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121 兄弟たちの新魔法

 ミカちゃんによる訓練があった日の午後。

 今度は僕主導の魔法の訓練になる。

 場所は家の屋上、午前中にミカちゃんたちが剣の練習をしていた訓練場になる。


 訓練と言っても、兄弟たちに簡単に瞑想をさせて、その後は各自自由に魔法を使わせるだけだ。




氷の弾丸(アイス・バレット)!」

 レオンは以前僕が教えた魔法を使えるようになっていた。

 氷の刃が周囲に数個浮かんで、それが離れた場所に置かれている土の塊へと、ドドドッと命中していく。


 以前は水に触れていないと氷を作れなかったのに、それをしなくてもアイス・バレットを打てるようになった。

 実に成長が早いものだ。


「やっぱりレオンには、近接戦より魔法主体で戦った方がよさそうだな」

「えへへーっ」

 僕が褒めると、レオンは尻尾をパタパタさせて嬉しそうにしていた。


 相変わらず、この子は我が兄弟の内で随一の暢気さだ。




 そしてドラドは少し離れた場所で、「ウグググ」っと唸り声を上げている。

 ドラゴンの唸り声なので迫力は十分。


 ドラドの操る魔力が周囲を満たしていき、それから魔法が発動する。

「キャオオー!」

 発動した魔法は、"大地の城壁(グランド・キャッスル・ウォール)"。


 周囲500メートルの大地が一斉に盛り上がり、自宅周辺を囲い込むようにして、土の城壁が作られていた。

 お手軽土木魔法で、これを使えば簡易版城壁が作れる。


 もっとも盛り上がったのはただの土なので、石材でできている本物の城壁ほどの強度はない。

 なので、あくまでも簡易版の城壁だ。


「ドラドは魔法の習得が本当に速いね。ただ、土のままだと防御面ではてんでダメだから、次からは土をもっと圧縮して、岩のように固くできるようにしようか」

『はーい』

 ドラドは元気に返事しながら、たった今作り上げた大地の城壁(グランド・キャッスル・ウォール)を、土魔法を使って崩していった。


 魔法で土の壁を作るのはいいけれど、あんなので自宅の周りを囲まれたら、移動するのに邪魔になる。

 後片付けは、きちんとしておかないといけない。




「炎の弾丸(ファイア・バレット)

