのかと疑うほど、眉唾物の存在と言っていい。
さて、ここまでが竜に関しての簡単な種類分けだが、僕たちのマザーは一体どのレベルの竜だろう?
まず下位の竜でないのは確定だ。
マザーはワイバーンみたいに非力な存在でなく、明らかにマジものの竜。
それも属性竜よりもさらに上、少なく見積もっても古竜の次元にある竜で間違いない。
ところがこのマザーから生まれた僕たちドラゴニュート兄弟は、それぞれが属性竜の性質を持っている。
僕は、風竜。
ミカちゃんは、光竜。
ユウは、闇竜。
フレイアは、炎竜。
レオンは、水竜。
リズとドラドは、地竜。
すべての属性竜の性質が揃っている。
普通、片親が属性竜から生まれてきたドラゴニュートは、親と同じ属性の性質を持つようになる。
人間と炎竜が子供を作れば、炎竜の性質を持ったドラゴニュートの子供が生まれる。
人間と水竜が子供を作れば、水竜の性質を持ったドラゴニュートの子供が生まれる。
という具合にだ。
だけどマザーから生まれた僕たち7つ子のドラゴニュートは、全員が属性竜の性質を一つずつ持っていて、7人の兄弟の属性を合わせると、6つの属性竜の性質を全て持っている。
ということは、マザーはどう考えてもただの属性竜できない。
属性竜がもつ属性は各々一つだけで、炎と水の属性を同時に持っている属性流などというのは存在しない。
例えば炎竜と水竜が子供を産んだとしても、DNAレベルの話において、どちらか一方の属性しか優性遺伝しないからだ。
両方の属性はDNAに刻まれていたとしても、表面に出てくる属性は炎か水のどちらか一つだけ。絶対に両方の属性が同時に出てくることはない。
おまけにマザーの場合は属性だけでない。ユウはヴァンパイアの始祖の性質を持ち、リズも土の属性流の性質を持ちながら、同時に重力操作に長けている。
属性竜の内容だけでなく、そこから外れた要素まで子供たちが持っている。
なお、いまだまだ見たことがない父親が、実は吸血鬼。なんてことはありえない。
吸血鬼は血によって同族を作り出せるが、生殖能力は皆無なので、男女の交わりを持っても子供を作ることができない。
これらの事を考えていくと、マザーの血(DNA)には、これらすべての要素が詰まっていると考えていい。
つまりマザーは、6つの属性竜の性質を持ち、さらに重力操作やヴァンパイアの始祖の性質すら、その体内に持っている。
そして僕たち子供が継承していない、さらに多くの性質を持っているだろう。
「ここまでくると古竜でもありえない。どう考えても竜神クラスになる。でもマザーは、竜神にしては小型すぎる」
竜神に関して、僕は今までに転生してきた人生の中で、一度としてその姿を見たことがない。
ただシリウス師匠の持つ資料を読んで、その存在に関しては知っていた。
神なる力を持つドラゴン。
それゆえになのか、マザーの体内に内包されている性質は、数多くの要素を持っている。
だけど竜神クラスは、最低でも1000メートルを超える超巨大なドラゴンだ。
僕たち兄弟を生んだということは、マザーは既に大人の竜のはずだから、これ以上体が大きく成長することはないだろう。
今の120メートルに達する大きさでも巨大だが、ここからさらに10倍も大きくなるなんてことはないはず。
でも竜神であれば、その10倍のサイズが最低でもなければならない。
「……ああ、絶対に師匠が関係している。
もしかしてマザーって、師匠が人工的に作った竜神じゃないだろうな……」
僕とミカちゃん、ユウの転生には、確実に師匠が関係している。
ならば僕らの親であるマザーに関しても、師匠が関係していても何の不思議もない。
師匠は過去に人造の生物をいろいろ作り出しているので、ひょっとすればマザーもそれに関係している可能性が……いや、関係している以外に考えようがない。
しかしあの人は一体何を考えて、マザーを作りだしたんだか。
まあ、これ以上は考えても仕方ないだろう。