 フレイアは以前教えたファイア・バレットを放つ。


 最初に使った時は、弾に込める魔力が小さかったせいで簡単に風で吹き消されてしまった。

 その次に使った時は、魔力を込めまくってナパーム弾と化して、とんでもない破壊力を出していた。


 簡単に消えてしまった方はともかくとして、ナパーム弾をぶっ放すのは勘弁して欲しい。

 狩りであの威力の魔法を使うと、ゴブリンが数十体単位で溶けていくんだよね。


 黒焦げでなく、溶けてしまうんだよ……。


 そして今回放ったファイア・バレットは10発。


 的代わりに置いている土の塊へ飛んでいき、ゴウゴウと炎が土の塊を焼いていく。


 ただその中の一発が、

 ――ドゴンッ

 と、音をたてて、大気を大きく振るわせた。


「フレイア……」

「あらまあっ、また威力調整に失敗してしまいましたわ」


 フレイアの放ったファイア・バレットの1発が、魔力の込めすぎのせいで、土の塊を根元から木っ端みじんに吹き飛ばしていた。

 ナパーム弾の時に比べれば威力は低いけれど、それでも土の塊が完全に吹き飛んでいる。


「ゴブリン相手だと、肉片が残らない威力だね」

「バレット系の魔法は、威力調整が難しいですわね」


 フレイアの炎魔法は、高火力で範囲攻撃を得意としているけど、当人の力加減がまだまだ未熟なのが課題だ。




 ――ドゴンッ

 そしてフレイアの凶悪なファイア・バレットが命中した時と、似たような音がまたしてもする。


「……リズ、何をやったのかな?」

「ハルバートで突きを放ちながら重力魔法の練習をしていたら、なぜかこんなことになってしまいました」

 リズの目の前にある土の塊は、粉々に砕け散っている。

 そればかりか、リズが突きを放っていた延長上の地面がボコりと凹んでいて、それが30メートル先まで続いている。

 地面が、完全に抉られていた。


 どうやら重力操作に失敗して、槍の先から重力派を発生させてしまったようだ。

 重力波にさらされた地面が押しつぶされ、そのせいで凹んでしまっている。


「……さながら"重力砲(グラビティー・ブラスト)"か。

 強い魔法だけど、狩りでは獲物がぺちゃんこになるから注意が必要だね」

「ムウッ、残念です」

 破壊力はフレイアの放つナパーム弾に匹敵していた。

 でも……いや、だからこそと言うべきだろう。

 こんなものゴブリン相手に使ったら、肉片が残らない。

 オーバーキルすぎて、狩りでは使えないね。



 ただ、この光景を見ていたミカちゃんが呟いていた。

「ありえねえ。あんな破壊魔法使っておきながら、なんでリズもレギュレギュも平然としてるんだよ!

 狩りに使えるか使えないかが基準ってのも、色々とおかしいだろ!」

「ミカちゃん、兄さんは僕らと違って次元が違いすぎる魔法が使えるから、平然としてても仕方ないですよ」

「うわあっ、俺の中の常識が崩れていくー」

 ミカちゃんが頭を抱えていて、ユウがなだめる側に回っていた。


 野生児ミカちゃんのくせして、常識という単語を口にいるのはやめてほしいな。




 ところで、そんな話をしているユウだけど、影空間(シャドー・スペース)の魔法を使えるようになっていた。


 ユウは、ヴァンパイアの始祖に、闇の属性竜の性質持ち。

 ちょっと頑張れば、魔王になれるんじゃないかって性質の持ち主だ。


 そんな当人の性質もあり、新たに闇魔法を使えるようになっていた。


 ただ、

影空間(シャドー・スペース)か……」

 僕は物凄く微妙な声にならざるを得ない。


「この魔法って、使い道あるんですか?」

「微妙すぎてないかな……」


 影空間(シャドー・スペース)は地面に黒い影を発生させる魔法で、発生させた陰に物を入れることができる。

 試しに辺りに転がっている小石を陰に放り込めば、次々に影の中へ収まっていく。


「これって物を入れることができる魔法なんだけど……」

「も、もしかしてインベントリか!アイテムボックスか!無制限にアイテムを入れられるのか!」

 僕が説明しようとした横から、ミカちゃんが割り込んできた。

 何やら異世界物小説の定番を口にしているけれど、影空間(シャドー・スペース)はそんな便利な魔法じゃない。


「いや、物は入るんだけど、取り出すことができないんだよ」

「はいっ!?」

 影の中に小石が次々に入っていくけれど、取り出すことはできない。


「なにその一方通行……」

「しかも中の空間がいっぱいになるか、魔法を使うのを辞めると……」


 小石を放り込み続けていたら、影の形がグニャグニャと動き始めて、不安定になってきた。


「ちょっと危ないから離れておいて」

「?」

 首を傾げるミカちゃん。僕とユウはその場から少し離れて退避。


 ――ポンッ

 影が小さな爆発を起こして消滅。

 そして内部にため込んでいた小石が、周囲へ一気に飛び散った。


「うわっ、ぺぺッ。石が口の中に入った。なんだよ、この欠陥魔法!」

影空間(シャドー・スペース)は物を入れることができるけど、取り出せない上に、中がいっぱいになるか、魔法を使うのを辞めると、その途端に爆発を起こして中にあるものを全部ぶちまけるんだ。

 ゴミ箱にすら使えない、役たず魔法だね」


「ゴミ魔法ですみません」

 魔法を使っていたユウは、尻尾をたらりと地面につけて、がっかりしていた。


 でもフォローの入れようがないほど、この魔法は使い道がないので仕方ない。




 ところで、最後に残ったミカちゃんだけど、

「ミカちゃんは何か新しい魔法を……使えるようになったわけないよね」


 我が兄弟随一の野生児にして、静かにしていることが出来ないのがミカちゃん。

 当然瞑想すらまともにできないダメっぷりで、そのせいで使える魔法のレベルは最低。

 未だに光魔法の光球(ライト)しか使えない。


 以前ゴブリン洞窟で、注ぐ魔力量を増やすことで巨大な光球(ライト)を作り出したけど、あれも結局はライトの魔法でしかない。

 単に威力が大きいか小さいかだけの違いだ。


「ヌフ、ヌハハハッ」

 ミカちゃんが落ちこぼれ魔法使いなのは確定しているけど、なぜか気持ち悪い笑いをし始めた。


 どうしたんだろう?

 頭のおかしくなるキノコでも食べたのかな?

 いや、頭がおかしいのは生まれた時からか。

 ひょっとすると、生まれる前の前世から頭がおかしかったのかな?


「レギュレギュよ、俺をいつまでもただのダメっ子魔法幼女だと思わないでもらおう。今回俺は、地球の科学知識を使うことで新魔法を開発したのだ」

「へー、すごいね」

「あのレギュレギュ、棒読みはやめてくれない?」

 ミカちゃんは自信満々な様子だけど、僕は物凄く疑うしかない。

 だって、ミカちゃんだよ。

 このミカちゃんに、まともな魔法を使えるはずがない。


 とはいえ、このまま無視するのも良くないよね。子供には無視するのが一番教育に悪いって話だし。

 ……まあミカちゃんは子供でなく、中身はおっさんだけど。


「それで新魔法っていうのを、見せてもらってもいいかな?」

「おうっ、早速見せてやるぜ!」

 ミカちゃんは元気よく言ったけれど、早速僕の前からいなくなる。


 何しに行ったんだと思えば、ミカちゃんは真っ黒に燃えた炭を持ってきた。

 たぶんマザーが持ってきた御飯をフレイアが炎で焼きすぎて、炭化させてしまった物だろう。


「この炭を使って、魔法を使うの?」

「おうよ。黒くないと俺の魔法は使えないんだ」

「ふーん」

 黒い物限定とか、この時点で使い道のない魔法確定だ。


 なんて思ってる前で、ミカちゃんがおもむろに両手の親指と人差し指を合わせて、円を作った。

 それを炭の上に持ってくる。


 何をしているのかと思ったけど、よくよく見てみると、ミカちゃんが作っている円は、ちょうど太陽と炭の間に位置していた。


 それからあのミカちゃんが物凄い集中力を発揮し、額から汗を垂らしながらも、一言もしゃべらずに、黙って集中している。

 凄い集中力だけど、僕はこの光景を見ながら、頭がクラリとしてきた。


 何をしたいのかこの時点で分かったけれど、これをマジで魔法と言い張るつもりなのか……。



 やがて僕の目の前では、炭から一筋の白い煙が立ち上った。

 それから、「ボワッ」と音がして、炭に火が付く。


「ハーハー。ど、どうだ。俺の新魔法、"光線(レーザー)"は!」

 ミカちゃんが息も絶え絶えに、でも物凄いドヤ顔をしている。


「ミカちゃん、この魔法って小学校の理科でやる、虫眼鏡(ルーペ)で太陽の光を集めて紙を燃やす奴だよね」

「お、おうっ」


 ミカちゃんがやった魔法は、今僕が言った通りの魔法だ。

 ミカちゃんは一応光の属性竜の性質を持っているので、光魔法に対しての適性は物凄く高い。


 だから光を屈折して曲げたり、収束させてそれこそ本物のレーザー光線を放つことだって、不可能ではないはずだ。


 だけど今回やったのは、確かに光を収束させているけれど、ルーペで火起こしをするレベルの魔法だ。

 それも、火を起こす際に黒い物限定とか……。

「ワー、凄いなー」

「レギュレギュ、棒読み過ぎるぞ。この俺がレーザーを打てるようになったのに、その反応はないだろう!」

「あ、うん、そうだね。虫眼鏡光線とでも呼ぼうか」


 ミカちゃんはこの魔法を自慢したいようだけど、ごめんね。ユウの影空間(シャドー・スペース)以上に、ゴミ魔法だ。


「誰が虫眼鏡だー!」

「どう見てもただの虫眼鏡光線でしょう」

 ミカちゃんがご機嫌斜めに吠えるけど、どう見てもショボイから仕方ない。


 やっぱりミカちゃんは、落第生の魔法使いだね。


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